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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-5.  ゾルターン後編
137/327

Chapter125. Don't let them know!(2/2)

———ウイゴン暦7月18日 既定現実7月25日午前9時48分

ナルベルン自治区



自治区ではゾルターンを攻め落とすべく戦車や装甲の分厚い装甲車などが搬入されていった。

確かに今度の侵攻作戦に使う兵器搬入ではあるが、1両の4式中戦車が車列を離脱し、自治区市街に向かって行く。


はたから見れば極めて不審な行動だが、誰一人として各車の行動を咎める者はいない。



どういう魂胆なのだろうか。



【こちらLONGPAT、ポイントN-04へ向け北上中】



【Career01了解。到着時刻1012】



敵を騙すなら味方から。集う野次馬はあくまでもSoyuzが移動することしか知らないだろう。



住民の中に内通者がいるなら、この情報を知りえる人間すべてにカバーストーリーを配布して信じさせた方が確実だ。



それに加え、4式中戦車の車長こそ冴島少佐である。

口裏を合わせている以上、誰も制止を掛けないのも納得できる。



戦車は採石場跡へ続く狭い道へと突入した。



濃緑に茂る林に、朽ちた馬留や水がめが転がる。

前情報では輸送用の馬車が通れると聞かされていたが、恰幅の良い戦車ではやや窮屈だ。



高性能な火器管制システムを搭載したT-72では通れないこと間違いない。


だがFCSを搭載していない大戦時の中戦車を取り扱うことになる。

手振れ補正という贅沢でハイカラなものは一切ついていない、正に男の乗り物。



一切のごまかしは効かないと見ていいだろう。



撃てる数は2発だけ、それも確実に始末できるか。

作戦では見張りを撃破後、即座にヘリから降下、突入が待っている。


失敗は許されない。






—————






暫く車を進めると、いよいよ岩場が見え始めた。オリーブドラブが迷彩効果を発揮してくれるのはここまで。

そう判断した少佐は、茂みに隠れる位置で停車するよう命令を下した。



「停車。索敵せよ」


一言を戦車クルーに伝えると、彼は軍用双眼鏡を片手に車長用ハッチを開けて自らも敵目標を探し始める。


どれもこれも、いかにも賊だという恰好をしている人間が巡回しており、憎たらしい装甲騎士は見つけられない。




そこで考え方を少し変えてみることにした。程よく散らばるロンドン組員から、不真面目そうな人間を探し出して後を追うのだ。



「…いつぞやの馬鹿を思い出す…」



呑気にあくびをし、居眠りするかと思いきや居心地が悪いのか挙動不審になっている。

暇が過ぎると確かにこうなるのは良く分かるが、冴島は同情するつもりはない。


これが狙撃銃のスコープ内に入っているとしたら確実に引き金を引いている。



時折腕時計を確認すると10時を指し示していた。

先ほど探し回った時に日時計らしき物体を見た覚えがある。



そろそろ交代してもおかしくはない。怠け癖のあるロンドン組員はそっと守衛に近づいていく。



【目標視認。双方2時方向距離800】


少佐は双眼鏡から手を外すことなく、無線機で敵目標の適格な位置と方位を伝えた。

狙いをつけるのは彼本人ではないが、冴島自身が選んだ砲手を信じている。



ヤツなら確実に始末できる。



弾着確認するために双眼鏡を手放さない。



———DoooNNGG!!!DoooNNGG!!!!


二発の75mm砲弾が放たれた。


4式中戦車は特殊な戦車で、半自動装填装置を搭載している。一度に間髪入れず攻撃を加えることができるのだ。



突如響く戦車砲の雄たけびに、組員は驚きを隠せない。

その実態と言えば何もないではないか。またどこかの魔導関係の所が事故を起こしてぶっ飛んだのだろう。



見たこともない魔法的物体がゴロゴロ出てくるナルベルンにおいては特に珍しくもなんともない光景だ。



———QRAMM!!!!!———


徹甲弾が守衛を容赦なく貫くその時までは。


雨粒のような一筋が胴体に命中した瞬間、悲鳴を上げる暇もなくアーマーナイトはマネキンめいて前のめりになって倒れた。



戦場において命の終わりは余りに静かで、あっけないものである。







———————






【弾着確認。こちらLONGPAT、敵目標無力化を確認。突入せよ】



「ポイントN-04に急行、降下部隊を支援しろ」



安堵も束の間、冴島は双眼鏡をしまい込んで車内に戻り降下地点の援護を命じた。

一応ブリーフィングでも確認した事項ではあるが、常に武装した組員が巡回している。



ただ巡邏兵が予想よりも多い。

いくら特殊部隊と言えど降下中は無防備になる。そこを剣や斧といった雑多な武器で襲われればひとたまりもない。



【career01了解】



作戦を実らせるためには「()()()()()()」を重ねる必要があるのは言うまでもない。


冴島は走る。


———VTATATA…!BLATATA!!!TATA!!!!



