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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-5.  ゾルターン後編
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Chapter130. Pull the plug on the bath

タイトル【底が抜けたように】

ジェムラ村に仕掛けられていた魔導爆弾の起爆は阻止することはできたが、いかんせん人や生き物という入れ物に入っていない魔力は様々なエネルギーになりうる危険な代物。


爆破のため貯蔵されたエネルギーをどうにか発散するため、ガリーは魔力を注ぐために刺さっていた杖とわが身を触媒にし、装備品に注ぎ込むことで無効化させようと考えていた。


既に起爆装置は掘り返されており、作業は始まろうとしている。



「ブーツと手袋全部持ってかれちまったよ、ナジャールはどうだ」



「それでも飽き足らずライフルも持ってかれた。魔導ねぇ、俺はそんなのより吸血鬼を信じらぁ、とも言えやしねぇ。なんせ目の前でやられちゃ元も子もねぇからな。クミルよう、お前は商売道具を取られてないからいいよな。」



歩兵のクミルとナジャール、彼らだけではない。機械化歩兵からダルシムら戦車兵に至るまで履物を没収され、強制的に魔具にされはじめた。



冗談のような装甲を身に纏うアーマーナイトや超人的な機動力の勇者を支えるパワーアシストアイテムだが、製造には膨大な魔力を消費する。



少なくとも何人ものソーサラーが持つ莫大なエネルギーを注ぎ込まれているため一つや二つでは到底足りないだろう。



起爆魔具に杖を突き立てた時からチーフを魔導的な光が包み込む。


LEDや今まで人類が見てきたモノとは一線を画す白光の中、彼女は身体に走る電撃めいた感覚を必死でこらえながら、ブーツに流し込んでいた。



強大な魔力故に付与される効果は選ぶ余裕なんてあるものか。たとえこの命燃え尽きようとも自らに与えられた使命を果たさねばならない。



「次だ———ッ!これはもう容量を越している!」



「わかった!私は無敵だから問題ない!」



正気に戻りかけた海原は素早く魔力を注ぎ終えた軍靴を次のグローブに取り換える。


一向に光は弱まりそうになかった。これでもう5回目になるというのに。だが杖の先にある根源のすさまじさはガリー当人が一番よく分かっているはず。



けれども髪は逆立ち、目は血走ってもなお彼女は逃げなかった。ここでくじけたら、今まで乗り越えてきた訓練や経験、そればかりか存在理由全てが無駄になるような気がするからだ。



学術旅団や爆処理チーム、それに戦車兵の面々は祈るような視線をガリーに向ける。

誰も代わってやれないが、こうして応援することだけはできる。



一度でも実戦を経験した人間なら知っているはずだ。こうしたわずかな応援が気力を保たせるのだと、そうして残されたわずかな気持ちでも大きな結果に化けると。



「ハァ——ッ!次だ、次…!」



そろそろ魔力を注ぎ込む道具が少なくなり始めると同時に、ガリーシアの疲弊も隠せなくなってきた。






——————





15に到達し始めた頃だろうか。

自らを導線にして蓄電池から他の機器に電気を流しているようなものである。ここから先は気力との勝負。


光量もスポットライトからハイビーム程度に落ちついている。

だが彼女の顔は、まだ油断するなと言いたげだ。



「しまった、これでブーツは最後だ!何か使えそうなものは…!」



そんな時、邪悪な神は試練を与えてきた。ついに魔具に出来そうなものがなくなってしまったのである。

いたずらに神を試してはならないとあるが、クソッタレのような趣味がないかどうかだけは確かめたくなってきた。



だから海原は無神論者なのだ、肝心な時に助けてくれない、故に神は偶像に過ぎないのだと。そんな時彼の中に居るもう一人の自分がこう耳打ちする。



【言い訳して逃げるのか】



やってみてもないのに最初からダメだと決めつけるのか。チーフが命を張っているのに、自分は高みの見物か。彼の中でどこか留め金がはじけ飛び、哀れ近くにいたクミルに食って掛かる。



