Chapter128. Unconventional battle in labyrinth
タイトル【迷宮での異種格闘戦】
カカリコ村を占領した冴島少佐と機甲小隊だったが、偵察機が次の村ジェムラに敵が待ち伏せしていることを察知した。
どこか不穏な予感を覚えた彼は上空のOV-10に監視を続行するよう指示。
防衛戦力を残しつつ何時でも出撃できるよう準備を整えている最中、一本の無線が飛び込む。
【こちらOSKER01 Z-01北東4100mで敵部隊移動を確認。別の集落に向かっています】
冴島は奥歯を噛みしめながらどう対処すべきか考えた。移動中は敵が丸見えになる絶好の機会。
狙わない訳にはいかない。
本部やハリソン空港から離陸したとしても間に合うだろうか。
スクランブルをかけても時間はどうしてもかかってしまう。些細なものだとしても無視はできないだろう。
では小隊が攻撃するとして、距離はどうだろうか。
確かに4式の主砲の射程に入っており、偵察機に搭載されているソ・USEとデータリンクすれば十分に狙える距離。
これはあくまでも仰角を無制限に設定した場合。
射程に限界がある以上、FCSを乗せようが乗せまいが同じだろう。
これはT-10Mにも、BTR-Tにも言えることである。対戦車ミサイルが頭を過るが射程があと一歩足りない。
【村までの距離と、画像を転送せよ】
【了解、距離推定3000】
把握できるだけの情報を手にすべく冴島は航空写真を要求した。
敵の種別によっては戦車でも追いつける可能性がある。
「——クッ」
運命の時。画像には騎兵がくっきりと映っていた。
時に不整地でも車両以上の速力を出すことが出来る陸上戦力。
特に平原など最高のコンディションになる。どうあがいても村に逃げ込まれるのは確実だ。
規制警戒標識のないU.Uでは目と鼻の先、もう間に合わない。
少佐は憤りを隠せず次の突破口を探すため、脳という演算装置をフル回転させる。
海上に居る大田切から艦砲射撃も距離が足りない、巡航ミサイルでは的が小さすぎて誘導できず、確実に仕留めきれないだろう。
空母北海に搭載されているYaK-141でも同じことが言えるし、出撃まで時間を食う。
主体砲を近づけようとも現実的ではないだろう。
八方ふさがりに思えたが、少佐は焦りに取りつかれる前に発想を転換した。
ゾルターンにある村々は隠れられる遮蔽物が少ない。
嫌なやり方にはなるが、あえて引き入れた上で掃討すればよいのではないか、と。
すると頭の中にいるもう一人の冴島が意見を出してきた。
「それでは奇襲の意味がなくなる。」
同じ顔をした男が対になるよう戒める。
「Soyuzコンプライアンスにのっとって、民間人の虐殺を見て見ぬふりをしろというのか」
機械化歩兵クミルとナジャールからの報告によれば、ここの帝国兵は住民を虫けら同然に殺すという。
別の村に向かっていった帝国兵は我々にリソースを使わせないために破壊しに行ったのではないか。
彼の中で最も導き出されてはならない方程式が組みあがってしまった。
あくまで仮定に過ぎないが、完全に否定することもできない。
では駐留していた村に何もしていなかったのは何故か。ゲリラを相手にし続けてきた経験が答えの書かれたフリップを出してきた。
「トラップだ」
襲撃された場所から敵対勢力を退け、安心しきったところで次の集落を占領した時に一網打尽にする気に違いない。
倫理とコンプライアンスをかなぐり捨て、絶対に正面では勝てない敵には必ずこうする。
話を戻し、敵の策動を打ち砕くにはどうしたら良いだろうか。
先にカカリコ村に向け人員を差し向け、安全を確保する。輸送には時間が掛かるだろうが、ちょうどいい塩梅だ。
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次に行く村Aには原始的及び、魔導的な細工が施されていると睨み、此処に残している装甲兵器と随伴歩兵で護衛の下特殊部隊Fチームと学術旅団を派遣しトラップを解除。
襲撃されようとしている村Bに、少佐が率いる部隊がなだれ込みクリアリングを行えば自体は収束するかもしれない。
冴島はやるべきことを一つずつ整理しながら無線機を取り、要請を上げる。
【こちらLONGPATからU.U HQ、航空偵察の結果、Z-01北東4100にて敵を発見。その先の村に移動を開始したため襲撃を敢行する。急行しても間に合わないため村内にて敵を掃討する。】
【BIG BROTHER了解。】
焦りを感じる声気に権能はただ事ではないと察し、その要請を呑む。
【またZ-02にトラップが仕掛けられている可能性を考慮し、爆発物処理班並びに学術旅団の派遣を要請する。護衛としてはBTR-T 1両と歩兵、T-10をつける。】
【了解。冴島、しくじるなよ】
【LONGPAT了解。】
中将は少佐に対して全幅の信頼を寄せている。だからこそ無茶苦茶な要請にも首を振らず、黙って増援を出すことに。
此処から先は少佐の決断がモノを言う。村Bの被害がどれだけ抑えられるかは全て彼に掛かっていた。
混乱と焦り、そして使命感に押しつぶされることなく部下に命令を下すと中戦車の中に急ぐ。
この戦は何もかも後手に回る。肝心なのはどれくらいリカバリーを利かせられるかだ。
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【こちらKillerBEE 01 02. OSKER01に合流する】
可能な限り敵妨害工作を働くため、予備機として設定されていたIl-2が2機飛び立っていた。
離陸地点はハリソン空港、山を越え湿原を超えた先にある敵地を目指すため相応に時間はかかるだろう。
———BLALALA!!!