ヘリのけたたましいローター音と下降気流が採石場に降りかかった。



その下では少佐が指揮する鬼戦車と化した4式がロンドン組員を銃撃しながら追い回しており、降下部隊を寄せ付けない。



Aチームの隊長、ライディース・セロは突入のハンドサインを送り完全武装の特殊部隊がヘリボン降下を始める。


守衛は倒れ、巡回している賊は中戦車が排除されているため、最早最早彼らを止められる人間はいないだろう。



———ZACZACZAC…


相手に考えられるよりも速く、時に激流の如くAチームは坑道へ通じる階段を駆け上がった。


隊員の手にはフラッシュライトが装着されたSR-2ベレスクが握られ、目の前に出てくる敵は全て根絶やしにするという固い意志が伝わってくる。



そんな矢先にセロに無線が飛び込んできた。



【こちらLONGPAT、脅威の排除完了。裏口で待機する】


【A-TEAM LEADER了解】


決して少佐は彼らの腕を信用していない訳ではない。

本作戦において兵員輸送車を持ち合わせていないため、救出した人質を運ぶには中戦車しか移動手段がないのである。



それに、むしろ奴らなら必ず成功して出てくる。冴島なりのエールでもあった。



この人数では分散してしまうことを考慮したセロは2番通用口に細工を施した。

丁度壁面に寄り掛かるように遠隔操作型クレイモア地雷を仕掛けたのである。



万が一逃走の気配を感じたら吹き飛ばす魂胆だ。



その間1、3番入り口から突入していった。






———————







坑道の中は朽ちた採石用具が転がる中、不自然に新しい魔力カンテラが煌々と輝いてスピリチュアルな光景を醸し出している。


だが現実は非情で、かつての栄光を失った挙句犯罪組織の拠点に成り果てていた。


突然の侵入者に対してロンドン側も当然黙っていることはない。


剣を手にした徒労を組んで特殊部隊に牙を剥く。敵は帝国軍の鎧があれば刃を通さず、残りは数で押し切れると踏んでいる。


正義の味方気取りの冒険者などはこれで返り討ちにできる、そうタカを括りAチームに銀の剣を振りかざした瞬間だった。



DLLLAAA!!


「——うごほぁッ!」


 徹甲弾が鎧を障子紙のように貫き、命に終止符を打つ。


組員側は接近しないと危害を加えられないことに対し、彼ら屋内制圧Aチームが携行している武装は圧倒的な貫通力とリーチをもって敵を確実に「()()()


この違いは決定的だろう。


だが遠距離にくくればロンドン側も似たような武器を持っている。


坑道内に突如雷鳴が響き渡る。雷鳴剣アドルケーの仕業だ!



