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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-5.  ゾルターン後編
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Chapter132. Awakening

タイトル【目覚め】

村での戦闘終結後、住人たちは久々に生気を取り戻した一方、あの男も気力を取り戻しつつあった。


居住ホールに死体めいて寝かされていた冴島の指が動きはじめたではないか!


心臓の脈動も強く、大きく、回数も増えていく。

つまり、少佐は電撃を食らった際、咄嗟に仮死状態へと入り、細かな損傷並びに自己修復に専念していたのである。


パソコンで言うところのブルースクリーンからの再起動に近いだろう。



しかしそれでも3日はかかるはず。

老師という男が掛けてくれたンドロメなるまじないが回復を加速させてくれた。


さしずめ銃弾を加速させる長銃身のように。


容体を見ていた初老の男は冴島の覚醒を見届け、声をかける。



「起きたか。」



「あの後……俺はしばらく寝ていたようだ。貴方が治療を?」



まるで再起動後のテスト項目をなぞらんと言わんばかりに少佐は首や手首、足首といった関節部を動かし異常がないかを確かめる。


特段違和感はなく、むしろ勝手が良いくらいだ。

反射的に感謝を口にするも、老師は瞼を深く閉じてからこう返す。




「貴公の部下が言っていたようなことを言うのも難だが…その礼はヘトゥに言うべきだ。

それと、コノヴァ…何とか言ったか。状況を飲み込みたいだろうが、しばらくは諦めた方が良い。お二人とも神の使いだと祀り上げられているからな。」



その言いようではこの男は事のあらましを知っているようである。

また、あえて何故自分を神として祀り上げないのかは聞かなかった。



自身が顕示欲のために戦っているのではないし、彼の言葉はどこか芯があったからに他ならない。

根拠もなにもない、ただ何かしらを極めた者として通じ合ったのか。


少佐はソ・USEを取り出すとコノヴァレンコに連絡を取った。



【こちらLONGPAT、crazy taxi応答せよ】




「あぁ、コノヴァレンコと言ったか。珍妙な箱を片手に踊りに行ったよ」



老師は冴島にそっと釘を刺す。


その言葉に彼は聞き耳を立てる。

風の音に混じり、それさえも押し返すような音量で電子音が流れているではないか。


ヤツのハードバスで間違いない。


即時応答がなかったのは踊り狂っていたからだろう。気分がいい時はこう踊るんだとか抜かしこっそり持ち込んでいた機器で音楽を流しているに違いない。


凡そ察しがつく。







————————





狂乱した人間の統率は自分よりも中尉の方が向くだろう、そう判断した冴島は老師にこう問う。



「ヘトゥ…氏というのはどこにおられるのです?」



「あぁ…アイツなら…どこに行ったかねぇ。ま、あんたみたいなのは目立つからうろついていれば出てくるさ」



戦いの狭間、クレバスのように現れた平穏。そんなのもたまには悪くないものだ。

と言ってもやることは残っている。リハビリがてら村をうろつく合間にすればよいだろう。



【LONGPATからHQ応答せよ】



こういった場合、即座に応答するものだが応答が遅い。状況的に電波状況が悪い訳ではないようだ。となると回線を切り替えていると見て良い。



【こちら内勤マディソン、現在中将は専務と野暮用……あぁ!? ジマさん生きてんじゃないすか! 電撃くらってそのまま気を失ったと聞いた時はついに自販機の事がバレ……】



【お前、俺が死んだと思ってたのか。人聞きが悪い話をするな、自販機の事はもう中将も知ってる。知らないのはお前だけだ】


【へ?】





——————





 マディソンに残酷な真実を突きつける傍ら、安否確認を終えると事態がどう転んでいるのかを確かめるべくホールを出た。



カカリコ村とは異なり、畑の数は少ない一方で家屋が多くみられる。

形状からして人が住めそうな程立派なものではない。その上馬をつなぐ設備や空荷の馬車が点在していた。



Z-01が生産所なら、ここはターミナルと言うべきか。



倉庫には手を着けられておらず、略奪目的の虐殺ではないだろう。

人的リソースを使わせたくなかったのか。


老師と言う魔導に長けた人間と、作業員に転用できる村人。常に人手が足りない軍隊において絶好の資源。



そんな深いことを考えながら歩いているのも悪くない。考えているのは仕事のことばかりだが、気休めにはなる。



「あ。ずいぶんよくなったんですね」



ふと、不意に声を掛けられた。弟子だという女性ヘトゥだという。



「こんなくらいじゃ俺は死なない。ともあれ、礼を言わねばならん。感謝する」



握手の代わりに拳を突き出した。この世界における感謝のニュアンスだったはず。


うろ覚えながら、不器用にコミュニケーションを試みる。


「真面目なお方なんですね、——じゃなくて、もっとこう、言いたいことが…」



まるで告白シーンを切り出したかのような言動に少佐は左眉を上げる。

そもそもな話、この堅物男に甘酸っぱい青春などあるものだろうかはさておき、何か言いたいことがあるようだ。



「——老師様に出会ってから今まで、この魔導の力を教わるばかりで。

ただゾルターンでいた私でも役に立てるんだって、そう思って。違う、何が言いたいんだ。ごめんなさい私口下手で。ともかく。初めて治癒の力を人のために使ったのは初めてで、もっと…貴方がたのお役に立ちたいと。」



 気持ちが暴走してしまっている。若いころの自分もこうだった。

冴島はそう思いながらも鋭く現実を突きつける。



「夢を見るのは良いことだ。これから俺たちが踏み入れるのは地獄だ、こんなのほほんとした場所じゃない。人が虫けらのように死んでいく…そんな世界だ。肉が腐り、叫びで満ちたこの世の終わりに足を踏み入れる覚悟はあるか。」



