Chapter 13-1. Armor Knight
タイトル【アーマーナイトの脅威】
一方、Soyuzはガンテルの証言で得られた地点を中心に偵察機OV-10を昼夜問わずに飛ばし続け、マリオネス率いる帝国第4小隊の砦と道を発見するにいたった。
これに加え、ハリソンの街がある方角から何やら見慣れぬ兵士の増援があることも確認することができた。
それが怪物の叫びのような音を立てる正体である。
この程度の砦であれば無数の爆撃機と長距離砲のスコールを浴びせれば森ごと平原にすることができるのだが、Soyuzは違った。
第四小隊の糸を引くものは一体誰なのかを知ることと、指揮官であるマリオネス大尉を確保する必要があった。
そのため戦車小隊とそれに伴う機械化歩兵部隊を投下し、砦の制圧に踏み切ることにしたのである。
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歩兵を寄せ付けぬ圧倒的な重装甲を持つT‐55を4両、石の壁を撃ちぬく殺人対空車両シルカを1両。
指揮車として少佐の乗るBTR80Kを一両。
これに加え、歩兵を満載にしたBTR80を4両備えて砦を打ち崩すべく進撃を開始した。
その道しるべとして、ガンテルも作戦に参加していた。マリオネスを殺すためならば魂を売る男である、この程度の戦場は障壁にならない。
うだるように広い平原をエンジンの轟音と常にすさまじい揺れに襲われながら抜けると、スナイパーの潜む鬱蒼とした森へと入ることになった。
いくら道があろうとも装輪車であるBTRは低木を引き倒しながら前進することは叶わないため戦車の作った獣道の後ろについて回ることに。
———VooOOOOOOMMMMM!!!——
エンジンという名の心臓が激しく鼓動すると、白い排気があたりを覆い隠しはじめる。何十トンともいう巨体を怪物じみた馬力で森林を蹂躙してゆく。
その前にはあらゆる草木は舗装材と化すのだ。
その後ろには機械化歩兵を満載した死をもたらす鋼鉄の馬車が続く。
かつてハンバーガーで肥えた資本主義の家畜共を、恐怖のどん底に叩き落とす魔獣が森を進撃していた。
鉄の履帯が軋むと森林だった場所は一気に舗装された道へと変わっていくのだ。
馬力の不足するシルカも人類が作り出した恐怖の大王の後に続く。
【こちらLONGPAT、中隊各車、撃ち方はじめ】
少佐はいつになく冷徹にそう告げると、魔法よりも恐ろしい100mm砲が一斉に火を噴いたのである。これこそ帝国軍に混乱をもたらした恐怖の一撃の正体だ。
森は木々を蹂躙する魔獣たちに支配されたかと思えた。しかしながら帝国に命をささげた軍人に恐怖という文字はない。
かろうじて木々を通り抜けた砲弾は第一の砦に着弾したが、それを反撃の狼煙として鬱蒼とした森の中から無数の矢が戦車隊に向けて浴びせられたのである。
だが極度に分厚い鋼鉄を身にまとった戦車たちには無意味に思えたが、矢はあくまで目くらましに過ぎない。
「本当に矢が降ってきやがった」
「こんなの裸の間抜けにしか効きやしねぇ。のこのこと前に来やがって。ぶち殺してやる」
先陣を切る謎のインド人車長ダルシムと砲手サガットは、降り注ぐ矢の雨に気を取られていたその瞬間である。
ペリスコープに赤い酷く鈍重な甲冑を来た歩兵が二人迫っているのが見えたのである。
節々は行灯のように光り的のよう。
サガットは不意を突かれながらも、目を大きく剥いて同軸機銃の引き金に手をかけた。
——BLATATATATA!!!——
幸いにも照準はその兵士に向いていたこともあり、ありったけの機銃の雨をナイトに浴びせ続ける。
だが何かがおかしい。
甲冑に当てたはずの弾はスーパーボールのようにはじき返されてゆく。
浴びせられた兵士は動きが止まり、盾を構えてカタツムリのように遅いがこちらに肉薄しつつあるのだ!
