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Chapter 12. mission in 007

タイトル【スパイの大作戦】

——VoooOOMMM——

重々しい軍用車(ハンヴィー)のエンジンを響かせ、コンボイトレーラーのように突き出た排気口からオイル臭い白煙をまき散らし、舗装もされていない悪路を進む。



無骨なインテリアもないハンヴィーの運転席と助手席は殴りつけられるように激しく揺れることは当たり前で、戦場を駆け抜ける彼らにとっては茶飯のことである。



車内には運転を担うスタッフと捕虜になったはずのガンテル、後方の席には二人の兵員スタッフが乗せられていた。


「馬いらずでそりゃ速いのはいいけどな、揺れがひどすぎる」


「わがまま言うんじゃあねぇ、そのうちこいつじゃないと満足できなくならぁ」


「やべぇ!」


ドライバーとガンテルは激しい振動で時折座席から跳ね上がりながら軽口を飛ばしあう。

情報を抜き出した捕虜をそのまま平原に捨て猫めいて投棄するのだろうか。Soyuzの思惑はそれと違っていた。




—————




アトラクションを数倍ひどくしたようなハンヴィーにスタッフと捕虜を押し込める事となったのは数時間前に遡る必要がある。



元をただすと、Soyuzの活動は何も軍事作戦だけではなく探索と探査を行う手広い組織。



現地のクライアントと捕虜となったガンテルの知りえる情報だけでは偏りが生じる上に知りえない情報やその国の情勢といったパーツが依然不足していた。



尋問の際、森を抜けた先に市街地があるという情報を手にしていたSoyuz側はその街に対して偵察を兼ねた探査を行うこととなった。



 しかし作戦には大きな壁が立ちはだかる。



多国籍の人間が集まっているSoyuzでは地球上の地域での潜入スタッフは湧いて出てくる程在籍している。


それでもなお次元を隔てた向こう側の文化に精通し、かつ怪しまれずに潜入調査することができる人間は数が知れていた。

 


「森を出たハリソンの街だろ。何を言うんだアーマーメン(冴島少佐)。まかせろ。そこは俺の庭よ」



そこで協力的な捕虜上がりのスタッフ、シュムローニ・ガンテルに白羽の矢が立ったのだ。



 すぐさまある程度の資金を配給し、諸経費としようとした。しかしながらSoyuzは次元を隔てた先の通貨などは持ち合わせているはずもない。


そこで再び尋問が行われると香辛料、特に胡椒の価値が比べ物にならない程あったことが判明した。



マーケットで買えるミルがついた安物胡椒を見せるとガンテルが吹きだしたことからそのことは明らかとなった。


ちょうど彼の持っていた私物入れに忍ばせる程度でも莫大な価値に相当するらしく、携行されることに。



ガンテルの提言から軍人であることを隠れ蓑にすればいいとのことで、収容当時そのままの状態で出撃することとなったのだ。



暴れ馬にジェットエンジンをつけたようにひどく揺れる車内では超小型の補聴器型無線機と、肩当てと布の間に挟むようにして取り付けられた極小ピンマイク一体型カメラの最終調査確認を行っている。



ガンテルにとって生まれ持って初めてのこれらの機械だが、仕組みなど聞いても理解できないだろうし、どう動くかしれていれば大概どうにかなると割り切っていた。



「こいつだ、これで一番音が小さいなんてふざけてやがるぜ。」



ガンテルは小さな無線機を必死になって操作して音量を下げていた。生まれは漁師の家に生を受けたため、既定現実世界の人間とは聴覚が比較にならないほどに良いため音量を絞る必要があった。



【——こちらLONGPAT、聞こえるか。そっちのやってることは神様のように見える。罰当たりなことはしないことだな】



少佐がくぎを刺すようにしてガンテルに無線を飛ばした。この捕虜の無駄話とボリス中尉からの告げ口から素行は素晴らしく良いとは言い難い。そんな兵には釘を刺さないと始まらない。


それが少佐のポリシーであった。



「ああわかったよLONGPAT。こちらundergrand …やっぱ慣れねぇな、隠語なんてさ。——ブェッフエ゛エ゛エ゛エ!!」



ガンテルは鬱陶しそうに大弓を脇にどけてから踏ん反り返ったが、これ見よがしに振動に跳ね上げられ天井に頭をぶつけていた。兜をしていても痛いものは痛い。


派手にぶつけたのかしばらくうずくまっていると、ドライバーがこう言った。





「そろそろポイントだ。しっかりやれ。お前がこっちの情報を漏らしたらお前らを血祭にできるだけの力があることを忘れるな、だってさ。少佐からの伝言よ。早めに調査した方が身のためだぞ」



