Chapter135-4. Surprise attack
タイトル【奇襲】
市民の会側も準備を終えた今、Soyuzは対ロンドン殲滅のために動き出していた。
ナルベルン自治区の彼らの手を借りたのには理由がある。
Soyuzとしても、ゾルターンの開発に邪魔になってくるであろうロンドンを排除できる点でも利害が一致するためが一つ。
次に、現地の地理をある程度把握できている人間がついており、なおかつ彼らの鎧は強力な魔法を反射することが大きい。
作戦は深夜に行われることで双方の合意が取れ、送り込まれた戦力は対ゲリラ用のものが
ずらりと揃えられ、どれも強力なものばかり。
奇襲用にあつらえた兵器は数多。
ヘリは空飛ぶ装甲の悪魔Mi-24Vを5機。
車両はT-55を5両と、先日現地改修されたシルカが付いてくる。
殲滅用にBMP-Tも同じ5両派遣し、徹底的にロンドンを「叩く」
それにも飽き足らず、市民の会の歩兵に提供する重機関銃KPVも相当数が用意されている。
これらは馬車で牽引する「タチャンカ」として使用し、戦局を優位に保てるだろう。
また作戦を優位に進めるため、天馬騎士には暗視ゴーグルや希望する騎手にはドラムマガジンを付けたRPKが貸し出される辺り、用意周到だ。
銃声に驚かないよう、サプレッサーまで着けられている辺り、サービスの手厚さが伺えようか。
それだけ両者本気ということの表れ。
戦車兵やラムジャーを許さない市民の会などが静かに準備を始めていた。
嵐の前触れというものは決まって静かと相場が決まっている…
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□
ナルベルン自治区近郊上空
——深夜
日がすっかり落ちてからはや何時間が過ぎた頃だろうか。
人々や獣は深く眠り、活動しているのは夜行性のハンター達ぐらいのもの。
今回のロンドン拠点撃滅作戦の本質は如何に敵に動かれず排除できるかにある。
身軽な盗賊はたまり場を叩いたところですぐさま逃げて別の場所で活動を始める。
そうなっては同じことの繰り返しとなってしまう。
重要なのはこの二つ。
如何に気が付かれず駒を進められるか。また察知されて逃げ出すまでの間に全て抹殺できるか。
まずはロンドンの「声」となる航空兵力を叩くため、自治区から3騎のペガサスナイトが暗闇に飛び立っていった。
共に暗視装置を装備しており表情は伺えない。暗闇の暗殺者たちである。
しばらくゾルターンとの間に移動していると、ついに賊と思しき天馬乗りの集団を発見。
おそらく県内から脱走しないか村民を見張る「看守」だろう。
【Sam01、敵を発見】
【N-HQ了解】
だがナルベルン自治区側から地対空ミサイルや対空砲などの寝た子を起こすような真似は出来ない。
選択肢は一つ。撃墜も馬も傷つけず、騎手単体を狙撃するの一択。
槍や消音RPKで武装したペガサスナイトは雲の影に紛れながら迫る。
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□
長い偵察を終えたロンドン組員は所属するベースへと帰投していた。見張る範囲は限られているとはいえ、軍隊崩れの男たちには暇な仕事はトコトン向かない。
デスクワークを終えたサラリーマンのように家路に急ぐ。
「よう」
与太話をしようと声をかけた時には既に遅し。同僚が頭から血を流して死んでいた。
確実に寒気のするようなことが起きているのは間違いない。
「敵だ!お前は増援を呼びに行け!」
叫びながら辺りを見渡すも、暗闇に阻まれて襲撃者の姿は見えない。
それなら相手も同じ筈。敵も星と月明かりだけで正確に狙っていると言うのか。
別拠点に増援を呼ぼうとした組員は消える。
こうなれば頼れるのは自分しかいない。辛うじて利く視界、聴覚、第六感を研ぎ澄ませて
振り向く。
彼が最後に見たのはクモのような4つ目を光らせ、奇妙な銃を持つ「ペガサスナイト」だった。
明らかにロンドン所属の装備ではない、そう考える間もなく鉛弾が飛ぶ。
——TARAP
後に頭へ一発銃弾を受け、物言わぬ死体と化した。
【Sam01 敵を排除】
空に冷たい無線が響く。
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□
伝書鳩を始末した旨が伝わると、ドミノ倒しのように動き始めた。
——VTATATA!!!——VooOOOMM……
闇夜の空気をローターが切り裂く羽音。
自治区に待機していた戦車群が吐き出すディーゼルの排気。そして無数の歩兵が歩く軍靴と鎧が軋んで音を立てる。
それぞれの重さは異なるものの、死神が忍び寄っていることには変わりない。
【こちらCrocodile01。これより一斉射撃をかける】
偵察騎士が寄越した情報を基に、ハインドVは地上のロジャーに向けて連絡を取った。
支援として装甲車両部隊も来ているが原則的に彼が司令官となる。
【Maine Flag了解。期待している】
——BLAAAAASHHHHH!!!!!!———
3機のガンシップから全てのロケット弾が拠点めがけて放出された。夜の中でジェット推進する弾頭はほうき星のように目立つ。
ZDAAAAAASHHHH!!!!!
