Chapter130-1. King Qualifications(1/2)
タイトル【王の資格】
ところかわってナルベルン自治区。
ここでは代表という名の王座を立てているが、孤高の女王というのは国としてのメンツが危ぶまれる。
その問題はひとつ。「跡取り」だ
そこで、誰か女王の婿なる人間を選ぶことになるのだがこれが難しい。
これは自治区の成り立ちが全てを物語っているといっても過言ではないだろう。
このナルベルンという地は幾度の戦争の後、住み着いた人間の被差別者がほとんどを占めていた。
そのためか難民キャンプめいていると言われればぐうの音も出ないのは事実。
全てが女王の元で平等なこの国にはそれ相応の格を持つ人間があまりにも少ない。
その他に代表であるデュロル自体も消極的というのも重なってなかなか根深い問題になっていた。
彼女も20を過ぎている。
現実世界ではまだまだ若々しいイメージを持つだろうが、成人が16とされているこの世界においては30代程度と考えられている事を念頭に置いて考えればいかに切羽詰まった問題かおわかりだろうか。
そこで婿に選ばれたのが、ある一人の男。
「何を言っているんだ、常識的に考えて別の奴にしてほしい」
長年稽古をつけているばかりか軍事顧問を担当しているアシュケント、その人だった。
「でも隊長って品格というか、品性ってのがあるじゃないですか」
一人の部下がそう言う。
どこからデュロルのお見合い相手募集の情報が流れてきたのかは知らないが、とやかく自分には不釣り合いだと彼は断り続けていた。
ここに流されてきた時から、帝国人がいかに嫌われているのかを身をもって思い知らされた。
そんな重いハンデを背負いながらも、能力を見込まれてここに立っている。
帝国人、差別する側の人間が王室入りする。アシュケントにとって良い感情は浮かんで来ないのも当然だった。
「ってもまぁ、俺は戦いしか知らない人間ってのが一番デカい。何よりヘマやらかす未来が見える。」
また、専門家にもかかわらずそれ以外のことをやって自治区の人間に重い足枷を付けさせてしまう。
それが一番警戒していることか。
そういった得体の知れない不安を抱えた彼は、ある人間に会うことにした。
代表がまだ幼い時。代表の代行を行なっていた「黒の男」である。
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代表代行。
日本史の教科書では摂政と呼ばれているその男は、どこかひっそりと余生を送っているという。
兵が自主訓練を行う日を見計らい、黒の男に接触を図った。
元代行が居るのは廃坑近くにある洞窟。
小綺麗な馬車を使うことなく、知り合いの郵便配達員がそこまで行くと言うので同乗させてもらうことに。
荷物が積んである貨車から降りると、彼は念を押すようにアシュケントに問う。
「おい、アシ公。ほんとにいいんだな?何もねぇぞ」
「何もなくていいんだよ、何も考えたくないんだから」
咄嗟に嘘をついた。ただこの吸い込まれそうな洞穴、実際何も考えたくない時に来てもいいかも知れない。
「そういうもんかねぇ?」
「そう言うもんじゃないか?それと…帰るときは歩いて帰るからな」
語り合いながら洞穴へと足を運ぶ。
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洞窟は冬だろうが夏だろうが気温が一定している代わりに、非常に湿っぽい。
一時凌ぎにはいいかも知れないが、そこに住む人間は世捨て人かあるいは奇人に違いないだろう。
扉もない穴に鋼鉄のミュールで踏み入れたときである。
QRASH……
独特の金属音が暗闇に吸い込まれ、消えていった。
すると奥から声がする。
「この私に何か用か」
用事があるから来ているに決まっている。だがここは波風を立たせない言葉選びが必要だ。
「ちょっと…少し話し相手になってはくれまいか」
するとやまびこのように答えが帰ってくる。
「よかろう。奥で待っているぞ…」
洞窟といえど人が住むと言うこともあってか、かなり魔力灯が壁にかけられている。
お陰で暗いのは入り口だけで、中身は昼の家屋のようだ。
ただ水が滴り、その音がひどく反響することを除けば。
いくらか進むと、質素な机と椅子。
壁にピンを打ち込んだ低いハンモックが現れ始めた。
きちんと作りこまれていることが伺える。
「お前だったか…たしか最近軍事顧問になった…。デュロル様はお元気か」
そしてその主人が昼に現れた虚無の穴の如く出迎えた。真っ黒いソーサラーのローブを付け、口元には垂れ幕がぶら下げている。
わずかに垣間見える地肌は長年日光を浴びていないのか病的に白い。これが黒の男、元代行その人である。
「それ、2年前の話です。」
「すまない、浮世と離れるのはやっぱりいかんな。何もないが……ゆっくりしてくれ」
ちゃぶ台を挟んで二人。誰もいない精神世界めいた対談が始まる。