「もうやめてくれ。これで言われるのは72回目だよクソッタレ。俺はあのアマをぶちのめすまで変な

気起こすわけねぇだろ。——この野郎わざとやったな!」



馬よりも遙かに速く走るハンヴィーは殺人的なブレーキをかけて街はずれに止まると、まるで吐き出すかのようにしてガンテルを下ろしていった。



彼は不機嫌な顔をしながらぶつけた頭を摩り、街へと潜入していく……



—————


 ジャルニエ県にあるアイオテの草原を東側に進んだところにある最果ての街、ハリソン。

かつては繁栄し、朝方になると酔っ払いが背を壁にしてぐっすり寝ることができるほど平穏な街だった。ガンテルが知る限りのハリソンはそうだったが軍事政権が樹立してからはその様相は一転していた。軍隊である階級章をハリソンの守衛に見せ、要塞のような大きな門をくぐると一変した街が目に映った。


「なんだよコレ…」


ガンテルは言葉を失った。かつての繁栄は見る影もなく、軍隊がこの街を前線基地に使えるようにしたようにしか見えぬ強固な城壁に街は桶のように囲まれ、そこでは女子供が死んだ目をして働かされている。その有様に彼は顔をゆがめて居ると無線が入る。


【どうした、なにか異常を見つけたか】


「要塞化されてる。あんな城壁前にはなかった。何かの間違いだと思いたい。しかもアーチャーやソルジャーがそこら中にいやがる。ちょうど街の果ての壁の上にまでだ」


【了解。通貨を手に入れ次第、あらゆる情報をかき集めろ。】


慌てるガンテルを尻目に少佐は拠点で映像と音声をモニタリングし続ける。


傍らには尋問の際に使った手帳もおかれ、時折ボールペンでなにやら記入され続けているではないか。


常時曇天したように石に囲まれた薄暗い街を進む。

変わり果ててしまった軍隊のためだけに生かされるかつての街を。




城壁が街を覆い、そして要塞として生かされ続けるハリソンの街を進んだ。



幸いなことに店の位置などは劇的に変化しておらず、彼の土地勘は完全に死ぬことはなかったが、変わり果てた街を見たガンテルの顔は常に苦虫を噛み潰したような渋い顔を続けていた。


質屋は街の東、俗に言うスラムとの境目の珍妙な場所にある。



飲み屋街を抜けて中央に出ると、大きな掲示板に人が群がっていた。



あの掲示板は大体くだらないゴシップだのが落書きめいて投下されているところだが、その様子とは明らかに違う様子だった。



あんなつまらない書き溜めがまとめられた場所がなぜここまでに人を来るのだろうか。

ガンテルは野次馬の一人になって時折民衆を殴りつけてでも前に出ると、その正体が分かった。



 なんでもジャルニエの城に投獄されていた別の県を統治する将軍が面白可笑しく処刑されるらしく、野次馬は我先にその光景を見たいと騒乱しているだけであったのだ。



「へぇ、反逆悪徳反乱分子将軍ミジューラ・ヘン・アルジュボン、ジャルニエ城にて火竜裂きの刑罰に処する。ジャルニエ県将軍ベラ・ホーディン…ねぇ。あれ、これ領主変わったんだ。どうりでこんな真似するわけだ」