「機銃が効きません!」
狭い戦車内でサガットは絶叫する。
機銃で撃たれれば人は死ぬ、100年かけて築き上げた常識が崩れ去ったのである。
「砲で殺せばいい!」
ダルシムがそう叫ぶと装填手モディンは巨大な戦車砲弾を砲に押し込めると、蓋を急いで閉めると同時にサガットは躊躇なく重騎士を砲撃した。
———ZMoooOMB!!——
重騎士は人の形を保ちながら胴体に風穴を開けられると、肉となって崩れ落ちた。
サガットは恐るべき存在を倒したことで安心しきっていた。
銃弾が効かないのはハリウッドかモンスター映画の怪物程度のものである。
機関銃弾をスーパーボールのようにはじき返す存在は、戦車などの装甲兵器程度のものである。
まさか人間が機関銃をはじき返す光景を目の当たりにしてもなお、信じることができなかった。
もう一人の重騎士が居なくなっていたためである故にダルシムは慢心することはなかった。
そして次の瞬間、恐怖が待っている。
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□
——GRASHH!!—GRASHH!!——
戦車に重苦しい金属音が響き渡った。何かが車長ハッチをこじ開けようとしているのだ。
今まさに何か鈍器のようなものでハッチを突き破ろうとしている。
ダルシムは悟った、この重騎士は装甲車と同等の装甲を持ちながら生身の歩兵と変わりない動きができるのだと。
装甲というゆりかごを脅かすこの存在にサガットは恐怖した。
スラッシャー映画でただ殺されるのを待つ役者のように頭が回らなかったのである。
しかしダルシムは違う。
【こちらYOGA-LEADERからSWEEPER!ハッチをこじ開けられる!やっちまえ!】
無線機のマイクに怒鳴りつけながら無線を飛ばしたのである。
危機的状況、命をやり取りする戦場に慣れていたダルシムだからこそ体が動いた。
車長が死ねば戦車はただのガラクタと化すからである。
…PEEEP…——BLLLLLAAAA!!!———
不釣り合いな機械的高音を合図に、重々しい機関砲の弾が飛び出る音が新緑に響くと、鋼鉄の甲高い音と同時に戦車の外で何かが振り落とされた音がした。
ダルシムがペリスコープを覗くと胸に穴が開いたアーマーナイトが血を垂れ流しながら死んでいた。
「なんてやつだ」
ダルシムは唾を吐き捨てるように言った。
生命のペンションとも言える森は砲撃の嵐に見舞われる。
雹のように降り注ぐ矢と横殴りの銃弾が交差する。その間に生存できる保証などはない。
機械化歩兵部隊のゆりかごであるBTRの中では絶えず機関銃の発砲音が収まる気配はなかい。
時に火球や雷が吹き荒れる異様な光景で、流れ弾はいたるところでボヤを起こす要因となっていた。
【こちらYOGA- LEADER、歩兵を出してアーマー野郎をどうにかしてくれ、弾の無駄遣いになる】
戦車からBTRに無線が飛ぶ。
機関銃をゴム球の如くはじき返すアーマーナイトを倒すには数ある貴重な戦車砲弾が必要となる。
いくら砲弾が積載されてあってもそれは無限ではないからだ。
【Career BLAVO了解、歩兵を下ろす】
無線を受けると待機している機械化歩兵の一人がBTR側面にあるハッチを少しでも開けた時だった。暴風雨の日に扉を開けたように矢が一斉に打ち付けてきたのである!
