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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-2.ナルベルン自治区編
114/327

Chapter105. Truth

タイトル【真実】

軍事政権によって削除される以前の経典に記されていた恐るべき事実がついに紐解かれた。殿下以下皇族は全て「神」と呼ばれる存在の子孫である事実。


それに加え、太古の昔に起きたあらましが全て記載されているではないか。


修正され、改変されたが故に絶えてしまった歴史や技術がここには堆く眠っている証明。

そう考えるとこの城の地下に、眠り続けている真実がどれだけあるのだろうか。よくもまぁ遺産の海と

は良く名付けたものだ。



我々が言うならば正に化石の巣窟、バージェス頁岩だ。


歴史的大発見をしてしまった旅団はさらなる調査に取り掛かろうとしたが、何やら様子がおかしい。



「嗚呼、身体がまともに動かない。クソッ」



阿部を筆頭にエイジや研究員らの息が荒くなり始めたのだ。此処は空気がまともに入らない密閉地下空間、外とは違い酸素の量も限られていることをすっかりと忘れていた。



山の低酸素状況に適応しているアシュケントはともかくとして、旅団の面々は頭でっかちの一般人に過ぎない。ついに時間切れがやってきたのである。



「その辺の人間がここまで耐えられれば上出来だろ。さてと、引き上げるとするか」


アシュケントは首を傾けながら撤収の用意をしはじめた。お客はまだまだ動くことが出来るだろうから余裕をもって外へ出ることができるだろう。とでも思った。



だが、ソフィアが全く息を切らしていないことが目についたものの特段気にすることはなく帰還準備を整えていた。





———————





 なんとかとして外まできた阿部たちだったが彼らの仕事はまだまだ山のようにある。

正確に言えば出てきてしまったのだが。しばし殿下は自治区代表と話があるため離席するとのことで、残されたのは野郎ばかり。


今後行うべき行動を彼は頭でシミュレートしていた。


遺構の詳細な調査をするため建設機械師団の手を借りて非破壊探査をしなければならないどころか、地下の無限回蝋に行き止まりを作らせる必要性があるだろう。


酸素濃度的にB8から人間が立ち入ることが出来なくなった以上、酸素ボンベを背中に探査に行く必要があるかもしれない。


現代技術をもってすれば勇者を使って調査する必要性など皆無。

どちらにせよB3階で得られた結果をハリソンで寝ているであろう海原に届けねばならないだろう。わかり切っていたこととは言え、面倒に違いない。



小難しい計画を練っている反対側では研究員が凝り固まって話し合っていた。



「なんかもっと殿下に対してどうしていいのか分かんなくなったな」



「あんま声がでかいとマスターに聞こえるぞ。一国の代表ならまぁ、なんとか思いつくが

…アレじゃあなぁ。俺、無神論者だけどもっと如何したらいいのか分からねぇよ」



「別にうちんとこのエンペラーも元をただせば神様じゃないか、そういう対応…にしても困るしな。」





——————




驚愕の事実が判明したことも重要だが、今後の予定を消化することも同様に大切である。続いては武器に関しての見学。


阿部が最も興味を抱いた事柄であり、彼の専門分野である。



自治区の軍事機密に障るため、城の武器庫を見せるという訳にいかずアシュケントが贔屓にしているという鍛冶屋を伺っていた。


外からでも地金を叩く音が絶え間なく響き、陽炎が風景を揺らす。

恐らく内部にある炉から出てくる排熱だろうか。



現地についた研究者たちは各々構造などを記録していく。

鍛冶屋の主は用事があるため出掛けているそうで、こうして待ちぼうけを食らっている訳だ。時間の合間を研究者は無駄にはしない。



そんな時、阿部は懐からホチキス止めされた紙束と見比べてこう呟く。



「——レポート通りって訳か。鍛冶屋と販売所がセットになっている、か。田舎で畑と販売所が一緒くたになってるのと同じと見ていいな。それにしても冗談のような槍とかストローの束に…銃はないのか?」



この現代において手工業を主にする鍛冶屋は産業革命以降、淘汰されてしまっているのが現実。

ない訳ではないが、今どき刀剣等を作ることはなくなってしまっている。


作っているのは暗黒市場に流れる「辿れない銃器」ばかり。


皮肉なことに、そんな世の中になっても親から子に製造技術が伝わっていくと来た。

阿部はそう考えていると、筆舌にし難い複雑な感情がボヤキとなって出てくる。


そんな彼が漏らした一言にアシュケントは何気なく返す。



「銃…か。部品はそうでもないように見えるっちゃ見えるんだがなぁ。敵一つを殺すのに単価が高すぎるとか聞いたことがある。

というか、アーマーナイト撃っても効かねぇ時点でダメだ。仮にああいうのを倒せる魔法の銃があったとしても…重装傭兵を雇った方がはるかに安いだろ。俺みたいな今更帰ってきたのを雇うんだ。」