素早くガンテルは人の海を掻き出すように脱出するとさっそく耳にうずもれた無線機に触れて連絡をよこした。



【こちらunderground。どうやらここの将軍が挿げ変わったらしい。——どう思うよ】



【こちらLONGPAT。有用だが本作戦では対象外の情報だ。続投せよ】



相変わらず少佐の声は冷たい。それに若干嫌気を差したのか痰を道端に吐き捨て交信を切る。

地元の街を何者かにいじられるという切なさは現地にいるガンテルにしか知りえないこと。


なおもまた彼は足を止めようとしない。


中央から東に進んでいくと傷んだ建築物が増えはじめ、建物の間にはたまに死体が転がっている。

しばらく進むと、何やら怒号が裏路地から聞こえ始めた。



「お前、この落とし前どうやってつけるんじゃ」



「身ぐるみ剥いで、革もはがしても金が足りねぇんだよなぁお前よぉなぁ」



ガンテルは脇に挟んだ大弓ガロ―バンを取り出し、路地裏へと向かった。






————







そのチンピラをよく見ると頭に紫の布を巻き、胴体は帝国軍のソルジャーの鎧をつけた挙句に安っぽい剣を持っている。

それで怯える人間を尻目に踏ん反り返っているではないか。


片割れは膝を突き出して怯えるヤツの顎に剣をなぞらせている始末。


間違いない、とガンテルは確信した。



怯える平民を尻目に巨大な弓のために作られた大きな矢を矢筒から取り出し、いともたやすく弓を弾き絞る。籠手が妖しい光を放ちながら水蒸気を発し始める。



ガロ―バンは重装兵の弱点さえも貫通して射討とめる規格外の大弓、大男でもまともに引けぬ代物である。

それを可能にしているのは彼が付けている魔法で身体能力に添え物をした籠手があってこそ。



「首跳ねても売れねぇんだよ。餌にもなりゃし———」



首をかしげ、より強い脅しをかけながら平民に詰め寄ったその時である。空気を切り裂く音とともにごろつきの目玉と頭を貫き、近くの壁に縫い付けた。


矢は壁に深く突き刺さりチンピラが倒れることも許さないほどである。



重装兵の装甲の隙間を的確に貫通し、そして一撃で殺す。それがガロ―バンの強みだ。

逃げ出そうと体をねじらせようとしたチンピラも同じような定めになるかと思いきや

それは違う。


瞬時に両肩を石の壁に縫い付けられ動きを瞬く間に封じられた。



「軍人様のお通りだ。死にたくなきゃ金を洗いざらいよこせ。そしたら殺す」



ガンテルが弓を構えながらゆっくりと近づいていく。



彼の腕は伊達ではない、70m先の人間の頭にある目玉だけを撃ちぬいて殺すことができる。

その眼は殺意をむき出しにした猛獣そのものであった。



その恐怖に歯をがちがちと震わせながらごろつきは剣を力なく地面に落とした。今にも殺される絶望に晒されたのである。あの平民のように。



チンピラはおとなしく身ぐるみ剥がし、少しばかりのカネと地図を奪い取るとガンテルは躊躇なく弓を引いた。



【悪いがコンプライアンスに触れることになるが——】



【あいつらは金のためならなんっでもするクソみたいな組織ロンドンの下っ端、犬のクソよりも価値がない野郎だ。人じゃあない上に積極的に駆除しねぇといけねぇよ。それと聞いてくれ。地図をばっちし手に入れたぜ】



ガンテルは少佐のように言い放ち、カメラが仕込まれている肩当てに地図をぎこちなくちらつかせた。



【確認した】



カメラ映像をみた少佐はガンテルにそう報告した。

国をまたぐ反社会組織ロンドンの末端。帝国軍では害獣と同等の扱いを受けている存在である。


ゴキブリをつぶしたに過ぎないのだ。


ガンテルは家畜を精肉にする工場の人間めいた冷ややかな視線を死体に送る。



少佐はあまりの光景に言葉を少しばかり欠いていたが、地図が手に入ったことを鑑みると第一の目標は完了していた上に強く言うことができなかった。



当の本人は口笛を吹きながら奪った地図を片手に質屋に足を向けていた。まるで喧しい蚊をひねりつぶしたかの様相であった。その場で脅されてたか弱き人間は適当に殴りつけて口封じをさせた。



【ロンドンと言ったか。連中は軍に追われているのか】



【そこまでじゃあねぇ。あいつらは人間じゃあねぇ上に無駄に金を持ってるからそれを有効活用してるだけよ。小遣い稼ぎよ。中には駐留した街のロンドン共を皆殺しにして風俗狂いなんてのもいたよ。うらやましい限りだぜ】



【あそう……】



少佐はこれ以上追及することはしなかった。周りには護衛の兵士が増えだし始める。


喋っている間に質屋についたのか無線越しとカメラ越しからは石造りをしたヨーロッパ建築が広がっていた。

仕切られたカウンターがあるだけの手狭な店ながら、奥行きがあることは垣間見える。


ガンテルはカウンターに座り、呼び鈴を鳴らすと中から中年の男が現れた。



「ちょーっと金が今月なくてよぉ、なぁ。」



ガンテルは今までの殺しの顔から人間の顔に戻り、店主に話しかける。


質屋というのは本格的に金に困ったときに行くものである。あまり行ったことはないが一貫して不愛想な店主であることだけは覚えている。



「盗品か、戦利品を売りたいんか。軍人さんよ」



店主は皮肉を混ぜながら嫌味らしくそう言った。するとガンテルはにやりと笑い、唐突に満杯になった小さなきんちゃく袋を取り出した。



「聞いて驚くな、中身は全部胡椒だ」



最初こそ疑っていた不愛想な店主はその袋とひったくるようにカウンターに引き込むと目を丸くした。中身は本当に砕けていない胡椒の粒が無数に入っているのだ。


それは金貨が満杯になった袋に匹敵する価値がある。袋から静かに胡椒を取り出すと香りと粒をにらみつける。




「大体粒がそろって…なんだぁこりゃあ。香りもいい。素晴らしい逸品以外の言葉が出てこないぞ。しかも黒コショウとは恐れ入る。最高の素材を丁寧に仕上げてある、腕利きがつくる職人の技だ。こんなのみたこたねぇ。こいつはもはや飾りもんだ。」




「こんなの国中のお偉いさんが喉から手が欲しがってもなんら不思議じゃあねぇ。戦争になっても不思議じゃあねぇ。ありったけの金貨で買い取ってもまだ足りねぇ。軍人さん、うちで買っていいのかい。家宝だよ。食うのがもったいない」