戦場は本来平和な人間が来てはならない場所。

どれだけ戦士の舞台だのと美化されていようとも、同族が同族を殺し合う空間でしかない。血で血を洗う正に地獄。



血肉の池に飛び込む勇気がある人間だけが来れる場所でもある。

何人もそこで人生を無駄にしてきたところを少佐は見てきていたからこその一言だった。




「——覚悟はできています」



少佐はそう言うだろうと踏んで、あえてヘトゥの目を注視した。

過ごしてきた環境、経験や思念と言ったものが眼差しに否が応でも出てくるもの。

冴島は彼女の奥底を覗くと、あるものが浮かんできた。



深い、深い深淵のような瞳。

既に自分は死んでいるも同然と言いたげだ。



どれだけ働いても報われない希望のない世界に生まれ育ち、心の支えにしていた数少ない人間は苦しみぬいて先に行ってしまう。そんな果てしない絶望。



「…正規雇用するには書類と時間が必要だ。焦らないでほしい。」



それでもヘトゥの目は生気を失っままだった。






—————————




 

「この曲が流れてるなら 俺もお前も関係ない 俺たちは全てだ」



加速した電子的重低音がラジカセから放たれ、その中でコノヴァレンコは村人を集めて踊り狂っていた。

アナログなソニー製故に電池で動き、放映されているラジオも受信できるからか。


はたまた彼のチョイスだろうか。



狂乱している中、川に投げ込んだように冴島が現れるもコノヴァレンコは一端音量を下げ、踊り続けながら要件を告げる。



「あぁ、少佐じゃないですか。あの後増援を要請したんですよ。与り知らぬ敵が来たら間違いなく対処できないでしょうし。で、昨晩は航空目標と交戦しました。

調査したら正規軍のものではく、大方ロンドンが掃討に来たんでしょう。最も統率が取れていない非正規の連中ですから?依然目的は不明なままですが」



長々と状況説明をする中尉によくもまぁ息が続くものだ。冴島はそう思う。

兎も角、増援が要請されたことは確かだ。


しかし懸念は晴れない。

正規軍、あるいはロンドンがこの村に攻撃を仕掛けてくる可能性が拭えないのである。





——————





航空偵察に関しては再要請しなければならないのは当然として、問題はロンドンの異様なフットワークの良さである。


偵察機を飛ばす前にやってくるのもあり得る話だ。

多少オーバーかもしれないが、ゲリラはこういったチャンスを絶対に逃さない。



改めて考えると連中には非正規兵と言う厄介な属性が付いている。

構成員はゾルターン全域に散らばっていることに加え、未だ拠点が発見できていない。


故に組員をどれだけ締め上げたとしても意味がなく、害虫のように一網打尽にする必要性が出てくるだろう。


そこで少佐は手を打っておくことにした。

中東ゲリラ退治の専門家から放たれる一手は鋭い。






—————————





 冴島は早速コノヴァレンコやBTRのクルーを集め作戦会議を行った。



「ここに来てからあのお喋りガンテルが口を開いた所を見てねぇ。ヘリん中でもそうだったじゃねぇか、気味が悪ィ」



小さな声でグルードはパルメドに耳打ちする。

程よく屑で口うるさい男が黙りこくる状況。最早ホラーか世界の終わりと言ってもいいだろう。



「ハリソン以上に酷い有様を目の当たりにしてるんだ。あまり言ってやるな」



いくら癪に障る戦友だとしても彼も立派な人間だ。


戦う理由の大半はマリオネスへの復讐だが、もう一つはかつてハリソンをこれ以上出さないためでもある。


曲がりなりにも志が高いままゾルターンの惨状を見て、強い虚無感を抱いたのではないのだろうか。


どんな輩でも放っておいてほしい時もあるだろう。

そうパルメドは察していた。



「この作戦の目的は脅威となるロンドン拠点の排除だ。連中は非正規の無法者、手心を掛けるな。夜間に航空戦力が出てきたこともあり、レーダーに捕らえられた敵機をトラッキングの後にガンシップで奇襲する。その間、スタッフは村の警備にあたれ。」



そんな中、冴島は作戦内容の説明に注力する。

既に以東の村には人員と共に既にBMP-Tらが到着し、ガンシップが出払っても戦力として機能するだろう。


この作戦は一見、県内にはびこるロンドンの一部を潰すだけで根本的な解決になっていないかもしれない。


だが村の安全を確立する以上に重要なことがある。


足掛かりとなる第二本部の建造や補給線確保といったインフラ整備だ。



それを阻む大きな関門が一つある。敵対組織()()()()()()()()()


奴らは物取り・強盗・野菜泥棒・カツアゲ・破壊活動・営利拉致と数え切れない悪事を働く国際的な集団だ、何をしてくるか全く予想がつかない。




建設機械師団に対し危害を加えてくることも想像に難くないだろう。

異界の連中は金になると捉えられても何ら不思議ではない。



いくら警備が付いていたとしても膨大な物量で殴られれば勝ち目がない上に、屈強な機械師団でもペガサスナイトには歯が立たないのは明白。


その末路は優秀な土建屋の喪失である。



そうなればSoyuz優勢が崩れるのは兎も角、戦線が膠着状態に陥ることも考えられるだろう。何としても最悪な結果に繋がる筋は断ち切らねばならない。



この小さな作戦。大きな一歩となるか。

次回Chapter133は4月16日10時からの公開となります

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