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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-3. ギンジバリス沖海戦
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Chapter109. Hero City Gingivalis

タイトル【英雄の街 ギンジバリス市】

戦艦サルバトーレを撃沈、ギンジバリス市の喉元まで踏み込み、こうして無血で制圧を成し遂げたチェレンコフ大佐。


しかし彼が知らず知らずのうちに足を踏み込んだ先にあったのは地雷。

街の代表者が沈めた艦の艦長だったのである。

突然の来訪も相まって、刺激してしまったことで市街地は大騒ぎになっていた。



 捜索活動の結果、肝心のギンジバリス大佐は無事発見され回収されていく一方で、存亡の危機を途端に託されたことから、チェレンコフ一行は一旦自分達の船に戻っていた。



そこで仕事が終わるはずがない。


彼は生存者の受け渡し指揮しており、これを深夜になっても行っていたお陰で、現地住民が乗るボートがしつこく太田切周囲をうろつかれた事さえあった。


おおよそ艦の明かりを辿ってきたのだろうか。

この船自体曰く付きのものだが、重巡洋艦は見世物ではなく立派な「軍事活動を行うための船」である。


大佐は思わず撃沈命令を出そうとしたが、ロケットランチャーと言った武装を持っていない旨の報告が出されると口を噤む。


ソマリアにいた時の癖が抜けておらず、彼はこのような小型船を見ると即座に撃沈したくなる。

それも義務めいた強迫観念といった段階まで来ている有様。


チェレンコフは欲求をぐっと抑えて、翌朝に備えた。







——————





——ウイゴン暦 7月 9日 既定現実 7月 16日 午前10時24分

———ギンジバリス港湾洋上 重巡洋艦大田切


そうして新しい朝がやってきた訳だが、もうすぐ昼に差し掛かった時艦橋に一報が入る。



「大佐、ご準備を」



「うむ。船を出すよう伝えておけ」



そう。旗が上がったのである。

船にとって旗は正に声明文のようなもの、今の合図は「準備が出来た」だと言えよう。


その瞬間をハンターの如く待ち構えていたチェレンコフは大きな体に纏った背広の襟を整え、大嵐のような顔を両手で叩く。


今度こそ、そう言ったときに必ず行うジンクスだ。

こうすることで頭は刃のように、観察眼はミサイルの如く冴えわたるものだ。あくまで思い込みにしか過ぎないが、気の持ちようがどんな時においても重要である。


再び彼はギンジバリス市へ足を運ぶ。




——————




 やはりと言うべきか、一行が上陸すると野次馬が押し寄せてきた。

こうなると軽いお祭り騒ぎに発展するものだが、Soyuzはこの国にとって違憲集団と言うことになっているらしい。


試しに視線をぐるりと回してみると、前に来ていた人間とは違う人々が押し寄せてきている。


昨晩、権能中将としばらく連絡を取ったが、国のトップによって敵視された後、行く先々で敵対的な態度を取られたという。


それもどこ吹く風、此処では珍客でも来たような扱い。まるで動物園にいる猛獣の気分だ。日本に来たときに見たパンダもこのような気持ちなのだろうか。


歯に着せぬ気分の中、チェレンコフは頭脳を回転させ状況を整理しにかかる。


軍人と民間人との間で情報の格差が存在しているのか。

この感じは祖国で感じたことがある、情報統制が行われている可能性がある。


大佐はそう感づいた。



「すげぇ、噂通りだ!」



「兜みてぇな(スキンヘッド)してやがるぜ、いいモン見たぜ。なんだあの真っ黒な服は」



色々と聞き捨てならないことが耳に入るが一行は進む。






————————




——ギンジバリス大佐邸宅



会談は代表者の豪邸で行われる予定だ。


外観と言えば質素な造りであり、横にいるヘルペン曰く、こういった会談の場としても使えるよう作られているとのこと。


ゾルターン県の将軍もここに来たことがあるらしい。

広大な一方、主が使っている区画は本当にこじんまりとしたものだという。


ギンジバリスなる人物がいかに真面目な人間かがひしひしと伝わってくる。

そう言っても誠実な指導者が必ずしも善とは限らない。カンボジアがいい例だ。



「——どうぞ、お掛けになさってください」


真っ白な応接室に通された一行が待ち受けていたのは、ギンジバリスその人だった。


船乗りとは思えない修道士のような顔つきをしていながら、胸にはおびただしい勲章が付けられている。夜通し会合でもしていたのか少しやつれているものの、毅然とした気迫を纏っていた。


