Chapter124. Don't let them know!(1/2)
タイトル【感づかれるな!】
ゾルターンとロンドンの関係性。
カナリスに言わせれば「限りなく黒に近いが、いつどこで染まったか分からない」
ラムジャーが彼の前に騎士将軍を連れてきた時、明らかに不釣り合いな人間が出てきたことがあるそうだ。
その時に感づいたらしい。
あの県に巣食う国際犯罪組織ロンドンとは一体何なのか。
今後侵攻する際に重要な情報だと中将は考え、野盗の拠点を攻めることにした。
侵攻は伸びるがSoyuzに失敗は許されない、そのための下準備に妥協の余地はない。
だが奴らの拠点はゾルターンから出るとぱったりと消え失せているか、あるいは巧妙に偽装されており、小さな基地を探し出すことは砂漠の中で一本の針を探すのと大差ないだろう。
—————
□
もっと確実に、明らかに存在していることが分かる場所はないのか。
そんな時に少佐を介して「ある依頼」が飛び込んできた。
依頼主はデュロル嬢で、内容は採石場跡に不法侵入したロンドンの殲滅というもの。
依頼書には丁寧に背景まで記されており、近年領内で営利誘拐と思しき失踪事件が後を絶たないという。
まぎれもなくロンドンの仕業に違いないが、軍内に内通者がいた場合人質の殺害を伴う逃亡をされる恐れがあることから頭を悩ませている、という内容。
報酬は現在出せる額はないため、作戦が成功した暁には、ゾルターン侵攻時に友軍として「ラムジャーを許さない市民の会」のメンバーをよこすというもの。
ロンドンの実態を探りたいSoyuzと一刻も早く被害者を取り戻したいナルベルン側の利害が一致した瞬間である。
—————
□
依頼者からもらった情報を基にSoyuzは動き始めた。指揮はもちろん少佐が取ることになる。
だがそこで、採石場跡地に潜入する人間に難儀した。
普通の人間とロンドン構成員を確実に見分けられる能力を持ちながら、潜入や偵察に長けている兵士。
そんな都合のいいスタッフは居るだろうか。
【こちらUnderground、原着】
小ぶりの弓を持った怪しい男が報告を上げる。
【LONGPAT了解】
ロンドンを狩り殺し、追剥した金で風俗に行くことに快感を覚える男。
シュムローニ・ガンテルがいるではないか。兵職柄、多方面に強いのだ。
その方面から見れば扱いやすいことこの上ない。
今回は狙撃を主にしないということで、ガローバンと比較して射程の短い鉄の弓を携行していた。
到着した旨を報告すると、ガンテルは素早く物陰に姿を隠し双眼鏡を取り出し始めたではないか。
普段はそんな猪口才なものは使わない主義ではあるのだが、いかんせん採石場は森林と比べて遮蔽物は少なくなる。
そこで可能な限り身を出さず遠方を見るツールを使用しているのである。
【奴らロンドンで間違いない。あれは…鋼の剣だ。羽振りいいモンぶら下げやがって、ちょっと始末して———】
早速奴は組員を見つけると、嘗め回すように観察して金目の物がないか探した。
【本作戦は狙撃ではない。】
少佐はガンテルに釘を刺しつつも、ある事を感じていた。
鋼等級の武器は新兵を卒業し、伍長などといった階級の人間でないと持てない物と聞いている。
それが一端の組員に支給されているという事は相当に儲けている証拠に他ならないだろう。
だが一体何のために。
無線口にいる、金と風俗にやたらうるさい男の言い分も無意味でははないのである。
彼は双眼鏡を片手に金になりそうな組員を探し続ける。
それぞれ剣やら斧を一つ携えたシーフばかりでしばらく遊べるだけの小銭は稼げそうにない。
そんな時お気楽な彼ですら青ざめる光景に遭遇してしまう。
【守衛はどこだ…?——あぁ、クソッタレ、なんでロンドンの癖にアーマーなんて雇ってんだ…脇にゃソルジャーキラーときた。俺のへっぽこ矢じゃ勝ち目がねぇ、近づかれたら地獄行きだ】
そこに居たのは帝国と遜色ない重装兵の姿だった。
だが妙なところがある、ファルケンシュタイン帝国の重騎士であれば前掛けのような装甲板があるはず。
しかし、双眼鏡から覗いた此奴にはそれが見られないではないか。
ガンテルが見ているのは帝国に居るはずのない、正規の隣国ガビジャバン式の兵装だった。
ロシアにアメリカ兵がいるようなものだ。
不自然で、怪しい事この上ないだろう。
【了解】
少佐は冷や汗を垂らすヤツを尻目に得られた情報を的確に記録し続ける。
冴島にとって重要なのは、ガンテルの目先にいるであろう敵を確実に始末できる武器を選ぶこと。
RPGでは敵に逃げられる。装甲がなければ厄介な装備を携えている可能性も考えられる。
【——ふざけやがって】
無線越しのスナイパーは痰を吐き、悪態をつく。
だがまだやることが残っている。
トリプトソーヤン城から回収されたロンドン構成員を尋問したはいいが、自治区採石場跡の情報は得られなかった。
だが制圧するにはその場所の地図がとても重要。
現地にいる適当な組員を捕縛して尋問するしかないだろう。
