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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-2.ナルベルン自治区編
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Chapter102. .Dead end or Live

タイトル【ゲームオーバーか生か】

 自治区近郊で鳴り響くはずだった砲撃や銃声は、次第に市街地に向けて下がっていく。

戦火が近いということは敵がすぐそこまで来ているという証拠に他ならない。



街を警邏する総戦力、もといナルベルン防衛中隊の面々はその有様に悲観的になっていった。


よそ者のせいでこうなったと言う者も中にはいたが、無数の騎兵と重装兵という圧倒的な戦力差に絶望していたのがほとんど。



隊長である傭兵アシュケントも似たようなモノで、先だって住民の避難誘導を担っていた。

難民が流れ込める場所を提示することができなくとも、死んでは元も子もない。



迫害された人間たちがそれぞれ身を寄せ合い、この自治区が形作られた。

たとえ散り散りになっても、またその先で同じような集落を作れば良い。いくら時間が掛かってもいい、こうして滅亡を待つよりはマシだ、と考えている有様。



その最中、彼は迫りくるロンドンに対し抗い続けるSoyuzスタッフを目の当たりにした。

情報筋によれば連中は小難しい名前をしているが、実態は自分と同じ傭兵だと聞く。金も貰う訳でもなく、ひたむきに戦い続けている。


賭けてみて大正解だった。と卑しい考えが浮かんでしまうが、アシュケントはこの姿に見覚えがあった。何を隠そう自分そのものではないか。


彼は周囲を見渡し、戦意喪失したソルジャーを見つけるや否やこう伝えた。


「いいか、良く聞け。俺はゲイルが引き連れてきたクソ野郎をぶちのめしに行く。デュロル様に掛け合ってみるが、お前たちには無理を強いるつもりはない。逃げたいなら逃げろ。ただ、そう決めたんなら必ず生き延びろ。

死んだら何もかもおしまいだが、生きていたなら話は別だ。…俺が家族として言える最後の言葉だ、いいな。」


死期を悟ったような顔をした彼に兵士はこう答える。


「わかりました。では俺も、部下としてではなく同胞として言わせてもらいます。敵に立ち向かっている同志に背を向けられません。死ぬのはゾルターンの奴を殺してからです」


牙を抜かれていたはずのソルジャーの瞳には小さいながらも熱い灯が宿っていた。



「なんなんだこいつら!」



Soyuzスタッフの叫びがこだまする。

機械化歩兵が詰まっていたといってもBMPの定員は1両あたり8人。

そう考えると16人になるわけだが負傷した兵士も存在する以上動ける兵員は10人に固定砲台、迫りくる2個小隊を抑え込むにも限界が迫っていた。



——DANG!DANG!DANG!!!——



車両側も30mm機関砲で応戦するも、相手は小さな装甲目標の上歩兵以上に素早い。FCSのついていない車両故、直撃させるのは至難の業。

そのため一部のスタッフが格闘戦を演じるまでの距離まで敵の接近を許している!



「——スナイパーなのをいいことに調子に乗りやがってこのロンドン野郎!覚えとけよ!」



ガンテルは自らに振り下ろされた剣を小手で白刃取りしていた。


圧倒的動体視力がなせる技だろうか。現代装備では切断されていたことだろう、こんな時に彼の鎧は真価を発揮する。気休めにしかならないが、激痛が走るよりは各段に良い。


そのまま刃を挟んだ手を一気に横に倒すと、ガントレットのないシーフの指に蹴りを入れて武器を叩き落とした。

敵が怯んだ瞬間、荒野のガンマンを凌駕する速度で弓と矢を取り出し、弦を絞っていた時のことである。


———GRASH!!!


肉がつぶれ砕ける生々しい音が響いた。

視線をロンドン兵に向けると顔面には殺意のこもった手斧が深々と刺さっているではないだろうか。


こんなものを食らえば即死するに決まっている。

どこから投げ斧は来たものであろうか。その答えはすぐに分かった。


背後には一人の勇者と、大掛かりな鎧を着たジェネラル。周囲には重装から軽装まで色とりどりの兵員が立ち並んでいる。

彼らはナルベルン自治区の正規の軍隊。


デュロルを指揮官として、かき集められる人間を全て集めて助太刀したのである!



