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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-5.  ゾルターン後編
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Chapter119. Welcome to Soyuz

タイトル【ようこそ独立軍事組織Soyuzへ】

———ウイゴン暦 7月 12日 既定現実 7月 19日 午前9時05分

———本部拠点


Soyuzは一時全滅という命がけの綱渡りの末、トリプトソーヤン城を制圧と目標の奪取に成功した。



かつて帝国の最高権限者、マーディッシュ・ワーレンサットならびにクライアントの妹にあたるイグエル・ワ―レンサットである。



彼らは即座に医療設備の整った本部拠点へ輸送され、精密検査と適切な治療後に早速、マーディッシュに対し事情聴取されることになった。



聴取室に通された彼は、冴島が椅子に座るなりこう言ってのける。



「——あの時の男か。この私を笑うが良い。今は支配者の椅子から堕ち今では捕虜になっているのだからな。」



会談があった際に見せた余裕ぶりはもうなかった。しかし少佐は表情を変えることなく聴取を始める。


同じようなセリフはテロリストの親玉を揺さぶったときに、耳にタコができる程何度も聞いているのだから。



「…これから聴取を始めます。」



フセインも、カダフィもかつて絶対的な独裁者として君臨していたが悲惨な最期を迎えている。

それに比べれば有情なものだろう。



少しも情が揺れぬ姿を見たマーディッシュは目の前の男は出来の良い司令官だと感心しながら、意味深なことをつぶやいた。



「——良いだろう。なんとでも聞くが良い。だが私が知る事が帝国の真実とは限らないことを忘れるな」



少佐は眉をわずかに上げ、思わず問い返す。



「…なに?」



「そのままの通りだ。私から、何が聞きたい?」



やはり玉座に座っていた人間、そう簡単に本性は見えてこない。







——————






「まず…あの城に囚われることになった経緯をお聞かせいただきたい。」



手始めとして、何故あのような場所に幽閉されていたか、について質問する。



するとマーディッシュは巻物を解くかのように口を開きはじめた。



「対異端軍反抗作戦において失敗を重ねたからだ。様々な県に力添えをしていたずらに人員を消費させたこともあるが、シルベーの城に増援部隊の派遣が止めになったのだろう。」




「帝国は何故だか知らんが人員を温存する傾向がある。何故だか私程度では知ることさえできなかったが。

不思議なことに費用の掛かるアーチャーやアーマーナイトよりも、費用がかさむことのなく運用できる魔導士は特に温存したがるのだ。」



Soyuzが勝利を重ねる裏では帝国の敗北がある。

それは至極当然の成り行きで、実力主義の色濃い軍事独裁政権では無能は真っ先に切り捨てられる。



言わばリストラに遭ったのだろう、だが国民を刺激しレジスタンスを生まない為にもミジューラのように処刑することはできないでいた、と考えるのが妥当か。



ただ一つ、引っ掛かる事がある。



冴島の目の前にいる男は腐っても独裁者だ。

鶴の一声で国を動かすことが出来るだろう。そんな彼でも知らない情報があるのは不自然である。



「ふむ。気になった事が一つだけ。国家における最高指導者の座に就く貴方でも知りえない事実。一体それは何なのでしょう」



その一言に皇太子殿下は一瞬だけ、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに口元を歪ませる。




「それに関して、大前提として国のかじ取りを行う賢人会議において、私が傀儡に過ぎない事を説明しなければなるまい。」



「本来、私は父上から皇帝の座を与えられなかった小物。そこで帝政時に反政府組織だったモガディシュと手を組み、それから帝国は軍が支配するようになった。モガディシュは役目を果たし解散したが、頭目やその残党が賢人会議を構成している。」