「ふざけるな、こんなんじゃ全身串刺しになって死ぬぜ」
兵士はそう叫ぶと同時に恐怖した。
奴らはBTRから人が出てくる場所を一瞬で察知して狙い撃ちにしてきたのである。
装甲がある分貫通は避けられるが生身の人間では話が別、射殺することができるだろう。
原住民相手にしていたつもりだったその男の顔は引きつっていた。
「この野郎グルードよぉ、後がつっかえてんだよ!マリオネスを殺させろ」
「野郎こっちの気も知らないで…どうするんで隊長、こんなんじゃ俺たちゃ狙い撃ちにされる!」
矢が雨粒のようにはじかれる音と機関銃の音が狭い車内に反響していながらも二人の兵士の怒号はつんざくように車長の耳に届いたのか、無線を飛ばす。
【こちらCareer BLAVO、敵に狙い撃ちされ歩兵は出せない!】
【YOGA- LEADER了解】
ダルシムは歯ぎしりを起こしながらも歩兵隊の返答を呑まざるを得なかった。
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まさに歩兵の展開を封じられたのにも等しい。アーチャー部隊を主軸とする帝国陸軍小隊の狙いにまんまと引っかかる羽目になったのである。
その一方、少佐の搭乗する指揮車にもファルケンシュタインの牙が迫っていく。
砦に近づくと道は開き、戦車が森林を蹂躙する必要性は薄れていった。
随伴歩兵のいない戦車には見落としが絶えない。
偶然にもT‐55の死角を縫って進軍するアーマーナイトの接近を許す羽目になっていた。
ガンナーも兼任しながら少佐はPK機関銃の引き金を引き続ける。展開する歩兵を砦に押し込みながら前進するためである。
「しまった、12時方向、窓をやられる!」
操縦手ヴォルホフが声を上げる。装甲兵器の一つであるBTRでも死角は付きまとう。
歩兵という機動力の塊を相手にするには同じく歩兵で察知し、攻撃しなければならない。
それができない今、地の利を活用した帝国軍にとってデカブツのようなものである。
「後退し、車体を旋回して距離を取れ」
少佐は喚くこともなくヴォルホフに的確な指示を飛ばす。旋回用ハンドルを目いっぱいの力を込めて回した。
砲塔は自身に接近する敵を車ごと回しながら照準というフレームに入れるべく旋回を続ける。
その視界はめまぐるしく変化を遂げてゆく。
照準にいざ捉えたその姿はヒトとは思えぬ重装甲鎧をまとった歩兵。
言葉にするならばアーマーナイトというべく姿をした敵兵がいた。
少佐は声を荒げることもなく冷徹に機関銃の引き金を引いた。
次の瞬間、冴島は自分の目を疑った。機関銃が一切効かず、まるで戦車に銃弾を浴びせるようにはじき返されたのである!
「やはりクライアントの言う通りか。——後退止め、ヤツをぶち抜く。」
流石に衝撃に耐えうることはできないのか重騎士は銃撃を受けると身動きが取れないでいる。
少佐は冷静に主兵装の重機銃の引き金に鞍替えすると情け無用に銃弾を吐き出しはじめた。
——ZDADADADADAM!!!
目をつぶることもなく、敵兵の上半身だけに絞って重機関銃をいくらか撃つと敵兵は自慢の装甲に大量の穴をあけられ、かの弁慶のように立ったまま絶命。
少佐は引き金から無線機に手を移すと戦車小隊に伝令を発する。
【こちらLONGPATから各車、図体のでかい重装兵に機関銃は効果がない。砲や機関砲を使用し——】
冴島の目にはその影を捉えていた。重装兵から飛び出した女魔導士の影を。恐
らくは機関銃の対策をするため後ろにぴたりとついて進軍していたのだろう。
重機関銃の貫通力は重装兵だけで止まり、歩兵には及ばない。
連中はアーマーナイトの抜きん出た防御力を利用していることに間違いはなかった。
少佐はすかさず機関銃のトリガーを握ったが、照準から覗く光景にその兵士は垣間見ることができない。
すでに俯角一杯にとっても当てることができないほどの近距離、まさに死角に潜り込まれていたのだ。
歩兵さえいれば射殺できたはずである。
次の瞬間、装甲車を激しい雷鳴と共に衝撃が走った。落雷を意味する魔法を撃たれたのである。けたたましい音が山に反響し、ヴォルホフはおののいた。
しかし、金属の塊であるBTRにまるで効果はなかったのである。
「前進、踏みつぶせ」
少佐は冷酷に指示を飛ばした。その途端、ディーゼルの心臓が一段と脈動しすさまじい音を立てる。
——VWUOOOOOOOOOOOMMMMMM——
あらゆる魔獣とも異なる鋼鉄の異形の前に魔導士は動くことができなかった。それが迫ってくるのだ。
命の森に鈍い衝突音がこだました。