「では早速本題の方に入らせていただきましょう」


チェレンコフは椅子に腰かけると懐から契約書類を取り出し、大佐は勝負に出る。






———————




 インターネットが普及し始めた21世紀。

お互いにいがみ合っていた米ソ間もリアルタイム通話することが出来てしまうし、アメリカに居ながら無人機でアフガンあたりを攻撃することが出来る時代。


だが一番慣れないのは撃沈した艦の艦長と顔を合わせて会談していることだろう。



「我々はこの契約書の内容通りに加え、港湾増築工事の施工。武装解除を要請したいと考えております」



最初の手はSoyuz側から打たれた。彼はクリアファイルから印字された契約書を取り出した。


内容は通貨の共通化や拠点を設置するにあたり土地を買い上げること。


当然ながら敵対的騒乱、内乱に該当する破壊活動を行った場合即座に鎮圧後殲滅する旨が記載されていた。



治安維持の観点から防衛騎士団の存在は認可される一方、反Soyuz運動に利用される恐れから戦艦類といった大型兵器類の接収が明記されている。



ハリソンですら屈服させたこの契約。

利点の塊でしかないと普通は思うだろう。だがギュンターは鋭く指摘する。



「ふむ、一見利点しか記載されていないように思えるが取引の項目に関して素人ながら質問させていただく。」


「こちらのゴールドとエンは果たして平等に取引されるのか。こちらがいくら大金を積んでもそちら側にとってはそこらの土塊としか交換できないという事態にならないと誰が保証できるのか。

契約書の内容を履行すると言っても本当にその通りなのか疑問ではある…ということですな」



いくら契約書があるとはいえ、それを破ろうがペナルティは存在せず、やりたい放題ができるのではないかと考えたのだ。


誰が保証しているのかというのも重要で、名前に行方がしれない皇女の名前が記されているではないか。こんなものいくらでも偽装が利く。



理屈を並べようとも決定的な証拠が掛けている以上、不平等条約を結ばれる可能性を危惧するのも当然だろう。


集落を維持する人間としてどこの馬の骨かもしれない人間が街の住人を虐殺しようが咎められない事態になってはならない。経済もこれと同じ。


やはり地名が彼の名前を冠することもあり、相当に疑り深いようだ。

やはり論より証拠かと判断したチェレンコフはギンジバリスに対し弁解する。



「——上からの命令により、この港湾を無傷で手に入れるよう求められています。

私の一存であれば市街地含め軍事基地と認定し、艦砲射撃によって港だけを残して洗浄することが可能です。ここからも見えるでしょうが、あの程度の距離であれば問題なく実行できるでしょう。」



「だが何故しないか。民間人が含まれるような市街地を破壊することは規約によって禁止されているからです。」


「一発でも砲撃すれば私は処刑されるでしょうし、大田切も全世界の敵として扱われるでしょう。故に出来ないのです。

ここにSoyuzコンプライアンス…規約書がございます。その旨が記載されていますのでご確認ください」



チェレンコフ大佐は用意周到だ。

学会で飛んでくる恐怖の素人質問に対しても全力をもって迎撃できるように準備を整えていたのである!


証拠品を提出するようにファイルから二枚目の書類を取り出す。


現地戦闘スタッフ。

つまるところガンテルやミジューラに支給されるものになっているが、Soyuzにおいては上から下までコンプライアンスに従わなければならない。


「拝見しました所、確かに厳格な規則によって統率されていることは理解できました。我が街は漁業が主産業となっていることは周知の事実でしょうが、この運用には港を使います。」



