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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-5.  ゾルターン後編
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Chapter129. What time is Bomb blast?

タイトル【爆発まであと何秒?】

学術旅団を乗せたカサッカはポイントZ-02、ジェムラ村へと向かっていた。作戦に参加するも、彼らはあくまでも非戦闘員。


先に爆発物処理班と重戦車部隊が先に現場入りしており罠外しに勤しむ。



「了解。あらゆる手段をもって探しても出て来なかった、と。——え?村自体にどうも何か細工した痕跡はある?めんどくさいことしてくれるぜ全く…」



勿論、空の運転手はジョンソだ。

わざとらしく声を上げながら爆処理と連絡を取ることでお客に情報を流す。ローターの轟音もあって宛ら豪雨の車内で流れるカーラジオ。



情報を整理すると村をくまなく調べたが爆発物の類は一切出て来なかったらしい。


彼らが持ち込んでいるのは物質が放出する分子をイオン化し、定量する方式の測定器。

爆発物の類があれば多少なりとも反応が返ってくるだろうが、それすらないという。



今回、責任者兼スタッフとして海原と言ったいつもの顔も来ており、面々は不安を隠せない。



「魔導の事を物体の理では理解することはできない…チーフそう言ってたよな。」



海原はジョンソの言葉に思いあたりがあるようで、ガリーにこう聞いた。



「魔導士になって渡される魔導書、それも最初のページに書かれてある言葉だ。」



この世界にしか存在しない魔法。

現実世界の物理法則を翻して存在するコレは、通常手段の測定・定量・観測が不可能な事象だ。このせいで何人もの物理学者が発狂させてきた。



「…じゃあ今回は?」



「そうみて間違いない。利用しようとした集団をまるまる消し去る、【魔術的】細工をやったんだ。それに下士官教習の時、絶対に習う事がある。敵に物資を利用されることだけは避けるべきことである。そのために火を放つ勇気も時に必要だと。」



鹵獲、転用を恐れるため自爆や放火することはU.Uでも健在のようだ。







———————






 海原としては有史以来の伝統として腑に落ちたが、少し引っ掛かることがあった。

帝国兵並びに組織とは一切の交戦をしないというチーフが何故この作戦に参加したのか。



「確かに、分捕られることを恐れてというのはままあることだ。そんなことはあくまで史学上での話だ。私が気になっているのは…」



「帝国軍の策動を邪魔する作戦に参加したこと。ウナビーが気になっていることは。あ、呼び名は気にしないでほしい。単に私が心の中でそう呼んでいるだけだ。」



女としてのカンか、それとも軍人としての感性か。海原が聞きたい事を先に言ってのける。



「…さっき話したのはあくまでも拠点での話だ。人が住んでいる村を拠点にすることなんてあり得ないから。アイツらは…多分村ごと吹き飛ばす気でいるんだろうこと位分かる。それも守るべき人民丸ごとだ。——だから参加した。」



彼女の横顔は日常を謳歌していたとは思えない程神妙なものだった。


ガリーとしてみれば多くの人間を守るために軍に入ったのに、その軍が自国民を犠牲にしようとしている。

だからこそ組織自体に疑問を持ち、Soyuzに身を置いたのだろう。



それでもなお帝国に抗えないのは、彼女の揺れ動く葛藤故か。


同じ隊に居る単純にマリオネスに逆襲したかったヤツの方が人生気楽に生きているだろう。

考えるのを止めることは煮詰めるよりも格段に楽だ。



けれども、ガリーシアという人間は叩けば動くテレビ程ガサツですぐに割り切れる人間ではなかった。

としか言いようがない。



海原は申し訳なさそうな顔をするも、あることを口にした。



「——私としたことが、野暮なことを聞いたな。私たちの手が届く限りやってやろうじゃないか。実験も、今も。」



「そうしよう」



ヘリはジェムラに急ぐ。






———————





———ウイゴン暦7月19日 既定現実7月26日午後17時

———ジェムラ村


現場に到着すると爆処理の責任者が早速詳細な結果を示してきた。



「これが調査結果になるが…見ての通り爆発物が発見できなかった。それも居住ホールや畑、作物に至るまで全て調べたんだが御覧の通り、検知器は黙ったままだ。」



「それって…」



「学者先生の言いたいことは分かる。この検知器がポンコツだと俺だって信じたい。だがこいつは爆薬があった痕跡さえも嗅ぎつける代物だ。何なら黒色火薬の検知も対応してる。ニトロ系やそう言ったものはまるっきり出て来なかったとなると、未知の爆発物か分子レベルで厳重に梱包されていると考えていいだろう。」