店主は子供のように目を輝かせ、軽く涙をぬぐい心底感動した様相でそう言った。

芸術というものはさっぱりわからないが、本当に美しいものや価値のあるものを見た人間はこのような反応するのだろう、ガンテルはそう思った。



「もってけこの野郎!」


店主がそう叫び金貨を無理やりガンテルに押し付けた挙句店からつまみ出すと、凄まじい量の金貨と、端金としていくらかの銀貨を手にすることができた。



【こちらLONGPAT、すさまじい金だな。どれくらいの価値がある】



【もはやバカみたいにでかい屋敷が買えちまうよ。実家がとこなんて藁小屋みたいに思えちまう。しばらく俺は金をみたくねぇ】



莫大な富を手に入れてもなお、探査は無慈悲に続けられることとなった。

どの世界でも軍隊というものは世知辛いものであるがガンテルは特に気に留めなかった。


どこに行ってもそういうものだと割り切っていたからである。すると少佐からの無線が入る。



【地図と現地での通貨を手に入れたな。次は情勢だ。情報が集まりやすい場所に心当たりはないか】



少佐は何よりも現地の情勢を知りたがっていた。既定現実世界でも中東などは絡んだ釣り糸のような複雑極まりない情勢を知らなければ仕事にならない。


そのため何よりも情報を知りたがっていたのである。



【あんた難しい注文を付けるなぁ。まぁ任せておけって。ここでは俺みたいな上級兵職が一番偉いんだ。クソみたいなことに】


ガンテルは無線に少し悲観したように返した。要塞と見まがうような街に変貌したのも元を正すと自分のせいなのである。


彼は重たい足を酒場の羅列する飲食街に足を進めた。気分はどこか鉛で包まれたように重かったがそれに反して体はどんどん早く進むのであった。





—————





 スラム街の入り口から引き返すと物陰に隠れてではあるが飲んだくれがぐっすりと寝ていた。この光景がひどく懐かしく思えてしまったことにガンテルは唇を噛んだ。



筆舌や言語にできぬ憤りがガンテルの中で渦巻く。自分は軍人であるが街が異様な風景になったのは軍のせいである。反り返るような矛盾と実像に少しばかり苦悩していたのだ。


「らしくねぇな」


ガンテルは水を零すようにつぶやくと、まるで吸い込まれるようにして大きな酒場に入っていった。まるで退役した軍人が酒浸りになるように忠誠と魂は抜け、逃げるかのように。