「寄越せ!でないと無敵の私が波動拳を撃つぞ!」



「そんな顔しなくとも貸してやるよ、緊急事態だからな———」



「私はじれったいのが嫌いなんだ!」


カッコのつくようなセリフを言うまでもなくAK102を奪われ、魔導カラシニコフの生贄にされてしまった。

その光景がよっぽど滑稽だったのか、ナジャールが笑いながらこう言う。



「お相子様だな、ゲーミングマウスになって帰ってくるぜ」



すると呆れたようにクミルは返す。



「それは困るな。」






———————









かたっぱしから武器を放り込んだこともあって無事、魔力を全て使い切ることに成功した。

あのような光は消え、そこには沈みかけの太陽が背中を照らす。



疲労困憊という言葉さえ生ぬるいほどに体力を消耗したチーフは、魔力の余波でボロボロになっていたが、すべてを出し切ったかのように倒れなかった。



「やり切ったさ、私はこんな面白い女で終わらないからな、だって私は無敵なんだから。今なら勉強しなくともソーサラーになれるぞ、無敵なのだからな。」



何故か。

魔力は気力と連動している。


あれだけの苦痛を感じながらも耐え切れたのは何も精神的なモノだけではなく、少しずつ自分のキャパを超えないように吸収していたからに他ならない。


眠いのを我慢してエナジードリンクを飲む日本のサラリーマンのように。



今の彼女は魔力によって無理やり立っている。それは魔導士だから出来ること、ひいてはガリーでしか成しえない業である。







———————







 その末に短く、過酷な戦いは終焉を告げる。もうこの村が巨大な爆弾になることも無くなった。


ジェムラに舞い降りた一人の魔導士と8人の狂人。それを支える異形の兵器と漆黒の来訪者が救ったのである。



帝国兵による横やりが入らなかったのはジェムラ自体が輸送拠点の一つ、いわば小さなターミナルとして機能していたことが大きい。


起爆する予定の場所にいつまでも留まる理由なんてないからだ。誰だって命は惜しい。



事情を説明した所、学術旅団の面々は様々な手段で各地を回り調査しているという事を伝えるとしばらく滞在することができた。


チーフは峠狂のロシア人からもらったアディダス一式に身を包んでいたため軍人であることは分からなかったようだ。



その一方で、ダルシムら装甲兵器部隊や爆発物処理班がSoyuz所属だと聞くとどこか冷たい視線を受けるようになった。



最もSoyuzという組織の性格上、現地で歓迎されないこともある。中央アジアを駆けまわっていたダルシムにとってむしろ歓迎されることが珍しい。



故に特にそれに言及することはなかった。媚びようとも思わないし、だからと言って嫌な顔をすることもない。ただこうして置かせてもらっているだけでいいのである。



ようやく日没が訪れ、強烈な赤光と逆光で真っ黒に浮き上がってくる地平線。情熱的とも言える情景から次第に無限にも思える星々がきらめき始める。


祖国インドでは絶対に見ることはできない美しい光景。誰が何と言おうとも、これが全てを洗い流してくれるのだ。



「悪くはないな」



車長用ハッチから見上げる異世界の天球を見て、彼はそう言葉を溢す。







———————





 ただ、日没するとあるものが際立つようになる。



「あーあ。俺のグローブが光ってやがる。」



「クソッ最悪だ、俺なんて見ろクミル。AKが七色に光ってんだぞ!野蛮なディズニーランドだなァ!オイ。二度と通常作戦で使えやしねぇ、こんなのミッキーマウスにでも持たせておけばいい」