「軍艦が留置されることもあるもので、仮に工事が入るとして大型船が置ける場所を失うことは経済に対する影響もあります。そこの補填は入るのでしょうか」



「それに関しては———」



裁判のようなやり取りは早々止まることを知らないようである。





——————





——ウイゴン暦 7月 9日 既定現実 7月 16日 午前12時30分

——ギンジバリス港 小型船上



「まさか本当に来るなんてなぁ…」



「いやぁ…」


ジャガバタ男と一眼レフ男はボートの二人はフリゲートの近くで船を下ろし、ひそひそと話をしていた。艦の乗組員は職場から離れる時は艦長の許可がなければならない。


許しが出たまでは良かったが、よりにもよってバートラー少佐が監視目的と言いながら、その実態は釣り糸を垂らしたいがために同行することになってしまった。


飲食店でばったりと上司に出くわしてしまった会社員のような気まずさが広がる。



「当然お前らが妙な事しでかさないか監視するために俺はいることを忘れるな。しかし検疫の関係で釣り具は疑似餌系でしかダメなんてナンセンスだぜ全くよォ!」



バートラーは部下に釘を指す一方で総額20万円以上のロッドを取り出したではなかろうか。

下手にボートを動かそうものなら注入拳を使って海軍精神を注がれてしまうだろう。


要は殴られる。



あの海賊船を近くで撮りたい装填手にとっては致命的。

軍隊は上官の言う事が絶対なためどこに船を止めるかも艦長の匙加減一つでコロコロ変わるはずだった。



「しばらくお前らが好き勝手してていいぞ。」


どういう風の吹きまわしか分からないが少佐の様子がおかしいという事が良く分かった。





—————— 





 双眼鏡などで見る風景と、こうして実際に見る光景というのには大きな差があるもの。

ギンジバリスの街は小高い丘に作られているのだろうか、棚田の如く白い石造りの街並みが広がっている。

港には古風な帆船がたむろし、古の地中海を思わせてくれるだろう。



日本とは異なるさわやかな暑さが照り付けるが海風がそっとかき消す。


船着き場に近づけば船の数はどっと増えはじめる。木造軍艦も見えるようになるが、小舟から見てみれば巨人のよう。装填手はカメラを取り出しパパラッチをし始めた。



「見れば見る程、不自然な船だ。——ここで止めろ」



竿を槍のように抱えたバートラーはジャガバタ男にエンジンを止めるよう指示を出す。



「こんなとこでいいんすか。」



「いいったらいいんだ。見ろ、潮が入り込んでるってことは何かしらかかるだろ。」



「はぁ」


釣りをしない装填手にしてみれば、何の変哲もない海上にしか見えない。わかったとしても流れが一体どうしたのか。

だが少佐がそういうのだから仕方がない。

エンジンを止めるとロッドとテグスを鞭のように撓らせ一投。


リールから出ていた釣り糸が止まり、着底を知らせると三人の間に静寂が訪れた。


釣りの大半はこうした何もない時間がほとんどである。


「どうなるんすかねぇ、チェレンコフ大佐の件」



「なんかアヤシイ挙動はあるっちゃ…あぁ?大佐の事だから大丈夫だろ。あの人ハゲだけど交渉ごとに関しては異様に用意周到だからな。ま、なんとかなるっしょ。」



事実、バートラー少佐にすら会談する内容というのは全て知らされていない。

あのハゲ頭はそのようなことを一切喋らないタイプの人間だ。


その分優秀なのだから質が悪い。



「ヘマったらその時はそん時だ。これ以上状況悪化なんてする訳ねぇんだから、今なんてノーリスクのダブルアップチャンスって訳だ。やらかしても痛くも痒くもない上に成功したら甘い汁を呑める。うまく立ち回るもんだ。」



少佐はこう言いながら空を見つめていた。






————————






——ウイゴン暦 7月 9日 既定現実 7月 16日 午後16時09分

———ギンジバリス大佐邸宅


「うむ。この条件ならば構わないだろう」


長きにわたる論争の末に、チェレンコフ大佐はギンジバリス氏に契約内容を飲み込ませることに成功した。港を改修の間損害を被る漁民に対しての保証、一部海産物を購入すると言った妥協案の下ではあるが。


裁判めいた論争中で、港の設備を破壊すると言いだしたことさえある。

思わず防衛騎士団詰所を艦砲射撃することも脳裏によぎったが、なんとか穏便な形で済んだのが不思議なくらいだ。


長い会談を終えようとしたその時、突如ソ・USEが無線を受信する。


———PEEP!——


「失敬。ちょっと野暮用が。」



そう言いながら席を外し、応接間から足早に立ち去った後応答ボタンを押す。



【こちらBIG brother、Polar bea応答せよ】


どうやら権能中将からの連絡だった。ここまで会談が長引くとは想定していない分、止むを得ないだろう。このタイミングで無線を寄越してくるとは何かがあるに違いない。


【こちらPolar bear】


短く応答すると向こう側からの指示を待つ。


【近日中にTG作戦に必要な情報が不足している。お前に頼むのは気が引けるが事情を知っている人間をあたってほしい】


会談を終えたチェレンコフ大佐を待ち受けていたのは、無茶ぶりだった。


次回Chapter110は11月20日10時からの公開となります

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