「そこでは私を凌駕する程の有能な人材が机を囲んでいた。そこで実感したとも。いかに己が未熟な存在であることを。」




「軍事政権が樹立しても深淵の槍が黙っていないし、国民を懐柔し支持を集めなければ玉座は容易く崩れる。そこで私は自ら傀儡を買って出たのだ。」




「知っての通り、深淵の槍は皇帝陛下やその一族の命令に従う。最も、皇族よりも皇帝本人の方が優先されるが。

私が玉座に座れば自由に制御することが出来、皇帝派の台頭も防げる。いわば生きる矢避けだ。それ以外に価値はない。」



マーディッシュ・ワ―レンサット。皇族と言う華々しい血筋を持つ一方で、現実はそう甘くはない。


彼は弾避け。


戦車に飛んできたロケットランチャーを叩き落すアクティブ防護システムに過ぎないのである。



「では正確には皇太子殿下が国を動かす権限はない…と?では今のトップはどうなっているのです?」



冴島は問う。



「その通りだ。賢人会議の面々が話し合い、国のかじ取りをしている。軍人である者もいれば、そうでない人間もいる。」



「この国は軍人至上国家と銘打っておきながら、実際はそうではない。

私が会議から追放されてから、もう連中のやっていることは与り知らぬ。ただ、私の代わりは作っているだろう。より使いやすく、思い通りに動く駒を」



「差し詰め…イベルだろうな。少し前に連れていかれたことを記憶している。何にせよ、コンクールスは二度と失敗は重ねない。その上、目の前の敵に勝てないなら、その相手が勝てないようなモノをぶつけてくる。そういう男だ」




 殿下の口から、少しずつファルケンシュタイン帝国の暗部が垣間見えてきた。軍人の楽園を宣う割に、トップは様々な人間が入り組んでいる。



それに、革命をいくら起こしたとしても支配層のすげ替えでしかないのだ。政治的な冷笑を少佐は抑えながら次の質問に移る。



「…コンクールス。とはどんな人物なのでしょう」



「賢人会議の長だ。本来はナンノリオンの将軍だったらしい。県に対し多くの課税がされ、巨額の軍事費に充てられるのは知っているな。ヤツが考案したのだ。」




「その金で人民、特に農作や小売りと言った軍事に関らない民には貧しい暮らしを強いる一方で、凄まじい勢いで軍拡を行った。」




「それだけではない、膨大な数の士官学校の設置や武器生産ギルドへの投資…軍事的なものに繋がるものは何でも金を投じた。反政府組織の乱立を抑えるため、皇族をあの城に幽閉したり、皇族を含む、徹底的な反乱者狩りを命じたのも。…手腕そのものは私をはるかに凌駕していた。」





脆弱な独裁国家を維持するためにはチトーや金日成と言ったカリスマが必要となってくる。


膨大な投資による発展を支援しながら、反政府組織や将来それになりうる「芽」を徹底的に潰し、政権を確固たるものにする。



コンクールスと言う男。時が時なら既定現実世界でも通用する有能な指導者であることに違いない。





私情に一切流されることなく、たとえさっきまで玉座に座っていた男すら匙加減一つで幽閉し、別の人形を作り上げる。

鉄の男(スターリン)か、あるいはその生まれ変わりを連想させた。引き出すべく情報はこのくらいだろう。


そう考えた少佐はある問いを投げかける。



「身内を手にかけることがあっても、何故反対しなかったのですか」



「私は血も涙もとうの昔に捨て去った人間。それに生みの親を売ってまでものし上がってきたのだ。身内に手をかけるのに躊躇するだけの情があると思うのか?」



その答えは簡単かつ、そして残酷なものだった。







——————






続いて冴島は冷徹にあることを聞う。


「この写真に写っている人物…ご存じですか?このローブを着た男です。」



空母北海から出された偵察ヘリで撮影された一枚の写真を差し出す。そこにはフィリスと共にある人物が移っていた。



「ヤツか。ファゴットと名乗る凄腕のダークマージだ。賢人会議の一人でもあるが…」



皇太子殿下が知りうる情報を話終えた瞬間、少佐はある真実を伝えた。




「この男はアリエル・ハイゼンベルグ。もちろん、我々の世界の人間です。それも諜報機関が血眼になって探しています。5年ほど前から失踪、そして現在死亡宣告が出されているこの人間がなぜファルケンシュタイン帝国にいるのでしょう」



そう、この男は世界中の諜報機関が血眼になって探しているお尋ね者なのである。


世界の端々に存在するSoyuzですら見つけられなかった人間が何故この世界に都合よく居るのか。


大きな謎の一つ。



「わからない。突然フェロモラス島にいるフィリスから推薦された技術者の一人としか私は知らない。帝国側としてもファゴット司祭の過去については良く知らないのだ。私は知る権限を持っていなかったが、彼が何らかの兵器を開発していたのは事実だ。」