チーフによって魔力を注ぎ込まれた物体。石油系魔具と化した武器や装備品の類である。


勇者が装備するブーツなら跳躍力と言ったように、慎重に術を付与するものだ。だが咄嗟に力を注ぎ込んだおかげで、得体の知れない効果をつけられた物体と化した。


一応、定着行程が施されていないため、消耗すれば魔力が抜けきって普通の道具に戻る。



「クソッ、なんでクミルの銃だけマトモなんだ」



双方没収されたのだが、相棒のライフルだけ特段作戦行動に影響がなさそうだ。そのことにナジャールは憤りを隠せない。



「そうだと思うだろ。」



クミルはそう言いつつ地面に触れた際、ストックが丁度45度の角度になるよう落下させた。

何の変哲もない物体が重力に引かれて力なく転がるかと思われた。



着地した瞬間、アサルトライフルは物理法則を無視して4mまで飛びあがり地面に刺さった。



「名付けてジャンピング銃。——こんなに命を預けたいと思うか?俺は絶対御免だ」



特定の条件ではあるが地面に落とすと異様なまでに飛び上がる小銃。車内でうっかり落とすことも十二分にあり得る。


よりによってストックの角度が45度になったら、それもBTR-Tの兵員室で。



3kgの物体が膨大な運動エネルギーを持っている以上、被害は甚大なものとなりかねない。

少なくとも別意味で殺傷閉域と化した物体を使い続ける訳にはいかないだろう。


ガリーによって魔具にされた物体は学術旅団が研究のために一時保管することになった。



しかし武装スタッフにとって銃や装備品は命といっても過言ではない。


そのことを考慮の上、即座に本部拠点に持ち帰るのではなく一旦現地に置いておき、後日

ヘリなどで代替物資を送ることになった。



手痛いがここに居るスタッフが一丸となった勲章である。


その英雄証は七色に発光し、特定の角度に落下させると飛び跳ねるだけに飽き足らず着用した本人はそうではないものの、殴りつけると相手が燃え上がる人智を超越したものになるが。






——————





さらに好き放題暴れていた旅団の面々もようやく落ち着きを取り戻し、彼らがさらなる交渉に取り掛かっていた。


この場合少佐が行うことになるはずだが、中将に確認を取ったところ海原が執り行うことになった。



というのも冴島は応答することが出来ない状態らしい。

現在コノヴァレンコ中尉と生存者が対処していることを受け、最もジェムラに居る中で権限を持つ海原氏によってこのような状況となっているのだ。



階級が上なのは大尉のダルシムなのだが、それはあくまで一部門での話でしかない。

総合的に見た場合に彼が選ばれたという訳である。



「突然訪れて勝手をして申し訳ありませんでした。」



「いやはや。村を救ってくれたのです。私もなんと礼を申し上げたら良いことか」



はじめはこのようなあたり障りのない会話だったのだが、話題がSoyuz武装スタッフの駐留のことになり始めると、代表の顔が曇っていく。



「それは軍門に下れとおっしゃるのですかな。それだけは…」



海原は一人の学者として気になったことがある。

ジェムラの代表は駐留について振っただけで【そう解釈するのだろう】と。

何故そう思うに至ったのか。


純粋に疑問に感じたのである。




「なぜ…そうお考えなのでしょう?」



すると彼は意表を突かれたような顔をして海原を見つめた。まるで当たり前のことを知らないのかと言いたげだ。



「仮に…この用地でも提供しようものならゾルターンから兵が送られます。その時点で敵地になったのですから。そうなった以上容赦しないでしょう」


「我々はあくまでも作物を作り続ける部品としか思われておりません。そんな道具が作物を作らなくなり、あまつさえ危害を加えてきたら…貴方はどうしますか?」



ゾルターンは海原が想像する以上に過酷な環境に晒されているとこの身をもって実感した。

本や耳で聞いたとしても真に迫った実情は知ることはできない。


百聞は一見に如かずとはよく言ったものである。



軍事部門に関しての知見はない海原だったが、素人目でも交渉するにはかなり難しいだろう。理屈ではなく肌でそう感じた。




その一方、ゲイルたちビッカースらの襲撃を受けたアルス・ミド村では一体なにが起きているのか。

部隊を仕切る冴島少佐はどうなっているのか。


ダルシムたちはただ気にかけることしかできなかった…


次回Chapter131は4月2日10時からの公開となります

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