上空に張り付いているOV-10も少しでも足止めするために攻撃するも、相手はプロの騎士である上、お情け程度の機銃では限度がある。
【OSKER01了解。】
「——クソッ!あいつら草陰に隠れやがった!」
ナイトの皮を被った蛮族は次第に村へと差し掛かり始めた。
驚く馬もちらほらといたのだが、上にいる騎手が殴りつけて正気に戻しており行動に支障は見られない。
後方では冴島少佐が血眼になって迫っているが、どれだけあがこうとも間に合いそうにないのは確かだ。
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———アルス・ミド村
ゲイル率いるビッカースの侵入を許したアルス・ミド村は世紀末と化した。
反撃を許さない圧倒的リーチと体格差、そして速度。現代でいえば一般市民が戦車に追いかけ回されるものだろう。
その行く末は想像に難くない。何も罪のない村民たちによって構成された死体の山だ。
「ふぅッ、これはこれで面白い!」
「そっち頼むぜ」
殺戮の精鋭ビッカース連中は目の前で起きている惨劇に対し悲しみどころか喜びを感じていた。
逃げ惑う人民を馬で跳ね飛ばし、恐れ慄く女子供に容赦ない一撃を見舞う。
ここまで一方的な虐殺は最早ゲームだ。
彼らにとっては制限時間以内にコインを集めるテレビゲームでしかない。
だが現実世界で起きていることは言うまでもないだろう。
Soyuzが来たときには既に被害が広まっていた。
シミュレーションしていた状況のうち最悪なケース、やはり被害を抑え込むことしかできないようだ。
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村内に入ると車長用ハッチから身を乗り出し、サッと辺りの様子を伺う。火は放たれていない一方で民間人の殺害が目立つ。
よく観察すると矢は使われておらず、何か突き刺され致命傷となっている。
冴島は偵察機にコンタクトを取った。
【LONGPATからOSKER01、敵兵の中に歩兵は居なかったか】
【OSKER01、確認された敵は騎兵のみです】
この情報が正しければ敵軍勢は騎馬に乗って侵入し被害を広めていることになる。
ハリソン攻防戦で多くの防衛騎士団ソルジャーが戦死したように歩兵ではまるで相手にならず、たとえ自動火器を持っていても焼石に水なのに変わりはない。
よって随伴歩兵を出すことはできないが、逆に敵は村に隠れることが出来ない。
装甲兵器の本領が試される。馬に乗って優越に浸る小物を、より大きな力でねじ伏せてやるのだ。
【LONGPATから各車、民間人を巻き込む恐れあり。留意せよ】
戦車と騎士の正当なる決闘。およそ80年ぶりともなるドリームマッチが今始まる。
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ビッカースからすれば、的が一か所に集められており逃げ場のない村は絶好のゲームフィールドである。
おまけに始末以外の事を考えなくても良い、ゲイルはなかなかニクイ真似をしたものだ。
手首のスナップを上手く使って槍をぐるりと回し、馬で跳ね飛ばし損ねた人形に突き付ける
「27点目ェ!」
今回はなかなか良い筋で来ている。このままなら30連鎖も夢ではない。
最初の通過点としては上々だ。景気よく矛先が胴体を貫こうとしたその時、肩を鉛玉が掠めた。
後からの不意打ち、ここの村民は武器を持っていないはず。
この崇高な騎士に唾をつけたのは一体何者だろうか。咄嗟に男は振り向く。
「——いい所だってのにってよぉクソッ!」
そこに居たのは戦車とハッチから身を乗り出し、ガバメントを構えた冴島少佐だった。
拳銃弾が当たらなくとも構わない、騎兵の気をそらせるため発砲したのである。
こうして生まれた特大級の隙を同軸機銃は逃さない。
———BLTATA!!———
あっという間に馬共々極悪人をハチの巣に変え、選手にはレッドカードを突き付けた。
少佐は一切の妥協を許さず次の目標を探すのである。
【こちらKillerBEE01、原着】
そんな時Il-2の増援が到着した旨の無線が入った。
どのみち巻き添えにしかねないため村内掃討は自分たちがやらねばならない。
だが逃亡する兵士を追い詰めるには最適。
無線機片手に車内と空、両方に指示を出す。
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【LONGPAT了解。敵を逃すな。】
「敵発見、5時方向。」
地獄はまだまだ終わらない。
少佐が善戦する一方、戦車モドキBTR-Tも巨悪に立ち向かっていた。
強力な火砲はなく、装備されているのは運悪く豆鉄砲と被害をまき散らすだけの対戦車ミサイル。
操縦手コノヴァレンコ中尉は、こんな煮え切らない半端な車でも任務をこなして見せるプロだ。
任されている船に文句一つ言わずハンドルを握り、アクセルを目いっぱい踏み込んでいる。
此処での任務は巻き添えを出さず、騎兵だけを始末する。冴島が正確に撃ち抜くなら、中尉の答えは既に出ていた。
ぶつけて壊せば良いと。
———GRASH!!!——
生々しい音と共に、車体が強烈に揺さぶられた!
