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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-5.  ゾルターン後編
135/327

Chapter123. Back to karma

タイトル【因果応報】

———ウイゴン暦 7月 16日 既定現実 7月 23日 午前3時48分

———ゾルターン城




毎日のように降り注ぐミサイルの雨。


強固に作られた城塞は粉砕するのに足りなくとも、酸に浸された鉄の如く、確実にラムジャーら帝国陣営の士気を下げ、着実に蝕んでいった。



将軍は自治区をSoyuzに奪取された失態を犯したゲイルに対し、怒りを爆発させていた。

かれこれ同じ内容を何度も繰り返している辺り、相当溜まっていたのだろう。



「貴様は何故この地位に居られると思っているのだ、ガビジャバンの敗残兵であるお前を拾ってやったのも、死にかけたお前に義肢を与え、こうして生かしてやってるのも!全部ワシのおかげなんだぞ!それをわかっておいて、()()()()()()!」



「挙句ロンドン組員を勝手に使い自治区を攻撃し、撃退され!異端軍からの攻撃を受けるようになった!

厄災ばかりもたらしおって、無能の死にぞこないめ!ワシの楽しみもできなくなってしまったではないか!役立たず!地竜の餌にならないだけありがたいと思え!」



この際男の品格と内容はどうだってよい。問題は説教している相手だ。



機銃掃射を受けたはずのゲイルが何故生きているのか。



自治区戦闘後、ヤツの四肢が吹き飛ばされ、使い物にならなくなっていたのは事実。


ラムジャーの命令で大半を魔力で駆動する義手や義足に置き換え、生き長らえていたのである。

こうなればどこまで生きているのか分からないだろう。



哀れにもロンドンの窓口である以上、外道らしく死ぬことも許されなかったと言っても過言ではない。



どんな小物であろうとも発言に筋は通っている以上、ゲイルはただ額を床にこすりつけ壊れたラジカセの如く許しを請う。



「お許しを、お許しを」


この男はただこうすることしかできないでいた。



怒りをぶつけたいだけの将軍と、具体的な改善案もなく機嫌を取り繕うとする騎士将軍。


何時間もループしている無意味な時間に痺れを切らしたのか、もう一人の男がラムジャーにある意見を投じる。



「…将軍、今後、術をかけて透明化した魔導師を動員すべきだと思います。」



もう一人のゾルターン騎士将軍 レ・ヴィツォである。その眼差しは養豚場の豚を見るようだった。


彼こそが本来、県の細かい統治や管理を担うはずである。


しかし、ラムジャーの独断でロンドンと提携し蛮族同等のゲイルと肩を並べることになってしまったのである。



コネで入ってきた上に礼儀を知らず、暴虐の限りを尽くすロンドンの犬。

聖騎士と体のいい名前を引っ提げてはいるが、その実態は野獣と大差ない。



そんなゲイルの知性を感じない失態に付き合わされたのだ。

助け船を出すというより、早く床に着きたいというのが本音だろう。



「…現にそうだな、考えよう。この野良犬め、ヴィツォに助けられたな!とっとと失せろ!」



ラムジャーは本当に分っているのだろうか、否。断じてないだろう。

ヴィツォは内心そう思いながらゲイルに視線をくれてやる。



仮にも助けてもらったにも関わらず、品性のない男はまるで恥辱を受けたかのような目で睨んでいた。

まるで俺は正しいことをした、とでも言うつもりなのだろうか。


自分以外、この状況に対し理解を示していないのは明白。

ただ年功序列で感情をぶつけ合う非効率極まりない会合に付き合わされる身にもなってほしい。



————KA-BooooOOOOOMMMMMMM!!!!———


今日も城のどこかで天から降り注いだ槍が炸裂する。ラムジャーはいつまでたっても喚き垂らしているが、部下の間では日常と化しているのだった。


「——死にぞこないめ」


自室に戻ろうとしたヴィツォは悪態をつく。






——————







 スカッドの飛来は城の日常を狂わせた。そのことは周知の事実である。

影響は上司である騎士将軍ではなく、下士官や兵士に現れていた。



「毎日のように爆発、爆発、爆発!ったく気が狂いそうだ!ふざけやがって」


「そう言って飛び出したアーマー着こんだイニシューはバラバラに砕け散ったろ。見てたんじゃないのか」


「——クソッ」



半ば城に幽閉された兵士たちは愚痴をこぼしていた。

突如として降り注ぐ爆発と散っていく戦友。抗いようのない絶対的な死。避ける方法は屋内にこもる他ない。



ラムジャーはその合間を縫って女を連れ込み、相変わらず酒肉を貪る生活を繰り返しているが、それを支える人間としてみれば晴らしようのない憤りが溜まる一方だ。



パニック映画よろしく、この狂いそうな環境から逃げ出した連中は例え魔導を退ける重装兵だろうとも土塊を石に投げつけた様にして死んでいく。