遠方からの支援砲撃を合図にして、ロジャーは無線機で戦車に指示を出しながら雄叫びを上げる。
殺し合いにおいては士気が命。
波が全てのものを浚っていくように、全てを破壊するのだ!
【Maine Flag 突撃開始】
「突撃開始!」
船の汽笛のように響く声。まずはニェムツィが両首から上向きに炎を吐きながら前に出る。
漆黒の闇を照らす灯、現代における照明弾の代わりとなるだろう。
一撃必殺のファントンが大きな街頭に飛んでこないよう、すかさずアーマーナイトがフォローに入りながら前進を始めた。
もうロンドンを恐れる時代は終わり、これからは「狩り返す」時代が幕を開ける。
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□
突如襲撃されたロンドン拠点。
それも寝静まった中の夜襲だったため、迎撃する戦力は昼間と比べて劣ってしまう。
すぐさま外に警備していたシーフが異常事態を察知したが何もかもが遅かった。
辺り一面に広がる炎。無数に飛び交う弾丸。地獄の窯からやってくる、ラムジャーを許さない市民の会。
背を向け逃げる賊を、丸っこい鎧の重装兵が対装甲斧ニグレードを振り下ろし、頭を叩き割る。
しかしこうも大暴れされてゾルターンを牛耳る悪党も黙ってはいない。
騒動を聞きつけた多くの敵魔導士が応援に駆け付け、火炎をまき散らして暴れるニェムツィやSoyuzの装甲兵器に対しファントンや爆発魔道ヴァドムを放つ!
いかなる体も切り裂く魔法の刃や、装甲兵器でさえも破壊しうる爆風。どれも脅威に違いない!
——FLAP!!!———
だがそれも無意味。
己の弱点は相手ではなく、自分が一番知っている。
アーマーナイトが盾になり、またあるところではシルカの増加装甲に塗られた魔力反射塗料が、魔法の刃をそっくりそのままはじき返した!
跳弾のように跳ねていったファントンは味方であるはずのシーフを両断。
またシルカを襲ったヴァドムも芸術的なまでに反射され、逃げ惑う野盗を跡形もなく吹き飛ばす!
それから逃れた残党はソルジャーの槍によって刺殺される。
——ZDAAAAASHHHH!!!!———ZLADADADADA!!!!!
更に背後からT-55の砲撃やシルカの対地掃射が拠点に降り注ぎ、破壊の嵐は留まることを知らない…
かくして不意打ちに成功した市民の会と、Soyuzはロンドンを足蹴に拠点内部に入ろうとしていた。
激しい火力の暴風を避けるようにして賊はなけなしの壁を盾にしていたが、現代兵器を真にすれば藁の家同然。
ZLADADADADA!!!!!
アジトに殴りこんだシルカの機関砲が火を噴いた。
コンクリートで作られた頑強なマンションであろうと容赦なく貫通する23mm砲弾は無慈悲に木造家屋を残骸へと変えていく!
ロンドンの魔導士が苦し紛れにヴァドムを放つがすべてが無駄。
魔力コーティングが逆に反射してしまい、射手を消し飛ばしてしまうからだ。
反撃のために砲塔を回す事さえ「必要ない」
自爆ゲリラ・犯罪組織・賊。
ありとあらゆる悪党を許さないという怒りが込められていた。
脅威となる飛び道具持ちが居なくなった今、市民の会のソルジャーが一斉になだれ込む。
積もり積もった恨みと憎悪。拠点を燃やしている炎はそれが具現化したかの様。
榴弾の炸裂する鈍い音と肉をうめき声が星空に消えていく。
いかに正義を掲げていようとも、ここ地獄に違いない。
掃討は続く。その真っ赤に燃える怒りが収まるまで…
登場兵器
・タチャンカ
後ろ向きに機関銃を付けた台車を引く多頭馬車。
自動車がまだ普及していなかった頃、重いマシンガンを高い機動力で動かせるという強さは言うまでもないだろう。
今回の作戦ではアーマーナイト対策に14.5mm機関銃を積載している。重量がかなりある代物なため、重心が自ずと後ろに向く。
狙いはもちろんの事、馬車を「どう動かす」かは騎手の腕にかかってくる。