「ただ、未知の爆弾が仕掛けられていたとしても人の目でくまなく探している。それをやっても出て来なかった。」



彼らも検知器に頼る頭でっかちではない。たとえ一つの検知法が通用しなくとも、爆弾を入れている金属ケースやブービートラップのプロとして仕掛けそうな場所、地中など徹底的に調べても物体が出て来ない有様である。


もしかして()()()かもしれない。



「ただ、村民ではないアヤシイ人間が動いていたこと。そいつらが地面に杖を打ち込んでいった証言が取れている。下手に動かすと起爆する恐れがあるから手出しはしていない。」



「…わかりました」



一般的な帝国人が電子回路を読み解けないように、魔導を彼らのような爆発物処理班が理解できるはずがなかった。



そんな如何にも怪しいものには手を付けない鉄則である。現状を維持すればとりあえず起爆しないからだ。



「その杖の箇所は?」



「大体村に8本、大方村を囲うように刺さっていた」


魔導を志した人間でしか太刀打ちできない世界にSoyuzは足を踏み入れた。









————————







ともあれ作業に取り掛かろうと思ったが、魔導関係をかじっている学術旅団の面々でも匙を投げてしまうのが現状。


しかし、事のあらましを聞いたチーフは、既に答えが出ていた。



「陣形術で間違いない。広範囲に魔導を使いたい場合は、術を使う範囲の指定と魔力を送り込む杖を突き立てて、その真ん中に専用の魔具を置くか埋めるんだ。

大体魔具の許容量を超えた魔力を流されるとまず爆発するから…それを利用するんだ。送る魔力は人や物から得ればいいし、すぐに作れて効果的。」



「本質的に、風呂に湯を入れすぎるとあふれるのと差がない訳か」



専用に誂えた道具がなくとも、魔導は使う人間の頭次第でいくらでも悪用が利く。

例えそれが物理学を無視する事象であっても、利用するのは人間であることに変わりはないのだろう。



「杖を折られていなかったのが良かった。一旦供給を止めたら注がれた魔力を刺激することなく吸い取らないといけない。下手を打つと何もかもが吹っ飛ぶ。」



端的に言うと風呂釜が溢れないように蛇口を破壊した上で、たまり切った湯は何かしら危うい。


そっとバケツリレーで排出するか、飲み干すかしかないという。



「まずは爆発を止めないといけないな…」



最初に杖を何とかすべく、旅団は村の端まで走る。






—————————






 問題の杭は村と外を隔てる柵に紛れるように敷設されていた。

葉をどけてやると、地面に突き刺さりその反対側には禍々しいプラズマボールのような球体が取りつけられているではないか。



チーフ曰く突貫工事で作られた代物で、タイムリミットは夜明けと考えられる。


相当に上官から圧力を加えられて敷設したのだろうか。



「早速ぶち壊すぞ」



海原含めた面々はどこからか持ってきたバールや銃、転ばぬ先の射出斧(ニグレード)とヘルメットで悪しき玉を破壊しようと試みる。



「量的に壊したら爆発して火の海だ。」



ガリーからこう言われるのに3秒かからなかった。


どうにもこの球体にまだ多量の魔力が込められているようで、そのまま粗大ごみにすると不安定なまま放出され辺りを油田火災の様になるという。


火のついたマッチとガソリンをぶちまけるようなものか。



慎重に撤去作業を行いながら、このプラズマボールの処遇を考えなければならなかった。



「ちょっと、これ落としたら私たちは死ぬんだぞ。慎重にやるんだぞ」



海原は自ら球体を支えながら、研究員に鋸で慎重に杖を切断するよう釘を刺す。



「でもコレ、どうするんですか。これでボウリングしたらドカンじゃないですか。人間に注げとでも?」



慎重に切断されていく様を観測するムーランはしれっと、とんでもない事を言ってのけた。