判断力を欠いた兵士が次々と散っていく中、まともな兵士にも発狂という終わりが少しずつにじり寄ってくる。


例え血で血を拭う地獄のような戦場を経験し、躊躇なく農民を嬲り殺しにする軍人であっても悪趣味なデスゲームめいた現状を耐えられる人間は誰としていないだろう。



「よう、フェルデが死んだよ。さっきの爆発でな。夜だから飛んでこないだろうとタカを括ってた。気をつけろよ。」



「あいつもかよ…クソッタレ、うんざりだ!」



見回りの連隊長がくすぶっている兵に声をかける。今日も今日とて死人が出たらしい。

彼も連日の戦死者カウントですっかりと窶れ果てていた。







Soyuzがもたらした1日5発のスカッドを撃ち込む作戦。


城を破壊するに至らなくとも、人間が必ず持つであろう「恐怖」を容赦なく与える。


兵力が潤沢で、強くなってくるゾルターン県にとってあまりに効果的だと言えるだろう。






———————





——同刻 ゾルターン県カカリコ村近辺




帝国の台所と呼ばれる此処、ゾルターン。

増加する軍人の腹を満たすべく広大な平野を転用し、毎日莫大な量の食糧生産を行う地である。


そのため、軍人ではない人民や彼らに雇われている高級奴隷等すべてナチスの強制収容所と遜色ない環境で働かされていた。



かつて村とされた場所に建てられていた文化的な建物は全て畑に姿を変え、住人を大きな納屋に押し込められてしまったのである。



最悪なことに、ファルケンシュタイン帝国の掲げる軍人至上主義も今日のゾルターンを形成するのを手伝う羽目になった。



軍隊にとって上に逆らうものはその場で殺されても文句は言えず、圧倒的な数と力によって支配されてしまった以上、領民に提示された選択肢は2つだけ。



従うか、死か。



こうして形成された絶望のプランテーション農園には衣食住の自由なんて存在せず、不可能と思えるほどの無茶なノルマが言い渡される。


出来ないとか、不可能だ。

そう口を開けば見せしめとして処刑されるだろう。




劣悪極まりない地で農具を振るう農民にとっては数少ない娯楽となっており、何故逃げないのかと問われれば「惨たらしく痛めつけられる様を見るためだ」と答える人間もちらほらみられる程である。




その中でも希望を求め逃げ出す者も出てくるだろう。


だが正気を失った人間はロンドンにとって格好の餌食になる。


どのみち身ぐるみ剝がされた後、これまで味わっていた苦痛が天国にも思える生き地獄に飛ばされる。


人材派遣と言う名目で。





これこそラムジャーがロンドンと結託した理由に他ならない。

生かさず、殺さず、逃げた人間はリサイクルし、徹底的に搾取する。


従わない人間は処分し農奴のガス抜きとして使い倒す。

帝国に媚び、自分は豪遊を楽しむ自己中心的メカニズムだ。



ただ昨今、暴虐を働いたツケが回ってきており、ロンドンは他県にまで出張って人さらいを働いていた。それだけ労働者が不足してる状況。


これは農業失策やカナリスが土壌改良に必要な泥炭を禁輸したことも重なっている。



「てめぇ何考えてんだこの野郎。」



「ただこれは——」



「ただこれは?何だ、おう。ふざけてんじゃねぇぞこの野郎!」



天馬騎士が農民の胸倉を掴み、怒鳴りつけた。

奴隷に移動する権利なんてない、一生畑で暮らし続ける運命。


村の外、それどころかは近郊にほっつき歩いてると言うのは余りにも不自然である。



「もういい、適当に痛めつけたからな、んなもんでいいだろ。——なんか右が足りねぇな」



そんな時にもう一人のロンドン組員が逃亡者を蹴り飛ばしながら切り上げる様促す。


夜が明けつつある今、ペガサスナイトがいる姿を見られたら非常にマズイことになる。



「どうせこんだけやれば見回りが拾ってくれるか。ずらかるぞ」



時間も差し迫っている。彼らは天馬にまたがると、足早に陸地を後にした。






——————





 夏の夜明けは早い。4時を回れば、日の出が迫る。


帝国の地にペガサスナイトの集団がいることは紛れもなくガビジャバンが関与していることは明白。


そのためロンドン構成員の中でも元天馬騎士は発覚する可能性を最小限に抑えるため夜間行動することになっている。



「あれは俺が唾つけたんだから1点だ」



「何言ってんだこの野郎、元はと言えば俺が見つけたんだろ」



時折天馬に鞭を打ち付けながら3人は空を駆ける。

取り分はああでもない、こうでもないという下らない話と共に熱波がじりじりと昇ってくるのが感じられる。


夜明けの飛行というものは心地が良いものだ。


「——ッ!?」


突如前方を見張る組員に向け、熱線のような炎が放たれたのである!咄嗟の判断で間一髪、躱す事が出来た。



「しまった!ドラゴンだ——!」



その瞬間、空中に血しぶきが四散し、花を咲かせる。


騎手は槍のようなもので、ペガサスは頭を長く重い矢でめった刺しにされたのである。

しかしこの空域には誰もいないはずである、かまいたちとでも言うのだろうか。


———KRRrrrrr!!!!!