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「……そろそろデュロル嬢……いやデュロル様も婿のことを考えねばならぬ年頃になりました。兵や知り合い、はたまた俺自身が会ったことのない他人からも。祭り上げられていて。……とても。」
話の先陣を切ったのはアシュケントだった。
わざわざ世間話をしにここまでやってきた訳ではない。
しかし、一概にそうかと言われればそうとは言い切れないのが悔しい所。
こんな些細な事でも迷いが渦巻く。
「ほう……あのデュロル様が。立派になったものだ……わかっていると思うが……お前に王たる素質が求められるだろう」
元代行はデュロルの義理の親でもある。
幼い頃にラムジャーによって強制的に即位させられ、傀儡とする手筈だったのをなんとかとして守った張本人だ。
娘が嫁入りするというのはとても感慨深いものだろう。
「……ただの流れ者の傭兵にそんなものがあると?」
そんなもの、このちっぽけな器で背負い切れるものではないことは一番自分がよく知っている。
代行はそんな事を承知でこう言った。
「そう言うと思った。だが、言っておこう。王の素質も大切だ。ラムジャーのような小物が手綱を握ればナルベルンは一年と持たん」
「…お前は軍事顧問を立派に果たしているじゃないか。王の資格は後になってついてくる、その実力があれば、問題ない。で、だ。素質よりも重要なもの…それは潔白さ、と思っている。」
王。
裏を返せば巨大な偶像だ。
当然民衆が思うように誠実で潔白でなければならないだろう。
「それが俺にあるとでも?」
アシュケントは男に問う。自分は一人の人間に過ぎない。
夜なべすれば眠くなるし、風邪だってひく。
自分を卑屈に思い続ける彼に、黒の男はダメ押しをする。
「第一にお前は信用を勝ち取って来ている。潔白な証明にこれ以上必要か?」
確かに言われればそうだが、当たり前のことを積み重ねて来ただけに過ぎない。
それにも関わらずここまで祭り上げられているのが不自然なのだ。
夢なら覚めてほしい、とすら思ったほどに。
「そう言われちゃ……こっちも出す言葉がないな」
依然として懐疑心を捨てることのできないアシュケントは頭をかきながら呟く。
「誰だってこんな状況になれば信じられなくなるものだ、なんらおかしいことではない。……だが答えは私が出すものではない、お前自身が出すのだ。」
その言葉はむしろ彼にとって大きな十字架となって背中にのしかかった。
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イエスマンばかりに囲われているというのも心底不気味極まりないので、アシュケントが次に頼ったのは自分のことを嫌う人間だった。
当然コイツも好きじゃない。だが嫌な奴ほど細かいものを見ているはず。
自身でも知り得ない事であっても。
市街地に戻ったアシュケントは早速ギルド窓口に足を運んだ。
その道中に光の柱が打ち上がっており、騒々しい音がここまで聴こえてくる。
最近では見学者も増えているらしい、全く世も末にも程があるだろう。
「んだよ。お前か、嫌味でも言いに来たのか。失せろ」
そんな中扉を叩けば、太々しい男が出迎える。
この男はアルベルトという帝国から来たギルドの元締め。
自治区の人間を派遣して傭兵団を作ろうと目論むも手酷い中抜きをしたことが発覚。現に村八分にされている。
お陰で誰も寄り付く人間はおらず、ここは窓口と言う名のいい寝室だ。
「……強いて言うならお前からの嫌味を聞きに来た。どうせいいだろ、暇なんだから」
「薄気味悪いこと言いやがって。ニセモンだろうがそうでなかろうと知ったことじゃねぇ。」
嫌な奴がいきなりやって来て悪口を言ってくれとはどう言う風の吹き回しか。
一拍置くと、樽の底を抜いたように悪口が噴き出て来た。
「だいたい、お前が剣を抜いてクルクル回すのを見ると頭を斧でかち割りたくなるのはいいとして、大体お前は気持ち悪いくらい潔白すぎるっつか、非の打ち所がないからムカつく。」
「だいたい俺とお前、同じ帝国から来たはずなのにどうして俺がこんな目に遭ってるんだ、おかしいだろ」
そもそもお前が中抜きなんかせず、舐め腐った真似をしなければこんな目には合わなかっただろう。と思わず口に出しそうになるが、ふと黒の男に言われた事が浮かんだ。
【王は潔白でなくてはならない】
つまりアルベルトが僻むくらい自分がマトモだという事なのだろう。
コイツが身勝手なのはいつものことだが、今はそれを追求するべきではない。
「あぁ…すまん。なんか…何かすまん。とっとと失せるから、な?」
申し訳なさに似た気まずい感覚を覚えたアシュケントは素直に背を向け、足早に窓口を去っていった。
「魔物が化けてんじゃねぇのかアレ……」
アルベルトは普段の正論が飛んでこないことに激しい違和感を抱きながら昼寝の続きをすることにした。
ここ最近まともに寝れておらず、寝れる時に寝ておかないと後々に響く。
こうして明確な答えを出せないまま、半分自宅と化したナルベルン城に戻っていた…