 どんなに大きな酒場と言えども、昼間から飲んでいる住民は少なかった。がらんどうになった席を

いくらか埋めているのは抜け殻のようになった騎兵たちであった。



住民と間違われて軍隊に殺される羽目にならないために不格好な武装でもしているのであろうが、悲しみに包まれた彼らを喜んで殺すヤツはいるのだろうか。



客がいるテーブル以外には香草を入れておく水の張られたボウルが入れるはずである穴がそのままになっていた。



ガンテルはカウンターに座り、ガチャリと鎧の擦れるような音をわざとらしく立てると

疲れ切ったように頬杖をついてため息をついた。



お客が来たのを知ったのか、目の前の穴に水の張ったボウルが置かれた。

中には新鮮な香草が入れられている。しなびておらず、まるで今まさにちぎったかのように青々としている。



【クレソンだな…】



少佐は無線越しにつぶやいたが、ガンテルはそれを無視して顔を上げた。

すると目の前に冴島少佐のようなガタイのいい男が立っていた。その男の絶妙な間抜けさには覚えがあった。



「お前、ミジェールか?前の戦争で同じ隊にいたアーマーのよ!」



「…そういうお前は伝説の風俗野郎シュムか?まだ軍隊にいたんだな。とりあえず注文取ろうか」



二人は邂逅した。ミジェ―ルはかつての戦争に駆り出されていた重装兵(アーマーナイト)である。



マリオネスとは飯の腕が天地の差であるこいつは、地元に帰るとは言っていたがまさかこんなところで店を出していたとは思わなかった。



しばらくあのアマの元で仕事をしていることが多く、まともに街に来ていないこともあり、会ったのは3年ぶりだろう。



「スケベは何もかも凌駕するんだ馬鹿野郎。出始めはアレ(フレイア・ベーテ)からだ。」



「上官からスリする規格外の不良兵のお前がまともに酒を飲みに来るとはなぁ…世も末だ」



ミジェールはそそくさとカンに触る独り言をつぶやいてカウンター下に置かれた陶器のカップを取ると、バックにある酒樽に酒を入れ始めた。



()ぎ終わるとカップは無造作に置かれた。戦友の好みというものをこいつはよくわかっている。これをマリオネスにやらかしたらねちねちと説教が始まるだろう。



酒の席につべこべとした前口上などは必要ない。こんな安酒は喉に流して酔うのを楽しむのである。


どうせ酒の味はどうでも良いと思っている軍人たちは、安酒であろうとも現実から逃避するためにこいつを喉に流す。


ガンテルもそのつもりで酒を流した。



「いい酒を入れたなお前。昔っから舌だけには妥協しないよな。あのアマのことを思い出してきた」



その結果は予想を上回る結果だった。さわやかなイモの風味が鼻を通る。粗悪なヤツであると得体の知れない味がするのだが、酒の味と芋の風味のみの透き通るよう。


いくら安酒と言えどもここまでとは思ってはなかった。



「何も自分がこっそり飲んでまずい酒を客に出すわけないだろ。—お前まだあの隊にいるのかよ」



ミジェ―ルは皿を磨きながら冷ややかにそう言った。3年の歳月がたったとはいえ、こいつの性格はそこまで変わっているわけでもなかったようで、心のどこかでは安心していた。



「おかげでクソみたいな説教されるのが増えやがった。」



「でもマリオネスが風俗で出てきたら?」



「抱くな。見た目と声だけはいいんだアイツ。ああ腹が立ってきた。」



酒を飲みながらミジェ―ルとくだらない会話に明け暮れる。懐かし過去が不意にいくつも浮かんでくるが、耳に入った異物が現実に引き戻そうとしてくる。



どうしようもない葛藤を抱えながらニョゴールと酒のお代わりを頼んだ。

その一方、モニター越しに美食番組を見せつけられている少佐の不機嫌はとどまることを知らなかった。



「時間かかるけどいいのか」



「その間マリオネスの愚痴に付き合ってもらうからな」



「勘弁してくれ」


ニジェールは眉を指で撫でると厨房へと消えていった。





————






 その姿を確認するとガンテルは無言で席を立ち、一言も発さず壁にかかった掲示板に向かって歩き始めた。

遊びに来ているわけではないことはガンテルが一番よくわかっている。


仕事は仕事だ。



掲示板には冒険者と呼ばれる集団が行う仕事などが無造作に張り付けられていた。

ここまで大きい酒場ではこのような冒険者ギルドというものを委託される事もなんら珍しくもない。



【こいつはなんだ】



少佐は冷たくガンテルに問う。



カメラからの映像では何らかの茶色の紙が無数に張られており、見たこともない記号が羅列されていた。


少し考えると文字だということが分かったが、世界中のあらゆる文字と数字に当てはまるものはなかった。



【冒険者とかいうカス連中の仕事がまとめて張られてる。奴らだけ税金がない代わりに命の保証は軍よりもされねぇ。人殺しなんて簡単にするゴロツキ集団よ。ロンドン殺しや盗賊狩りなんてのも平気でしやがる。どうせここの仕事なんぞまともな仕事じゃない。】



ガンテルはそう答えると重なり合う手配書をどけながら面白そうなものを探していた。

火竜の討伐、魔竜の捕獲やロンドン共の抹殺。どれも面白みもなく、めぼしいものはない。



【了解】


少佐は淡々と答えた。その裏には少しばかりの懸念があったからである。


ごろつきの集まりとはいえ人間の集まりである。ここに軍からの依頼でSoyuzスタッフが討伐対象となったらと考えた。


作戦行動中の歩兵スタッフがいくら自動小銃を持っていようが、まるでマンハントのようにして殺された場合の損害は馬鹿にできない。



少佐は横に置かれた手帳を素早くとると、ボールペンを流すようにしてメモを取った。








—————

 



 スキを見て席に戻ると、ニジェールが煮えたぎった鍋が乗せられた盆を持ってきた。油がぐらぐらと煮えたぎり、ガラニ油の澄み切った香りと腹をくすぐる美味い匂いが鼻を抜ける。



鍋には魚と鶏肉、それと少しばかりの川エビが放り込まれていた。それだけではない、上る煙にはかすかに辛みを感じる、香草までが入っているのだ。これがニョゴールという料理だ。



場所、作る人間の腕と感性。それよりも多く注がれるこだわりがニョゴールという逸品になって現れる。


ニジェール自身も軍にいた頃からこいつを作らせたら右に出るものはいなかったが

まさかここまで腕を上げているとなるとは思わなかった。



盆に乗せられたフォークで無意識に選んだ鶏肉を口に放り込む。当然溶岩を含んだかのように灼熱に覆われる。その苦痛を通りこしてしまえば鶏油の風味とほのかに香るガラニ油がしつこさを洗い流す。