「その手があったじゃないか。」



第一関門、風呂釜に湯を注ぐ蛇口を破壊するステップを突破できそうだ。








———————





魔力は水同様、高い所から低い所に流れるとされる。

つまり素養のない現代人に流し込めば受け止めきれるのではないかという算段だ。



「よし、咥えさせたな。絶対に離すんじゃないよ。そこでいい感じにこう」



海原に球に残った杖の切片を加えさせ、そのままチーフが暴走しない程度の衝撃を与えた。その途端、無神論者の現代日本人 海原の体が光りはじめた。



零れ落ちた魔力が他エネルギーに変換されているのである。

球体が光を失うと共に彼は突然妙な言葉を口にした。



「うむ、なんともないぞ。むしろ気分がいい、波動拳が撃てそうな気がするぞ。なんせ私は無敵なんだからな。」



魔導は人の心とリンクしている。

つまり魔力が減少すれば不安定に、その逆は御覧の通りだ。

膝を立てて、指を曲げた手首を上下密着させて大きな声で波動拳と叫ぶ。



その一言と共にそれなりの大きさの火球が射出され、中途半端な間合いで弾けた。



「私は我慢ができない。戦車と戦ってくる。多分勝てる。」



海原は冷静にそういうと、装甲兵器を探してどこかへ行ってしまった。


残る杖は7本。旅団の数も7人。正気を保てる人間は現れるのだろうか。








———————





 結果的に耐性のない人間に対し、ソーサラーが疲弊するまで送り込んだ魔力に勝てるはずがなかった。


面々は学歴を放棄し思い思いの技を繰り出す羽目になっており、強い酒を口にした際の暴走状態よりも恐ろしい光景が広がる。



魔力は有機溶剤とは異なり中枢神経に作用する特性はない。

そのため皆、普段通り真顔で狂っている。視線はちゃんと定まり、足取りも確固たるものだ。


思考だけが珍妙なのである。



「キャベツを取ってくる」と言ってプラトゥーンのような倒れ方をしたムーランを筆頭に、理解を拒むような行動がチーフの思考を蝕む。



分散したとはいえ、魔力が注がれることはなくなった。


爆弾の起爆装置は解除したに等しく、問題は爆薬そのものの処理だ。


杖の具合から相当な注がれようであり、地中で起爆すると惨事が広がるのは目に見えている。

解決する方法は一つ、起爆に使われる魔力をどうにかとして発散することに尽きるだろう。


流石に膨大な魔力を注ぎ込むと自分が何をしだすか分からない以前に自爆しかねない。



一応、風呂釜にあたる物体は村民からの証言や掘り起こされた痕跡から、埋められた場所はおおむね見当がついている。



あらゆる手を講じてバスタブにたまった湯を引っこ抜かなければならない。









————————






 戦車にたどり着いた海原はひたすらソニックブームと言いながらT-10に火球を打ち続けていた。



(ヤク)打ったような感じ…じゃあねぇのが質が悪いな」



ダルシムまでもがこう言うしかないのだ。それに他の面々も手が付けられない状況で、マジカル・ハイを起こした酒場のようだ。


理性を保ちながら失っているとしか表現できない彼らを背にガリーはひたすら打開策を考えていた。



強大な魔法を使えばあっという間に消費できるだろうが、自分は試験と訓練を積んだ上級魔導士には敵わない。


下手にゲグルネインなど使えば留め金を失い暴走し続けるだろう。

力を出す事は容易くとも、制御するのに苦心するとは正にこのこと。だからこそソーサラーと言う兵職が存在するのである。



魔法を経由しないで魔力を消費させる方法はどうにかないか。頭に埋まった魔導書をめくる。


あの杖を直接源に突き刺して散らせる、のはダメだ。

火や光、爆発にでも変わったらすべてが台無しになる。


水に含ませるにしたって駄目だ、専用の器具が必要。


それ以上に考えをひり出そうとすると感情が邪魔をし始めた。