冴島は彼の答えに少しだけ目を細めた。

あの様子は嘘を言っているように見えず、虚偽の証言をする必要性も感じられない。


おおよそ、マーディッシュの言っていることは真実に違いないのだろう。


だがこれが真実だとしたら、ハイゼンベルグはどうやってこの地に来たのか。


帝国の謎は深まる一方だった。







———————







———本部拠点 医務室




移送されたソフィアの妹、イグエルは精密検査を受けていた。

ただでさえ幽閉されていた上に人質兵器の動力炉にされていた一件があるからだ。



当人は何の異常もないと言い張っていたが、内臓のSOSは大抵手遅れになってから表面化するもの、どちらにしても検査を受けない言い訳にはならなかった。



「産出されたBMIと精密検査の結果、身体面は特筆して悪い所はありませんでした。しいて言えば赤血球数が少ない傾向が見られますが、大して問題ではないでしょう。」




「BMIは18.95、健康体ですね。このまま維持していってください。ご存じの通りかと思いますが、痩せていることが必ずしも健康ではないという事をお忘れなく」




検査を担当したクルーニーは結果の記された用紙を手渡す。


麻酔なしに背開きにされたと同等の苦痛を味わっていたそうだが、ざっと見る限りでは精神に異常をきたしてるようには見えない。

精神科の医者ではないから深層に潜んでいるかもしれないが。



だから大事を取って医務室のベッドに寝かしつけている。見舞いに来ていたソフィアが居たこともある。



「ああ、どうも。眼が黒いうちには背中を開かれたくないね。」



「全く私も同感だね。開く側もまっぴらだ。では失礼。——はぁ。どこ行っても医者に暇はこねぇな…」



彼はまだやることが残っているらしく、ボヤきながら早々に医務室を後にした。



ふと空のベッドが弾帯のように連なり、静間に帰す。

例の重傷者は既に経過観察で十分なくらいに回復していたからである。



そう言うことも重なって、姉妹二人きりになっていた。



「元々長い髪がこんなに伸びて。私が切って差し上げましょうか?」



健康祝いにイグエルにと渡された手櫛でソフィアは長い、長い髪を梳かす。



「いや。区別がつかなくなってしまうだろう。姉様の言葉を使ったら猶更だ。…でしょう?」



軍事政権になってから長い間、姉妹でこんな他愛もない話をしたことがなかった。背中を任せた彼女はわざとらしく姉の声真似をして見せた。



「そんな真似はおよしなさい。私もどっちがどっちだか分からなくなってしまいます」



最も聞きなれた自分の声ですら区別が出来なくなってしまう声。

本物そっくりの写し絵がなく、情報リソースが限られた帝国にとっては深淵の槍でも欺けてしまうだろう。


自然が生み出したクローンを見破るのは例え分子生物学者でも難しい。



「…ははっ。だから口の利き方ををわざわざ変えているんじゃないか。」



イグエルは目をつむり、黙って長い髪を姉に託した。ここにはヒトの気配すらない。


あまりの静かさに、医務ベッド上では時が止まっていると錯覚してしまうほどに。



「…姉様にこれ聞くのはあまりよくないと思っている。…聞きかじった限りでは余所者に帝国の政権奪還を任せていると聞いた。——本当にいいのか?」



ソフィア同様の物分かりと推察の良さから、思わずこんなことを聞いてしまった。



彼女は帝国の策謀を嫌という程見てきた身である。Soyuzは国を奪還した後、また玉座のすげ替えをするのではないか。そう思っても不思議ではないだろう。




「私が行った行為は間違っている、と思います。いずれ罰が下るでしょう。けれど、このままの暴走し続け、取り返しのつかないところまで来てしまったら?