突撃してきたチンピラはあくまで囮に過ぎない、本当の狙いは不意打ちして動きを止め、あとは愚連隊と同じやり口でリンチにしようというのだ。



そんな小賢しい真似が犯罪者を徹底的に排除することに長けた特殊部隊に通用するはずがない。



標的となった隊員は咄嗟の判断でローリングし稲妻を躱すと、わかりやすく剣を掲げた組員を射殺した。




———————





【こちらホーネッカー、敵無力化完了。人質を発見】


【了解】


覆しようのない圧倒的な練度と武器の差。


Aチームを阻むロンドン構成員は防刃ジャケットに傷を負わせることも出来ず、全て射殺されてしまった。至極当然の成り行きである。


最深部には粗雑な檻が蓋のように立ちはだかる。

カッターを使うまでもない非常に粗悪なものだったが、内部では食事をした痕跡は見られない。


続いて彼は人質の肌を凝視した。



洞窟暮らし、あるいは潜水艦乗りなどは日光を浴びないため肌が病的に白くなる。


つまり捕まっていた期間がおおよそわかる。


肌がまだ黒い。

この様子ではつい最近放り込まれ、反抗されないよう最低限の水などしか与えられなかったに違いないだろう。


この檻もどきを破れなくて当然である。



「俺たちはあなた方を助けに来た。恰好は何とでも言えばいいですが、とやかく格子から離れてください」



彼らは工具を片手に檻を破壊し始めた。






———————





——3番通用口


希望が見えはじめた一方で、セロたちは今だ最深部へとたどり着けずにいた。

どうにも様子がおかしい。

まるで収容所のように壁面には檻がずらりと並ぶ中、絶えず野盗が襲ってくるのだ。


「死ねッ!」



ピッチングマシンから放り出される軟球のような感覚で、隊員は投げつけられるトマホークを避けては射撃を繰り返す。


これは個人的な勘に過ぎないが、どうにも時間稼ぎをされているような気がしてならない。

無線で確認をしてみようと思ったその時。



【こちらcareer01!2番通用口から敵が逃亡を開始!】



ホバリングしながら待機するヘリから大慌てで無線が飛び込んできた。

大方気を取られているうちに二番口から逃げ出そうという魂胆だろうか。


裏口を使わないのは司令部自体に隠し通路がないか、待ち伏せを警戒しているかのどちらかだ。



セロは眉をぴくりとも動かさず、リモコンのスイッチを押した。


————KA-Boom!!——QUM!QUM…



小さな発破音が耳に入る。何も策がなく攻めているとでも思っているのだろうか。


藁に縋る勢いで逃げ道を見出して特殊部隊を欺いた気になったが最期。クレイモア地雷の餌食になることは必須。


わざわざ無力化されてくれるとはなんとありがたいことだろう。



【career01敵、無力化を確認。】


哀れにも数少ない逃亡犯は地雷の恰好の餌になったらしい。



セロは感情を捨て進み続ける。この奥に残されている凶悪犯を徹底的に追い詰めて排除するために。







———————






——3番通用口 最深部


突然の襲撃に最深部にいるロンドン人材派遣局長はパニックに陥っていた。



「何がどうなってる!」



「突然の急襲で!外に出たら死にます!俺たちはどうしたら!」



「そんなこと俺が知るか!黙って俺のために死ねッ!」


この有様である。

守衛が機能していなかったのか、どこから侵入を許したか論じているだけの知性は残っておらず、感情のまま怒鳴りつける事しかできない。


BLLNG!!!


刻一刻と背後から迫る銃声が悪戯に恐怖を煽る。拠点の長は怒鳴塵らしながら壁にかけられたラッパ長銃を取り出した。



「湿けてたら殺してやるからな!このぼったくり野郎!」



功績を称えられた贈り物だが、一発分の火薬が残っているはず。

同じく猛獣の角を使った火薬入れも引きずり出し、見様見真似で装填し始めた。



慌てて火皿と薬室に黒砂をぶちまけ、火打石を下ろす。

この銃に弾頭という贅沢なものは無いため、雑多な石ころを発射口に押し込む。



今にでも燃えだしそうな思考回路で火薬を押し固めた時である。



先ほど怒鳴り合っていた仲間が声を上げるまでもなく撃ち殺された。

銃を構えるため視線を上に向けると黒づくめの集団、それも4人ばかりか。


こんな連中に好き放題にされたのか。



男は咄嗟に引き金を引こうとした。身体の一部のように動く自動火器と不慣れな海賊銃。


どちらが先に動いたのか言うまでもない。



即座に腕に何発も徹甲弾を撃ち込まれた挙句、対抗できるであろうラッパ銃を落としてしまった。

反抗する手立てを失うと同時に、命が零れ落ちる。



【こちらA-TEAM LEADER 敵無力化確認。人質の救助を開始する】



無残に転がる死体と、人を撃ったことがない潔白の銃を尻目に隊長のセロは的確にこう言った。

敵を全て黙らせた以上、残る使命はただ一つ。救出だけである。



かくして、ロンドン拠点として使用されていた採石場は再び自治区に帰ってきた。



だが冴島少佐にはまだまだ仕事が遺されていた。ゾルターン侵略という大役である。

勝利の美酒を味わうのは今ではない。今よりもずっと先の未来になるだろう。



彼は戦車の中で気を引き締めているのだった。戦車さえも撃破されてしまう地獄に向かうために。

次回Chapter126は2月26日10時からの公開となります

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