これがヤツのニョゴールだ、必然的に油を湯水のように使うこの料理ではどうしても飽きが来てしまう。

安い獣脂を使えばなおさら。


それをガラニにすることで鼻通りの良く、香草の代わりとしている。小気味の良い歯ごたえの川エビもなかなか良い。

ボウルに入れられた香草など必要ないほどにさわやかであるのだ。



それに後から来る辛みが食欲をそそるのだ、しかし良く計算して作られている。

ニジェールは無言で食い続けるガンテルを見下ろしながらこう言った。



「これが3年の成果だ」



「嘘つけ10年かかってんだろ」



ガンテルは口に料理を放り込む片手間でそう答えた。さらにヤツは不敵な笑みを崩さない。

盆の端には切り分けられたパンが置いてある、大して質は良くないがむしろこれでいい。


美味さが凝縮した油を塗りたくりそのまま口に放り込む、具がなくなった時は固いパンに塗りたくって一滴たりとも残さず胃に収める。



体中が満足感で支配されるのにそう時間はいらなかった。

底の浅い鍋を一滴残らず食らいつくし、酒を喉に流す。これこそが贅沢そのものである。


しかし無線機とカメラの映像が届けられた少佐は不満が募る一方だった。



「腹減ったな」



嗅覚がなくともその甘美な映像をひとたび見れば、少佐と言えど生物の性に逆らうことすらできなかったのである。



ガンテルは危うく自分に課せられた使命を放り投げそうになっていたことに気が付いた。


口にしたのは思い出すのもおぞましいヤツの飯とも口が裂けても言えない物体と、あとは何かしら食ったものだけだった。


味気のあるものは久々に食べた身であった彼はニジェールにこう問いかける。



「悪いな、酒瓶一本分の酒をくれ。」



すると後片付けに入っていたニジェールは快くしたようでこう答えた。



「かまわんさ。お前、妙に羽振りがいいが…ツケにするなよ」



料理人として嬉しいのかヤツは鼻歌でも歌って洗い物をしている。

本当にうまいものや極上のものを口にしたときには人間という生き物は獣に戻るもの。


言葉に出さなくても伝わる、それが飯を食うものと作るヤツの間柄というものだ。



 それから歯に挟まった筋にでも悩まされる頃に彼は帰ってきた。酒瓶には銘柄はなく木のかけらで栓をした簡素なものであったがまるで清められた水そのものをしたフレイア・ベーテを渡された。



「御代は銀貨4枚、4000ゴールドってとこだ」



先ほどとは一転してニジェールは淡々と料金を告げる一方、ガンテルは口を動かしながら



「釣りはいらねぇよ」



20枚ばかりの金貨をがさつに置くとヤツは目を丸くしながらガンテルに詰め寄った。

こんな大金、この酒場がもう一つ立てられるほどの凄まじい額であるからだ。いくら客と言っても戦友からこれだけのカネは受け取れない。



「お前の店狭いんだよ。これでデカくしろってことよ。お前わかってないなぁ。だから女が口説けないんだ」



ガンテルはただそう告げると、店の木扉を押し開けて風のように去っていった。







—————







このハリソンの街は昼から一転して夕方へと向かう頃合いになっていた。



しかし街の人間は依然として外に出てこない。

数年前まではそろそろ酒場通りは人であふれるはずである。


きっと住民が夜遅く月が天高く出るまで働かなければ、納税ノルマが達成できないようにしているのだろう。


何と恐ろしい絶望の街になったのだ、とガンテルは察する。


飲み屋通りを抜け、街の告知板でさらなる情報を集めるべく少しばかり軽くなった足で中心部に向かっている頃だった。


赤い甲冑、緑のマント。そして大げさなほどに巨大な弓。ブロンド頭で髪を伸ばしている人間が目に映る。ガンテルの目には憎らしき見慣れた影が数10ブロック先にとらえていた。



【こちらunderground、ヤツだ。マリオネスがいる】



ガンテルは冷たく少佐に無線を飛ばした。その声色は怒りや憎しみではなく、任務を遂行する軍人の声そのものであった。目は獲物を狙うように鋭く、あふれるばかりの殺気で満ちていた。



【こちらLONGPAT、カメラで視認できず。詳細な位置を報告せよ】



少佐はほのぼのとした空気から通常作戦を行う指揮の男となってガンテルの言葉にこう返した潜入用に使う隠しカメラでは現役狙撃兵の目と比較してどうあっても画素や画質に劣る。


それほどにガンテルの視力は並外れているということを意味していた。



【ここから遠くだが弓の射程には入る。ざっと250m先右寄り飯屋付近。殺せる】



彼はすかさず弓を構えて脇に吊り下げられた筒に手をかけた。あの程度の距離であれば頭を貫いても釣りがくるほどの距離。暗殺するにはうってつけ。



割って入るように少佐は無線を飛ばした。



【指揮官は重要な情報を持っている可能性がある。こちらは対象を生け捕りにするのが目的だ。お前の隠しカメラは目が悪い。少なくともこちらで正確な顔を捉えられるほど接近し撮影せよ】