それができるのはヤツだけだ。
【LONGPATからUndergrand。敵拠点の情報を得たい】
【ケッ、余計な仕事増やしやがって…】
少佐の命令にこの男は悪態を吐き連ねる。
接近戦が不得意なガンテルとしてみれば無茶ぶりもいい所。
無線口なのをいいことに歯を食いしばり嫌悪感を丸出しにしながら策を考えた。
片手には折れた剣、懐には空のマガジン。
多分自動拳銃に仕込むものだろう、なんの銃に使うかは詳しくは分からない。
また改めて手にすると、全体的に金属で作られているのかやたらに重い。
ここで彼は閃いた。こんなもんを投げつけられれば相当に痛いだろうと。
「憂さ晴らしくらいしても見えないわけだ、どうせ顔なんて見えてねぇ」
【聞こえとるぞ】
彼の装備にはマイクが備え付けられており、ここで少佐の悪口を言うことは彼の耳元にいう事と等しいのである。
「作戦に戻りますよ全く…」
ガンテルが何かを思いついたのは事実らしい。
——————
□
——採石場跡 入り口付近
———Shoooww…Grash!!
「ぃってぇ!」
弾薬の入っていない空マガジンとは言え、こんなものが当たればしばらく悶絶することは必須。
「この野郎、誰がやりやがった!」
それにこんな目に逢えば誰だって怒り、警戒心が格段に落ちる。
「まだいてぇ…」
よく見ればすぐにわかる侵入者だって気が付かず、あろうことか懐に入られてしまうことだってある。
例えそれが剣を振られていようとも。
鈍い手触りと音が響くがすぐさま立ち消えた。
【手間かけさせやがって。ようやっと確保した。尋問は小細工を加えてからにしてからする。】
【了解】
———————
□
ガンテルがした細工とは簡単なもの。逃げられないよう筋に弾丸を撃ち込んでおく。
このために潜入任務の相棒とも言えるPSS消音拳銃を持ち込んでいたのである。
銃嫌いの彼が持ち込んでいるのは珍しい。音が出なければ案外構わないのだろう。
近接戦闘、それも土壇場に一発撃ち込みたいときにしか使わないだろうが。
人目のつかない場所まで引きずると、組員の頭を蹴り飛ばした。
岩を背もたれにし、まるで射的の的。
哀れにもこのロンドンの末路は言うまでもない。
「よう、待ってたんだ。声を出したらどうなるか…足りない頭でもわかるだろ。」
鉄の弓を引く。
ロンドンに向けられるギラリと光る矢じりは脳天を捉えてピクリとも動かない。いかに正確な照準なのか分かる。
少しでも機嫌を損なえばどうなるか。間違いなく死ぬ。
銃が普及していない帝国にとって、この世界にとってのホールドアップなのである。
「何が目的だ馬鹿野郎——」
チンピラは大きく声を上げようとした瞬間、自らに向けられる確かな殺気と、矢の先端に目が行ってしまった。
一度恐怖に支配されるとメデューサに見つめられたのと同じように動けなくなってしまう。
まるで蛇に睨まれたカエルのように。
「よくわかってんじゃねぇか。俺が聞きたいのは…あの石山にどうして居座ってるのかと、あそこがどうなってるかだ」
ガンテルは目を真開き、いつでも射殺できるよう野盗に照準を向けながら問う。
——————
□
「各それぞれ4つの入り口と2つの裏口があってぇ?だからどこがどうなってんのかを聞いてんだこの野郎。」
「だいたいそれは行き止まりになってて…!そうだ。2番目の穴がそのまま事務所に繋がって、ぼ、ボスがいるんだ。」
この悪党が言うには、この採石場跡は自治区で浚ってきた人間をゾルターンに運び込むための「貨物ターミナル」として運用すべくロンドンが居座っているらしい。
出来の良い女はラムジャーへ献上し、男は労働力にでも使うとのこと。
坑道を利用した4つのルートが存在し、2番目にあたる場所に司令部が存在する情報を得た。
あらかた悪事に手を染めているロンドンとしては手ぬるい方だろう。
「で、他はどうなってんだ。言えねぇんなら…」
「わ、わかった!ま、ままま、待ってくれよ!」
さっさと情報を引き出して離脱したいガンテルはロンドンに対し矢を脳天に突き付けて催促する。
「商品は1と3番にしまわれてる、んでもってそれが裏口に通じてる!」
「ああそうかい。」
ガンテルは吐き捨てた。
実は前の戦争の時、女ばかりが捕まっているというロンドン拠点を小銭稼ぎで略奪したことがある。
そこで、よりによって男ばかりが捕まっている捕虜収容所を引き当ててしまった苦い経験があるからだ。
第一、助け出して卑しいことをするほどこの男は腐ってはいない。
【こちらLONGPAT、十分な情報が得られた。】
そんな時、無線口からその組員は用済みと通告が下る。
——————
□
「な、いいだろ、助けてくれ———」
哀れにも組員はガンテルに命乞いをし始めた。
足には激痛が走る。
だが彼としてはアキレス腱周囲に銃弾を撃ち込み逃げられなくしている時点で、末路は決まっている。
弓を取り下げるとチンピラの顔は晴れ渡る。
だがこの男は弓ではなく、代わりに消音拳銃PSSを向けた。
「え」
———PUFFF!!