「あ、ああ…」



思わぬ一言にたじろいだが、貴重な証言に変わりない。阿部は困惑しながら記すことにした。

こうした現地の意見はインクで残さねば消えてしまうのだから。


 鍛冶屋の主が戻ってきたようで中の見学がようやく始まる。



「——驚いたろう?ここの連中は内向的だと聞かされていたなら猶更だ。ま、内需だけじゃあどうしようもないんだなコレが。武器屋にもてなしなんて出来やしないが、まぁ見ていってくれ」


彼らは一度、商談にでも使うような応接間に通された。無骨なものだが決して悪くはない。

ここまでは良かったが、近くで煮えたぎる鉄をいじっている場所故に、とにかく暑い。暑すぎる。



そう思っていると、店主は何やら用意するものがあるらしく奥へ消える。

アシュケントと言えば看守のように研究者の背後で腕を組んでおり、世間話をして暇をつぶす空気ではないだろう。



猛暑の名古屋を凌駕する熱波が彼らを襲う。ふと床を見てみればタールでも塗ってあるのか真っ黒だ、これが温室のような暑さに拍車をかけているに違いない。





———————




 しばらくすると鍛冶屋の職人が応接間に帰って来た。

手には特殊な斧が携えられている。

籠手そのものに鎖が接続され、その先に片刃のバトルアックスが取り付けられた武器だ。鎖鎌にしては大げさすぎる。


そんな店主は木を粗削りした椅子をきしませながら腰かけて語り始めた。



「ま、うちが作ってる品ってのが少しばかり特殊なんだ、見ての通り斧なんだけどな…ああ、坊ちゃん。頼むよ、使い方とかいろいろ。此処からは得物にしてるあんたが詳しいしな。」



思わぬ展開にアシュケントは困惑しつつ説明する。



「俺に振るのか…まぁいいか。ま、俺が持ってる手斧。見ての通り使いすい。近くの奴に振り下ろすだけでいいからな。蛮族から俺みたいな元正規兵の連中もこいつが手放せないってやつも多い。」



「横に振ってもいいが大振りになるから、首を切り落とすみたいに振るうな。大体。

それに騎兵みたいに鎧を着たヤツでも大方これで黙るから便利だ。


剣よりも調達は楽、言うことは…変に強いヤツだと避けられるし、槍を持った奴だと投げないといけない。どうにも間合いが足りんからな。

ただ当てて確実に仕留められるにはちょっと…コツがいる。槍もったアーマーなんて出てきた日にはちょっと難儀する…。」


その解説に阿部は相槌を打つ。


「確かに。」


 斧という道具は薪割に使うような日用品であるし、イングランド王の首を撥ねるのに使われた程度には威力がある。


強い・安い・使いやすいという三拍子が揃っており、故に戦斧なる武器も生まれている。軍隊によってはミサイルではないトマホークとして使っている所もあるという。


ただ完全無欠化と言えばそうではない。

振り下ろす事しかできないため回避されやすいことが挙げられるだろう。

また、槍などのリーチのある武器で滅多刺しにされてしまえば完封される。



またこの世界において、ふざけた装甲の重装兵という存在も無視できない。


しかも対抗兵を持っていることから、アシュケントのような熟練者はトマホークの如く投擲して解決している、とのこと。



阿部は池袋のバーで投げた経験があるが、コレがなかなかに難しく、確実に敵を仕留めるにはかなり鍛錬を要する。



一連の説明をし終わるとマスターは鉄板を引きずりだし、実演販売の如く身振り手振りをしながら本題に入りはじめた。



「うちは斧ばっかり作ってるが大槍ソルジャーキラーも作ってる。小さなヴァドムを起こして槍先を撃ち出すあれだ。

俺は思った、斧そのものを撃ち出したらいけるんじゃないか、って。それがコレだ。名付けてニグレード。普段はこうやって敵を倒せるが…この爆裂筒に持ち手にある突起を入れて…籠手をこうすると…」



———BphoooMMMM!!!!——



聞いたことのない破裂音と共に、大柄なバトルアックスは鋼板に深々と突き刺さっていた。あまりの光景に学術旅団の面々は開いた口がふさがらない。

そんな中、衝撃からいち早く立ち直った阿部が学会めいて質問を飛ばした。



「これって籠手を腕に着けないと打ち込めないんですか」



店主は鋭い問いにナナメ上に視線を向けながら答えた。



「嗚呼、ちょっとな。コレ、割と重いから坊ちゃんみたいな勇者とかに嫌われちまうんだ。重装兵とかだったら全然かまわねぇんだけどな。いずれにしても便利だし、大柄なソルジャーキラーより小回りが利く。言い忘れたが押金一つで鎖を巻き取ってくれるんだ」