流石に想定していない、まさにイレギュラー。



それを勝ち点にするために少佐は持ち点をダブルアップ・チャンスにかけた。

ここからはガンテルと少佐、互いの勝負となる。収穫か、損害かをかけたコイントスが始まった。



ガンテルの中では人影が薄いハリソンの街は絶望の街から潜入任務へと様変わりしていた。相手はプロの軍人ながら場数を踏んでいる人間である。


不自然な挙動はたちまち疑いを広げるだけだろう。兜を深くかぶり、彼にとって悪目立ちするブロンド頭を負い始めた。



【どれくらい近づけばいい】



酒場で戦友を茶化すような声から昼がったように声を低くし、息を殺しながらマイクに話かける。スナイパーという兵職は視覚だけではなく音と気配で敵を探るように訓練を受ける。自分程とはいかなくとも、山賊や盗賊を相手にするのとはまるで違う。



【鮮明な正面側を取りたい。10mまで接近せよ】



少佐の要求を耳にすると唇を手でぬぐいながら、より一層気配を消して近づくことにした。歩むたびに石畳に鋼鉄のソールレットが軋んで音を立てるが、ヒトの失せた街に消えていった。



木枝を踏み抜くための防具が仇となり致命的な音を立てることにガンテルは眉をひそめる。

幸いなことに見回りの軍人が近くを通りかかったおかげで音は誤魔化せた。



まるで盗人のように摺り足で目標へと近づいてゆく。多関節構造からなるソールは足踏みをするたびに音を立てる。敏感極まりないスナイパーに接近するにはこの方法しかなかった。



当の目標は唇に曲げ指を押し当てながら飯屋の前に立ち尽くしており、能天気に夕飯を決めているのだろう。命令がなければ弓を抜いて射殺したい気であふれそうになるがその度に息を吐いて任務に集中していた。



 どうやらこちらの歩みが想像以上に早く、目標が相当に迷っているのか動かないおかげで距離は100mを切るほどに詰めることができていた。


すると耳に入れられた無線機から煩わしい無線が届く。



【大まかな兵装は確認できた】



本人はそれどころではなかった。


いつになく邂逅した上官に寝返りのことを万が一感づかれた場合には打つ手がほとんど残ってはいない。



近づいた際にそれが発覚しようものなら魔法を撃ち込まれて息の根を止められるに違いない。

そのことは部隊にいたガンテル自身が良く知っていた。


逃げ出したくもなった、引き返したくもなったがそれでもなお奮い立てたのは上官に対するだけ復讐心である。



 目標は大げさに迷っているようで目と鼻の先まで来ていたのは事実。


ここまでくればどんな奴であろうとも顔程度であれば見えるだろう。



しかし場所が悪く、不鮮明な横顔のみが確認できる程度だった。少佐は正面の顔をよこせと言っている。


皇族を燻りだすのに使った手配書のようにしてさらし首にする気は毛頭わかっていたし、ガンテル自身もその光景を望んでいるだろう。



残り数10mを切ろうとしていた時である。あの女の首がぐるりと向いた!

ガンテルは思考することができず、頭が凍り付く。


感づかれた事で頭が埋め尽くされたからだ。しかし弓を構える素振りは見えない。



「お前はシュムローニ・ガンテル伍長だな。よくも呑気この街を歩けるな」



鞭が振るわれたような声がガンテルに浴びせられる。あの声だ、説教を始める合図であるあの声だ。彼の中に怒りが充満したが感づかれたら一貫の終わり。


過去の伍長である自分を精いっぱい演じることにしたのである。



「はっ。いかにもであります。分隊は全滅し命からがら帰投するも道に迷いハリソンに居る始末であります」



マリオネスは自分がいい加減な人間であることを知っている。道に迷うということを嘘だと見抜けても一枚奥にある嘘は見抜けないに違いない、ガンテルはそう思った。



「敵から逃げかえるばかりか無断で酒をかっくらうとは何事か。貴様は自前のカネを使い果たし、挙句に私からスリ取る始末。どこから酒を飲むだけの金が出ている。」



マリオネスは鋭く切り返した。迷ったことも、そしてその先の嘘まで見抜きかけている。あのアマらしいといえばそう言えるが、ここで寝返りが発覚した場合殺されることは間違いない。


頭をこねくり回した。適当な嘘はないものかと。



「上官殿。草原と街に巣食うゴロツキから根こそぎ奪い去り酒を飲んでいました」



「——確かにガロ―バンによる射殺体が転がっていたな。貴公の仕業か。合点がいく」



「……それにしても不気味なほど正直だな、頭でも打ったか」



ガンテルはあの時盗賊を射殺してよかったと心の底から思った。マリオネスはある程度の根拠さえあれば納得する。何とか首の革一枚つながったところに追撃とばかりに少佐から無線が届く。