明らかに錯乱していることに気が付いた彼女は支線を上に向け、空に浮かぶ雲を注視することで気を確かに保とうと足掻く。



「俺達を忘れちゃ困るな」



神頼みしかないのか。そう思った矢先に声がした。

ここに居るのは狂った学者連中だけではなかった、爆薬のプロ、爆発物処理班たちがいるではないか。






————————





その場に専門家がいなくとも、大人数で探せば正解に続くヒントは見つけやすいもの。

戦車部隊も加わり、あらゆる視点で解決法を考え始めた。



「下手に動かさん方がいいだろうな。俺が罠を仕掛けるんなら取ろうとした瞬間、ってのにしておく」



先陣を切るのはダルシム。



「氷漬けにして放り投げたいトコだが…掘り出したところで冷凍するのもアリだな。ただ得体の知れない物体の状態を変えるのは余り得策ではないだろう。RDXとかならいいが、なんせ埋まってるのは爆薬とかそういう類じゃない。」



大尉の後ろを班長も続く。


ブービートラップとして仕掛ける場合、撤去作業を防ぐために何等かの振動を感知した時に起爆するように細工をしておくものだ。


またこのような信管を作動させないため液体窒素でカチコチに固めてしまうのもアリだが、それはあくまで爆薬と信管を持つ装置の場合。


勝手の違う魔導爆弾で通用するか怪しいだろう。



だが掘り出すという手法は採用できる。



「だったら、起爆部まで掘り出してその上から土嚢で封じ、爆破するのは…ダメだ。場所が場所だ」



「…それに、もとはと言えば村をぶっ飛ばすために仕掛けられているんだ、あれは。万全ではないとは言え威力も馬鹿にならない」



隊員が不発弾処理同様の案を挙げたが、チーフがこう反論する。


というのも発見された場所はあろうことか居住ホール近辺。

建物自体が無事で退避が完了した上で爆破処分を行った際威力が完全に殺し切れない可能性が出てくる。



「ちょっと待ってくれ。その魔導式の爆弾ってのは厳密に言うと爆薬ではないんだよな。消費できなくとも…何等かな形で吸い込ませる、ということは?」



班長は一度彼女が通ってきた道を再び歩く。



「確かに水や土に吸収させることはできるが…」



「そうじゃない、紙とかそういう固体とか物体とかだ。有機溶剤を処理する時には紙や布に染み込ませて燃やすことがある。」



液状の危険物はこうやって処理することもある。

現にダイナマイトは、不安定なニトログリセリンをおがくずなどに含ませて安定させているではないか。


その発想はガリーだけではどうあがいても浮かんでこなかったものだ。一点のイマジネーションから彼女の頭の中では連鎖的に解法が沸いてきた。



「まず、ブーツとか籠手に…いやなんでもいい。とりあえず金属で出来た履物とかを用意してほしい」



チーフの突拍子もない言葉にダルシムは疑問を呈す。



「どういうことだ?」



「地面の中にある魔力を魔術に変えて道具に吸わせる。あの杖で魔力を吸って、私の体を使って媒介すればいい。かなり荒っぽい魔具の作り方だけど…これなら使い切れる!」



半永久的に使える程息の長い魔具は何度も魔力と術をバウムクーヘンのようにコーティングして作り上げている。


だがそれが発見される前はりんご飴のように薄かった。



この際、できるブーツと言った強化装備の出来そのものはどうでもいい。

目の前にある膨大な魔力を使い切るのに方法を選んではいられない。



「この村を救うために、装備を脱いでくれ」



チーフは後戻りできない事など承知の上だ。

ようやく回ってきた人民を守るという役回りにそんな脅しなど通用しない。


彼らは団結した。

次回Chapter130は3月26日10時からの公開となります


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