無様に喚かせる暇もなく引き金を引いた。
脳天に赤黒い華が咲くと野盗はピクリとも動かない肉の塊と化す。
ガンテルにとってロンドン組員は「歩く金目の物」でしかない。
戦争が終わってから暫く盗賊の上前を撥ねて生きてきた彼にとってシーフ殺しなど造作もないのだ。
それにSoyuzがハーグ陸戦協定を厳守する対象は「正規兵」であって武装した犯罪者に情を加えるいわれなどない。
後始末を終えると何の躊躇もなく、この男は早速盗賊だったモノを漁り始めた。
「お。アドルケーじゃん。確かアドメント打てる剣だコレ。うひひ、いただきだ!…は?なんでこんなザコが持ってんだ?まぁいい、さぁてカワイコちゃん何人分に化けてくれっかなぁ…」
亡骸の懐からは曲がりくねった怪奇な剣、アドルケーが出てきた。
雷魔法アドメントが剣士でも撃てる優れもの。
魔具以上に作るのが難しく、普通は佐官といった人間が持っていることが多い。
当然、高値で売れる。
【いい加減モノ漁りを止めて帰投せよ。その剣は必ず持ち帰れ。】
【はいはいわかりましたよ…クソッ。とりあえずこのアドルケーはいただいていくぜ。】
——————
□
———ウイゴン暦 7月 18日 既定現実 7月 25日 午前9時18分
かくしてガンテルが持ち帰ってきた情報を基に、商品として捕まっている人質の救出と拠点の制圧を目的とした作戦が実行されようとしていた。
派遣されるのはジャルニエ城制圧Aチーム。
洞窟ならびに銀行と言った閉所の中の閉所に潜む立てこもり犯を一人残らず排除することに長けた部隊である。
アーマーナイトの守衛が厄介だが、これに関してはゾルターン侵攻作戦に向けナルベルンに運び込まれている4式中戦車を使えばいいだろう。
Aチームは極狭所戦闘のプロである、という事は先述する通りだ。
故に彼らは他チームとは違うある武器を手にしていた。
ライフルの機関部を引き抜いて、拳銃らしく仕上げた異形の銃。SR-2ベレスクだった。
切り詰めた自動小銃よりもさらに軽く、取り回しが良いため選ばれたのである。
また9×21mmという特別な寸法の徹甲弾を使用することで、たとえ騎士の鎧を着けていようとも着実に排除することができる。
これはロンドンが帝国軍の鎧を纏っているケースもある、という事を考慮して配備されるに至った。
テロリストを便所まで追い詰めて殺す武器が、今度は異界の犯罪組織を徹底的に追い詰めた挙句地獄へと送る。
世の中何が起こるか分からないものだ。
———————
□
今回の作戦は敵地に裏口が存在する以上、逃げられる前にすべてのロンドン構成員を無力化し全員無傷で人質を救出すること。
こういう時の無法者はやたら勘が冴えわたっているものだ、一つ一つ無駄な動きをせず始末する必要があるだろう。
手際よく、時間をかけないこと。これが本作戦の肝になってくる。
その志を胸に、Aチームを乗せたヘリは本部拠点から飛びだっていった。
次回Chapter125は2月19日10時からの公開となります
登場兵器
・SR-2ヴェレスク
ロシア製サブマシンガン。
専用の貫通力の高い弾を使うことで拳銃では防がれてしまうボディーアーマーを来たような連中を排除することが出来る。
・アドルケー
魔導具の一種で、雷魔法を打ち出すことが出来る剣。そのまま格闘戦や間合いを置いた相手などには非常に有効。
だが利点に見合わない程、お高い代物らしくあまり持っているものは多くない。貴重品。