【正面の顔は記録できた。目標が基地ではなくここにいる理由を聞け】



あの大男を本気で殴りたいと思うほどの怒りが沸き上がった。

ぐずぐずと長居を続けば詭弁が発覚し自分の命は潰えてしまう。


それなのにさらに無理な注文を付けるのだ。

現場にいないことをいいことに好き勝手なことを命令され頭に来たが、マリオネスの顔を伺いながら



「上官殿はハリソンの街で何をしているのでありますか」



ガンテルは思い切ってそう切り出した。軍では上のものは絶対で彼のような兵士には碌な意見すらできないのが当たり前である。


むしろ怪しまれることも承知で口にした。



「それに関してだが、未知の敵対組織の存在、それと戦闘で損耗した兵士の補填、特に銃に耐えられるアーマーナイト類を多く補填するようホーディン将軍へ伝文を送った。管轄がジャルニエ県だからな。ハリソンの街にいる竜騎兵ならすぐに将軍の手に渡るだろう」



「——いかんせん私の兵の士気が下がっている。増援が駆け付ければその旨も解消する」



マリオネスは冷たく言い放った。ガンテルは放たれた言葉の端々に気を使い、頭の中で整理する。鉄の嵐を満足な鎧もない人間が潜り抜けろと言われれば士気は当然下がる。



それ以上に将軍に報告して増援を呼ぶのはあの女らしい小賢しい真似だ。将軍はいわば国とつながっている。反抗勢力であるSoyuzの存在がどのような扱いであれ、知られてしまうのは時間の問題だった。



「お前はこの後隊に合流するのか」



マリオネスはひとしきり情報を吐き出すとガンテルに聞いた。



情報は十二分に得られ、これ以上の長居は彼にとって不要になった。しかし次の難関が待ち受けていた。どうやってこの女から逃げるかということである。



不審な方法で逃げれば怪しまれるに決まっている。前の会話からして言葉の角に疑いが残っている今これ以上洞察力のあるマリオネスから逃げるにはどうしたらいいか。その時、天啓が来た。







—————







「上官殿、私めにはまだまだすることがございます。日が落ちれば——」



「すでに酔いが回っているというのにさらに酒を入れるのか。大酒飲みでないお前が」



ガンテルの言い訳をしようとする口にマリオネスは食って掛かった。


恐ろしい連発銃の恐怖から逃げられたにしては状態が良すぎる事、出撃前になぜか体調が悪かったのがここにきて、村に逃げ延びたような素振りもなく目の前でぴんぴんしていること。



さらには賊狩りをしてきたにも関わらず矢が減っていないことが不自然さを際立たせていたからである。



マリオネスなりに疑惑を集め、確信を得てから勝負に打って出たのである。



「なにを無粋なことをおっしゃいますか上官殿。酒なんぞ買うわけないじゃあないですか、この私が。夜になればもちろん酒もあるでしょうが女も欠かせないでしょうに」



「と、そういうわけでまだまだハリソンにはいるつもりです。そ・れ・で。大尉殿が慰安してくれるなら拠点に戻らなくはないのですがねぇ。」


しかし誰よりもマリオネスを知るガンテルのほうが一枚上手だったのである。

隊をいくども抜け出す理由を考える名人である彼はとても逃げ方がはるかに上手い。


話術では自分にはるかに劣る大尉を出し抜くことは容易だった。



するとマリオネスは手のひらをガンテルに突き付け、そこから小さな稲妻を出し


「貴様、次同じことを口にしたらその身はないと思え」


「わかりましたョ大尉殿」


ガンテルは冷や汗を滝のように流しながらその言葉を受け取った。芸術的なほどに大尉の機嫌を損ねることに成功した。そのことは自身に対する疑いよりも嫌悪感が勝っていることを証明していた。



「明後日増援が砦に到着する。貴様は翌朝の点呼までに拠点に戻っておけ」



「了解いたしました」



ガンテルはその言葉を聞くなり、飛び跳ねながら街へと姿をくらまそうとした。

その顔は喜びどころか真顔を貫いていた。



 マリオネスの視界からなんとか逃げ延びることができたガンテルは街の中央の花壇に腰かけていた。花も植えられておらず、そこには誰のものと知れないジャガイモが植えられている。



この街もまた飢餓が進んでいるのは明らか。

変わり果てたということを是が非でも思い知らされた彼は拳を強く握りしめた。


なじみの街がこうなっているのだから他もこのようになっているに違いない。


ひとつ、帝国に抗う理由がぽつりとできたような気がした。


【風俗には行かんのか】


少佐は軍人らしく凍てつくような口ぶりで彼に聞いた。


【あのアマにあってからというもの体ががちがちになっちまって。そろそろ帰投する】


酒瓶としわになった地図を片手にガンテルは街の外へと歩き始めた。

帰投するため、なによりも軍の毒牙にかかったこの街に別れを告げるために。


———Boong——Bong——


そこには日没が近いことを知らせる鐘の音だけが鳴り響いていた。


次回Chapter13.は15日公開になります

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― 新着の感想 ―
[一言] 年甲斐もなくドキドキしながら読んじまった、 昭和のsfや洋モノ小説を思い出した、
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