「おぉっと。どうなってるかは教えられねぇな、真似されたら色々困る。ただ魔具と同じようなものだと思ってくれ」



やはり万能武器とは言い難いようだ。

どんなものにも必ず利点と欠点もある。そんな都合のいい兵器が開発できる訳がないのはどこも同じ。


彼は一通り疑問に答えるとボタンを押し、巻き上げ始める。

籠手側から引っ張られると鎖がピアノ線のように張り詰め、手元に戻ってみせた。



「この通り。」



なるほど、良くできている。阿部の持つペンは紙上で踊り狂う。




——————





学術旅団の面々はアフリカ砂漠めいた暑さにめげることなく見学を続けていた。

長である阿部が原因である。

引き連れていた研究者と言えば釜茹でにされかねない気温に参っていたが。



「ちょっといいんですか、まだまだ見学先あるんですよ…!?」



鉄の塊を形にし、それに魂を込める神聖な場所故、この空間の温度はサウナに匹敵する。いい加減彼に付き合ってられなくなってきていた。



「ちょっとぐらい構わんだろうキミ。何か?興味のある研究発表に対し質問攻めにしない主義なのか?ここに来るためにあの運転に付き合わされたんだぞ、モトは取らせてもらうからな。——手槍といった数をこしらえる商品を手掛ける時は仕様書のようなものが——」



今更研究員の言葉などに耳を貸すはずもなく、彼はこう言い返す。常識人の都合が狂人に通じる筈がない。それもそのはず、目の前で繰り広げられる「魂のある手工業」を見れば探求心をそそられない方が異常なのだ。


店主は赤い鉄塊を叩きながら向けられる質問に対し真摯に答え続ける。



「ああ、そんなもんはあるな。基本、手槍とかの頭数を揃えるような商品は別所で作られたモノを加工したりとかする。そうだなぁ、俺が手掛けてたのは刃だった。

数を作ったら他の誰かが柄を溶接する。そうすりゃ時間をかけずに作れるし、雑多な職人でも構わねぇってことだ。帝国とやり合ってた時はそうだった。ま、此処も同じようなやり方だったけどな。」



かつてこの地で起きた戦争。海原がレポートに記載されていた第四次ガビジャバン戦争のことだろう。


書物では勝利か敗北のふたつで片付けられてしまうものだが、本来は多くの人々を変えてしまう。

未だナルベルンには数多くの爪痕が残っていることに違いはない。彼にしかり、アシュケントしかり。

職人は続ける。



「どうでもいいが、俺は古代にあった遺産に縋るのは違うと思ってんだ。口下手だからうまく言えねぇけど、過去に縋っても意味ねぇって。しかも出てくるのは俺らの手に負えないような代物ばっかりだ。魔導士を竜に姿を変えられる道具やら、意思を読み取ってその通りに動くようなヤツ…。数えたらキリがありゃしない。」



聞き捨てならない一言に阿部の目が真開く。



「そのことについてもっと聞かせて頂きたい。せっかくだ、あのニグレードと私の古いiPhone5と交換しないか、今はそちらに払える対価を持ち合わせていない。これで不満ならばiPhone5は前金でもいい。」



学者としての維持か、重箱の隅に現れた一言を見逃さなかった。

自衛もといサンプルとしてニグレードのサンプルが欲しいだけではなく、遺産の海に眠る一端を知るためにはなりふり構わっていられない。



これが彼を狂人と言わしめる理由である。


「ちょっと!勝手にそんなことしていいと思ってるんですか!」


学術旅団はU.Uに対し現代文明の供与は認められていない。

店主の言ったように度が過ぎた文明は悪用される危険性が高いからだ。


相手の文明は今だ未知数な部分が多い。もしもiPhoneが完全に解析され、量産化されてしまったら。リスクは尽きない。



「——まぁいい。ニグレードの良さを知ってもらうためなら、そんな与太話くらいつけてやろうじゃないか。ただ、俺は得体の知れないものと物々交換されるよりも【外貨】

が欲しい。そこのところはわかってくれ。」



職人とは言え、彼は現実主義者なのだろう。


その言葉を聞いた阿部は、親指を顎に当てながら少しばかり考えた。

回転し続ける彼の頭脳に結論を出させるのは極めて容易。すぐさまこう提案する。



「ふむ、わかった。注文した扱いで構わないか。料金は後に払うことになるが。それまで品物を渡さない、というならそれでもいい」



 残酷ながら世の中でモノを言うのは「金」


万引きめいた真似をするつもりは毛頭ないが、カネはそれ即ち信用に値する。

通貨が存在するならば、どこの国や次元を飛び越えても同じだろうと彼は踏んだのである。


細工は流々、仕上げはどうか。






———————





「よくわかってるな、あんた。とりあえずニグレード一本4万ゴールドで承る。いかんせん俺みたいな経験を積んだような連中じゃないと逸品作れない。安心しろ、手入れさえすれば何十年と使えるようにはしておく」




渦中にいる二人はホクホク顔で契約成立を喜んでいたものの、蚊帳の外にいる研究員の我慢はとっくの前に限界が来ていた。


こんな破壊的に暑い場所に一時間も閉じ込められれば当然だろう。独り言をつぶやく阿部の背後に彼らは迫る。


「——これなら海原に物理舌戦で目にモノ見せてやる。そしていつか、私をあんな窓際扱いした禿げ頭理事長の頭をこれで…——何をする!私はまだまだ見たいものがあるんだ、これはだな、歴史的な…!」


「俺たちをシウマイにされてたまるか!」


「マジ苦しいんだぞこっちは!」


しびれを切らした研究員は二人がかりで彼を取り押さえると、鍛冶場の外へと連れ出していった。彼らの受難はまだまだ続く…。


次回Chapter106は10月23日10時からの公開となります

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