ワイアームの咆哮と共に、透明の鱗が剥げていく。


「レッドフラッグ…!」


そこにいたのは赤旗を掲げた悪魔、ゲルリッツ中佐だった。





———————






突然の敵襲に残された二人は散らばろうとしたが、中佐からしてみれば見え透いた行動に過ぎない。



ゲルリッツは馬が反転する暇も与えず、安全装置を解除した上で竜騎殺しの槍を投げつけた。


不思議なことに、地上に向けて落ちる筈の槍が吸い込まれるようにしてペガサスに深々と突き刺さった。

馬が死ねば天馬騎士は制御を失い、墜落していく。


落下傘を持っていない非正規兵にとっては死も同然だ。



「全く良くできている。おまけに槍として扱いやすい。」



ドラゴンキラーを手にした感想はこれだった。

すれ違いざまに1騎、そして背を向けた騎士を1つ。


彼の技前もあるが、ここまで素早く処理出来たことは使っている武器のおかげだろう。



「旦那、光線は使わないんですかい?」


シムが早速新兵器を使いたいのか中佐にこう話す。



「ペガサスに魔力を介した攻撃は効きにくい——それに追いつける」



どういう訳か天馬には魔導が通用しにくい。

おおよそあのビームを放ったとしても効果は薄いだろう。



それにヤツは機関銃に匹敵するような飛び道具を持っていない。

戦闘機相手に慣れ切っていた彼にとってペガサスや飛竜は足止めにすらならないのだ。




すぐさま鞭を振るい、一気に加速をかける。

追われていることに気が付いたのか、騎士は後ろを向くと弓を乱射し始めた。


手慣れにしてもマシンガンの雨と比べれば弾数は遙かに少なく、あまりにも遅い。



ゲルリッツは飛んでくる矢をピッチャーの投げる豪速球程度にしか考えていなかった。



「来るな!来るんじゃねぇ!」



騎手は滅茶苦茶に短弓を振るうが、赤旗をつけたワイアームは渦を巻くようにして迫る。

殺気のこもった英傑の目が見えたと思った瞬間、空に赤い華が咲いた。



「そういえば思ったんすけど、なんでここ帝国なのにドラゴンナイトがいないんすかねぇ。」



一仕事を終え、地上に降下する合間。シムは何気なく独り言をつぶやいた。



「ロンドンだからだ。シラフから構成員になったのもいるが、大多数は前の戦争で逃げた負け犬共がほとんどだ。今更、重装歩兵なんて出てきても驚かない。」



国を跨いで悪事と言う悪事を働く国際犯罪組織「ロンドン」



その多くがガビジャバン人で構成されていること、そして正規軍に匹敵する装備を持っていること。全てに合点が行く。



ラムジャーはこの山賊集団と結託し、県を我が物顔で支配している。売国もいい所であり、深淵の槍によって殺されているはず。


中佐は続ける。



「それに私の考えに過ぎないが、ゾルターンはどこか歪んでいると見て間違いない。…だが決定的な証拠が出て来ないらしい。将軍を回収すれば話はすぐに済むが帝国は何故かそうはしない。一介の軍人である私が関わることではないだろうが。」



将軍は限りなく黒に近いが、此処は兵の胃袋を担う台所であることを忘れてはならない。

ここで混乱でも起きたら、この戦争は兵糧攻めにあって帝国は飢え死にする。



悪戯に真実を暴こうとせず、上層部は目をつぶっているに違いない。



小さな悪事を暴いて大事に至るなら、見なかったことにして安定を追求する。人民が何人死のうが苦痛を味わおうが知ったことではない。


何故なら、帝国は軍人が最も偉い国家だからである。


果てしない「闇」を背に、ゾルターンにも朝がやってきた。


次回Chapter124は2月12日からの公開となります。


登場兵器

・ドラゴンキラー

ゲルリッツ中佐に与えられた新しい武器。

持つ魔法の付与された槍。安全装置を外すと動体に対し狙いを定め飛んでいってくれる。ミサイルの原型のようなもの。


・オプティム

同じく中佐に与えられた新装備。

魔導で浮遊し、攻撃することが出来る超小型砲台。自在にフォーメーションを組み、熱線を放つことができる。

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