騎兵にとって落馬は死を意味する。
わざわざ追い打ちをしなくとも二度と村民に手を掛けようとは思わないだろう。
コノヴァレンコは歯を食いしばり、ありったけの力でハンドルを切り続ける。
ぶつかるまで残されたわずかな時間で次の敵を見つけたのだ。
体当たりを敢行するためにステアリングに無理を言わせて戦車モドキは速度を落とすことなく不完全なドリフトを呈す。
「カーアクションは他でやってくれ!」
「カクテルができらぁ!」
粗暴極まりない運転は想像を絶する蛇行を生み、拷問小屋同等の兵員室からはヤジが飛ぶ。
コノヴァレンコは聞く耳を持たず戦闘に徹する。
「中尉!11時方向に敵です!」
ガンナーから敵を見つけた報告が上がるも、随一気にしていられる余裕はない。
「そっちは任せた、曲がり切るまでに倒せよ!」
半ば叫びながら全身に力を込め、装甲がついた暴れ馬を抑え込む。
それまでの間に敵を排除しろと言うのである。
猶予はロクに残されてはない、ポン着けされた機銃塔が左旋回して狙いを定めると鉄の嵐を見舞う。
ゲイル率いるビッカースの集団は的を嬲るために近接武器しか手にしておらず、蹂躙しているはずが機関銃と戦車砲に自分達がしていたことをそのまま返されてしまった。
因果応報とは正にこのことである。
無論この状況から逃げ出す騎士もいたが、此処は冴島の独壇場。
無事に帰れるはずもなく、振り切ったと安心した所を空からの20mm機関砲の餌食になった。
村が再び静寂を取り戻すとロンドンは死に絶え、残されたのは利己的に立ち回っていたゲイルだけになっていた。
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「武器を捨て馬から降りろ」
戦車をもってホールドアップした少佐は、75mm砲と拳銃を突きつけて上級騎兵に武装を捨てる様言いつけた。
間合い的に接近を試みようものなら機銃が待っている、仮に突き立てたとしても4式中戦車は貫けない。
いよいよもって追い詰められたゲイルはこの世の終わりめいた表情で冴島を睨みつけた。
予断を許さない状況、赤いソルジャーキラーは未だヤツ手の中。
その時。照準に囚われたゲイルの口元が緩み、鋭利な槍先が戦車を向く。忘れてはいないだろうか、この対装甲槍はガビジャバン製であることを。
———BPHoooMMM!!!!———
殺気を感じ取った少佐は咄嗟に戦車の中に飛び込もうとしたと同時に歩兵殺しの矛が中戦車の正面に突き立てられる。たとえ分厚い装甲板を破れなくとも衝撃は確かに伝わる。
———QRAMMM!!!!!!
敵が抵抗してきた場合、普通は砲手が主砲を撃っているはずだ。
何かがおかしい。
そう感じた彼は視線を下にやると、車体機銃が破壊されていた。残されていたのは主砲だけになるが、射線上には居住区があり過貫通を起こす。
すかさずガバメントの引き金に手をかけた瞬間、小賢しく往生際の悪い男の追撃がやってくる。何かが冴島の喉元に掴みかかったではないか。
食らいついた正体はゲイルの義手だった。接触したことを確かめるや否や青い稲光が大男を包み込む。
あくまでソルジャーキラーを外したのはブラフでしかなかった、誰しもあの驚異を知っていれば回避しようと動く。
それに偏差射撃よろしくアドメント・ハンドを発射したのだ。
どれだけ強く、階級が高い人間とは言え魔導は肉体の防御力を無意味にする。
凄まじい電流を流された冴島は魂が抜けた人形のように倒れ込んでしまった。どれだけ鍛えようとも限界はある。
これを絶好の機会とみなした哀れな騎士は草陰に消えていった。
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戦闘は終結した。
残されたのは兵器と、試合の終わったゲームフィールドだけだった。
だが大役という座は消えない。
そこに座っていたのが彼の率いる機甲小隊からFチームと学術旅団へと引き継がれる。
ゾルターンでのいざこざはまだ始まったばかり。
次回Chapter129は3月19日10時からの公開となります
登場兵器
・4式中戦車
大日本帝国陸軍の製造した中戦車。この国で有名なのはチハだが、ようやく他国と肩と並べるような性能を持つように。日本らしからぬ恰幅の良い車体は敵に威圧感を与える。
・主体砲
北朝鮮(共和国)製の170mm自走砲。固定砲を車体に乗せたものでアナログな代わりに凄まじい火力を敵にもたらす。
Soyuzと共和国は取引先関係にあるため、大量に購入しているようだ。
2種類あって紛らわしいが、一応新しい方である。