所詮は仮定と結果の話で、こんな見苦しい言い訳なんて通じないことくらい承知してます。」




自分だってこんな決断、狂気の沙汰であることは承知の上だ。



このまま国の血とも言える人民を虐げ、他国を絶滅させに掛かる恐ろしい戦争をし始めてしまったら。

その挙句、匙加減一つで国を破滅するだけの力を手に、生命を全て滅ぼしてしまったら。



最悪のシナリオに至る前のコラテラルダメージと言いたいが、それが正しい訳ではない。

複雑な思いでいっぱいだった。




「特に私からも言うことはない…一つだけあるな。エイジも来ているはずだ。大事にしてくれ。いざ、と言うときには既に手遅れになっていることが世の常だ。姉様にはこの後悔だけはしてほしくはない」



軍事政権に移行した当初、旧帝政象徴を「修正する」活動があった。文化大革命のようなものである。そのため皇帝一族のみならず、まさに古き時代の象徴である従者も粛清されてしまった。



看取ることも叶わず、まるで気が付いた時にはあまりにも遅すぎた。イグエルが忠告できるのはこんな程度でしかなかった。






—————




「本当にいいんすかね。」



「見舞いに行かない理由をお前は言えるか?」


一方その頃、詫び品を一つ持ってきた班長榊原とジョンが病室に足を運んでいた。


エイジはと言うと、感極まったのか激しく取り乱し号泣してしまったこともあり、マリスが必死で落ち着かせている。


本人もこんな哀れな姿を見せられないという事で彼らが来ていたのである。



当然、ジョンは見舞いにいく班長を心配した。

それもそのはず、麻酔なしに手術したような真似をしてしまった。医療ミスにも程があるだろう。



「勝手に背中を開いて本当に申し訳———」


榊原が目の当たりにしたのは、二人のソフィアが存在している光景だった。


髪の長さがそれぞれ違うが、外見がまったく同じために脳が理解を拒む。



「…ジョン公よ。死ぬほど難しい間違い探しは好きか?」



「どっちがどっちだか分からんすね。」


何も事情が知らない人間に対し見抜くことは不可能であることが実証されてしまった。





——————






 見舞いの菓子折りをベッド脇のテーブルに置いてから、一連の事に対して班長らは平謝りしたものの、イグエルは取り立てて責めようとはしなかった。



「…で、髪が長い方が妹さん、短い方がいつもの嬢ちゃんって訳か。」



榊原は頭に疑問符を浮かべながら確認する。

彼からしてみれば、普通のズワイガニか越前ガニとの区別をつけるようなもの



どんな理屈を並べたとしても一目で見分けられるはずがなかった。



大抵どちらが釣り目、という違いくらいあっても良いものだが、髪型以外の要素が全て同じなため分身したのと大差ないだろう



「ええ」


「よしてくれ。本格的に混同しちまうだろう」



その上、片方が抑揚を完全にそろえてくるのだから堪らない。そうしているとジョンがあるアイデアを口走った。



「思うんすけど、班長のトレードマークってグラサンじゃないすか。予備あるんすよね?」


「あるぞ。初めは反射が鬱陶しくてつけてたが、今じゃ伊達グラサンだからな。」



バックライトがある端末でも反射光一つで見えなくなる。それを嫌った榊原はサングラスを着けていることが多い。

だが度が入ったものではないため、予備は容易く手に入る。

一つくらいくれてやってもいいだろう。



そう考えた彼は半ば押し付けるような形でサングラスを掛けさせた。



「そうだな。これ着けとけ。嬢ちゃんと間違ってアンタを連れてきたら大変なことになるからな。これがあれば反射光のせいで困るこたぁなくなる。だがお日様を直接見るもんじゃねぇぞ」



「うわ。暗ッら」



初めてのサングラスに戸惑いを隠せない。


眼鏡と言うもの自体が存在しないのもあるが、途端に視界が暗くなる感覚はなかなか慣れがくるまで時間が掛かるからだ。



こうしてみてみると一目瞭然、ソフィアとイグエルの区別ができるようになった。

まじまじと見ると、妹側の方が若干筋肉質に見え、凛々しい気がしなくもない。



ただの思い込みだろう。



「これってサラ・コ———」



「待てやジョン公。捉え方にとっては傷つくぞ」



余計なことを言おうとしたジョンの口を班長は即座にふさいだ。

次回Chapter120は1月15日10時からの公開となります


兵器解説

・アクティブ防護システム

戦場で無数に飛んでくる不躾なRPG7や対戦車ミサイル等を感知して、直撃する前に飛翔体を放つことで叩き落すことができる。

この物理的なタイプはハードキル型にカテゴライズされる。


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