Chapter135-2. Lost Technology
タイトル【ロストテクノロジー】
——ナルベルン自治区
話をゾルターンから一歩手前に戻そう。
ここは古代の謎が多く残り、そして疑問を呈する地「ナルベルン」
神々の手によって文明が滅ぼされた、とされているがスナック感覚で意思をもつ生命体を滅ぼすだろうか。
天界の人間は非情というが、いくらなんでもそれには訳があるに違いない。
コルテスは滅ぼされるに至った要因を調べるため異次元で出会った現地研究家、もとい相棒のチレイグに話を聞いたが、どうやら見込みがあるらしい。
超古代の産物がそう簡単に残っているものだろうか。
「…一つ、お前は思い過ごしをしていると思う。ここは【虐げられてきた】ヤツらの吹き溜まりだってことだ。俺みたいに軍にもギルドにも入らず古代を知ろうとするやつは皆気味悪がったもんだ、ここに居れば何をしようが誰にも文句は言われないからな」
過去4度あった隣国ガビジャバンでの戦争。
その捕虜や敗残兵、逃亡してきた人々がこの地に住み着いたという過去がある。
当然、敗北者は虐げられるのは言うまでもない。
実際のところ「ガビジャバン式」のモノが多く点在しているが、そこがコルテスにとって盲点だったと言えようか。
遺跡ではなく、少数民族が住む場所としてみたら。
今まで見えてこなかったものが見えてくるだろう。
「…確かに。まさか古代語の話者か?」
「違う。ちょっとした知り合いだ。その筋には自信がある、な」
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そう言ってチレイグがラボを飛び出していったはいいが、もう30分近くになる。
時間つぶしのインターネットサーフィンも使えない異世界ではとにかく暇。
現地語を解読するために書籍を読んでいると、遠方から地響きがする。
——Zoom…Zoom…——
何事かと思って扉を開けると、そこには怪獣が立っていた。
その姿は4mあろうかという二首の竜のようで、下半身は非常に大木のようにどっしりと構える。
胴体から生える二本の首はそれぞれ特徴が違い、右はヒレのようなものが生えており、左はすらりとした印象を覚える。
腕は恐竜のように細長く、先には鋭利な爪が3本。
生理的に受け付けない不気味さを放つ恐ろしい化け物ではないか!
恐るべき姿を前にチレイグは淡々とこの怪物について紹介しはじめた。
「コイツはニェムツィ。古代に作られた生物融合兵器の生き残りだ。言っとくが、雑に火竜とワイアームを混ぜたとか失礼な事をいうなよ。記録によれば最低あと8種類は混ぜられているらしいからな」
コルテスは背筋がゾッとした。
チレイグ曰く生き残りだというのが本当なら、古代の人間はパンケーキを作るのと同じ感覚で生物を合成して量産していたのだろうか。
それを続けて私利私欲を満たそうとすれば神は激怒するに違いない。
人間という生き物は正義と欲望を糧にして全ての生命を根絶やしにしようとした前科がある。
融合技術が禁忌にされるのも無理ないだろう。
「首が足りないじゃないか」
あっけにとられたコルテスは口から言葉を垂れ流した。
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生まれてこの方人間以外の知的生命体に遭遇したことのないコルテスだが、ニェムツィの見た目にも慣れてきた頃。
彼と呼んで良いのか分からないが、地面に文字を書き始めた。
脇で思い出したかのようにチレイグは語る。
「言い忘れてたな。ニェムツィは個人名じゃない、種族の名前だ」
「それまたどうして?」
下に記された文字をチレイグが読み上げる。
【我々はニェムツィ。ヒトを中核部品として遙か昔から引き継がれてきた一族。各々に名前はない、そのようなものは要らない生活を行っていた名残である】
知性を持っているのは人を融合したからであり、古代人が雑に融合させたわけではないという。
それに、名前を失っているのも興味深い。
文明が滅びた後から再生するまでの気が遠くなるような間、野生生活を行っていたのだろうか。
【少しばかり小話をしよう】
するとこのニェムツィは神話の後日談について話始めた。
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生物をやりたい放題にして暴れていた文明が滅びた後、この一体は砂地になっていた。そこから草が芽生え、山には木が茂っていき自然は少しずつ再生していったのだろう。
この際、文明が継承されず、生き残った人類や突如として転移してきた人々が今のゾルターンやファルケンシュタイン帝国にいる人間であると語る。
時代をまた、0から始めてしまった代償だ。
また残った自分たちのような生物融合兵器は二世代目人類の手によって狩りたてられ、その数を大きく減らした。
何を隠そう、魔導の一つ「ファントン」の前では肉の鎧を紙の様に切り裂くからに他ならない。
名前だけはコルテスの耳にも聞き覚えがある。
なんでも、有機物であれば硬さを一切無視して切り刻むことが出来る実体のない魔法の刃らしい。
如何に硬い甲殻や、分厚い皮膚で防ごうが、遠距離から首を撥ねられればひとたまりもないだろう。
それ故に種族単体で今なおギルドの討伐対象になっており、難民として転がり込んで今に至る。
自治区はそんな絶滅危惧種の彼らが集まる場でもあるのだ。
ニェムツィは続ける。
【ここにもギルドはあるが、我々を目的にはしない。…恨むべき人間の分別はしている。それに中身はチレイグ同様の人間であることを忘れるな。】
流石に恨む人間の分別はつけているそうだが、やはり「人」を材料にしたことは大きい。
これだけ理性的だとしても、その怪異な体が全てを狂わせる。
どれほど世知辛い生涯を送って来たかは言うまでもない。
【…辛気臭いのはやめよう。しばらく籠っていたが、まさか次元の向こう側から人間がやってくるとは夢にも思わなかった。この出会いは古代でも有りえなかっただろう】
開幕から好印象なのはここを抑える時にSoyuzの交渉人が上手くやったからだろうか。
調査がしやすくてありがたい。
例とは言っては妙であるものの、コルテスはこれまでのあらましを話した。
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曲がりなりにも帝国のギルドから狙われている身であり、当然ながら情報に疎かった。
少し考えるような仕草を見せると文字が地面に書かれていく。
【そうか。…しかしその状態では神代の儀式は誰になる。どちらにせよ降りて来た神の使者は帝国側にある以上、敵が神の力を使ってきても何らおかしくはない。奴らと敵対している以上これだけは気を付けておいてくれ。】
妙に古風な文字が並ぶと、短くこう添えてある。
【チレイグ、美人の彼女はどうしたんだ】
音無き一言を見て、チレイグは大きくため息をつき視線を反らした。
「…ロンドンにさらわれて行方知らずだよ、クソッ。俺だけじゃないさ、そんな奴ここじゃ何人もいる。泣いてもいらやしない」
国際犯罪組織ロンドン。その魔の手は少なからず自治区に大きな影響を与えている。
もう少し早ければ。ありもしない未来をコルテスは望んだ。
かくして張本人であるラムジャーが絡んでいると知り、ついに溜まりにたまった憎悪が爆発。
ラムジャーを許さない市民の会なる組織が誕生したのかもしれない。
此処が戦場にならない事を祈ることが、学術旅団の人間として出来ることだろう。
そうして21世紀の人間がもたらしたデモクラシーが新たな火種を生んでしまった。
ゾルターンの最前線で冴島達を救うことになるのだから、この世の中はどうなるのか分かったものではない。
たとえ支援相手でも思想違い1つで容易く傷つける諸刃の剣を、果たしてSoyuzはコントロールできるのだろうか…?