———————



 戦場は混沌と化した。古今東西、現代兵器とそれ以前の兵器が混ざり合っているからに他ならない。


ロンドン兵は鋼鉄のロングソードを振りかぶるが、圧倒的リーチを誇るソルジャーの槍の前では通じない。

ナルベルンの兵たちは、これまでの雪辱を果たすべく雄たけびを上げる一方シーフは圧倒的リーチを持つ鉄の槍の前に沈んでいった。


機関銃の錆にし続けてきた彼らだが、味方に付けばこれほどまでに頼もしいとは誰が想像しただろうか。


「くたばれ!」


槍歩兵は敵に突き立てられた槍に力を込めながら押し込む。

生ぬるい感覚と共に鎧に盗賊の返り血が飛ぶ。殺し合いというものは本来こういうものだ、どう美化しようとも根幹は変わらない。


すかさず重装兵がカバーに入り彼らを蹴散らすが、モスグリーン色の大鎧が立ちはだかる。


ナルベルンのアーマーナイトだ。帝国軍のものとは明らかに違うが、頼れる気迫はどこも同じ。

その手には盾と短いグリップの両刃対装甲斧 ニグレードが握られている。

小手と一体化した不思議な大斧だ。


——BPHooOOOMM!!!———


武器を振るうかと思った途端。敵の兜に鎖が伸び、刃がめり込んでいた。あまりの衝撃に敵は大きく揺さぶられる。


そうして生まれたスキを縫うようにして30mm機関砲弾がヘルムを貫いた。

正に戦場におけるヒエラルキー(絶対階級)、ウォーゲームの中では常にこれが起きているのである。


それでもなお鎧を着た蛮族は攻撃の手を緩めようとせず、激しい攻防は続く。




———————




 どうにか少佐のチェンタウロが援護に加わることができた。


しかしながら挟み撃ちという構図になってしまった故、火砲では敵のみならず味方まで巻き込んでしまう恐れがあるため榴弾は使えない。

使うとしても弾種はAPDSDSに限られてくるだろう。


それに加え攻め込まれている市街地側に回るまでの間、少佐自らMG3で行っていた。


——DLAAAAASH!!!!!——


悪魔の電気鋸が唸る一方、敵重装兵はひときわ目立つマゼンタのジェネラルに群がっていた。

ひときわ目立つ大鎧の兵を、総司令官と見抜いたからである!


彼らにはまともに考えるだけ頭が回るわけではなく、単純に女なのだから身包み剥がした挙句、好き放題にしたいという粗暴極まりない欲求から。



 だが彼女はただの女戦士ではなった。片手間で傷ついた兵士を治療しながらヴェランダルを掲げ、後方から雷を放つ。


その様は正に【無敵要塞】に相応しい。


愚かにも突撃してきた騎兵を圧倒的装甲で受け止めた挙句、軍馬の首に冗談のような大剣を断頭台のように振り下ろした。

重量は300kgを超えるデカブツを前に馬程度が敵うはずもなく、アイスクリームの如く首が飛ぶ!


とどめと言わんばかりに、落馬した騎手を3tという重量を以って打ち砕いた。


要塞は防御力ではなく、他の追従を許さない火力も有しているのである!


そんな相手にアーマーナイトが束になって掛かってきても同じこと。

魔具大前提の大刃がヘルムの隙間を縫い、首に差し掛かった瞬間ボウリングのピンの如く吹き飛んだ。



処刑の際にも落とせないとされる頭が容易く宙を舞う、なんと恐ろしい光景だろうか。


返り血を浴びた鎧は赤黒く染まっていくと同時に、手には生々しい感覚がこびりついていた。訓練は積んでいたとは言え、人間に手をかけたのは初めてだ。


———ZoooMM…—


装甲の塊と化した首が地面にめり込む様を見れば、これが現実だとまざまざと見せつけられる。

だが躊躇は湧き出なかった。仮にも彼女は蹂躙するか、されるかの世界で生きてきた人間だ。

今は戦わねば生き残れない、固く決心しながら大剣を振るい続けた。






——————





歩く装甲処刑場と呼ばれたデュロルにも活動限界が迫っていた。


鎧の恐ろしい重量に対し魔具をつけて軽減してもなお、想像を絶する負荷がかかり続けている。


それに恐ろしい重量のヴェランダルを抱えていたこともあり、短時間でも湧き出るように迫るロンドンに息を荒げていた。


凱旋は住民の意見を聞く傍ら、自らを鍛える目的もある。しかし戦闘を続けられるのは良くて1時間程度だろうか。ともかく、激しく体力を消耗しているのは事実である。


タイムリミットが刻一刻と迫る中、同胞の死を恐れない敵はおかまいなしで突撃し続けてくる。

ジェネラルの装甲はあらゆる魔導や攻撃を寄せ付けないが、棒で囲んで叩けば着用者は耐えられないだろうと考えたのだろう。


その第一波、敵アーマーの持つ斧が振り下ろされようとした瞬間である。


「遅れたな」


立ちふさがったのはアシュケントだった。

ジェネラルという鈍足機動力で勝負を仕掛けてくる相手を始末するのは彼の役目。


渾身の一発を受けた盾は裏地に至るまで刃が出ている。

剣や槍程度なら何ともないだろうが、アーマーナイトでさえ打ち倒す一撃にはさすがに耐えられないようである。


だが、これだけでいい。後は怒れる火竜と化した兵士たちが必ずやロンドンを打ちのめすからだ。彼と部下は家族以上の存在であるがこそできる考えだ。


「——よりにもよってデュロルに手をかけやがって、地獄に埋めてやる!」


一人のガビジャバン式アーマーナイトが流星の如くタックルして兜を引き剥がすと、アシュケントはブーツの力で高く跳躍し、敵の頭蓋をたたき割った。

ギラリと光る獲物に血がしたたり落ちる。


「さて、いくぞ」


デュロルに対し、まだいけるな。と言いたげな視線と共に斧を引き抜くと噴出するロンドンへ向けてかけていく。


少しながらではあるが、確実に希望が見えてきていた。





———————





 壮絶な戦闘の末、破壊力のある魔導士を殲滅した装甲兵器らが増援として到着。

戦車砲を防ぐ方法を知らぬロンドン兵はこの場から消え失せた。


いるのは死体ばかりで、動く存在は皆無。アルマゲドンの後に起きた大量絶滅のような光景が広がっていた。


結果的にナルベルン自治区と、Soyuz側が勝利したことになる。

だからと言って手放しでは喜べない。両軍とも多数の負傷者が発生しており、中でも数少ない機械化歩兵部隊の3割も出ている有様だ。



それに増援や救援を呼ぶにも時間かかる。冴島は解決できそうなことから着手しはじめた。


彼はソ・USEを手に取ると、シルベー基地に連絡を取った。弾薬庫も兼ねているが、暫定的に最前線を支える大黒柱となっている。ジャルニエから託されたバトンだ。


【こちらLONGPAT、負傷者が出た。至急医療チームを派遣せよ。座標は——】



決してSoyuzはズルや最終兵器で戦っているわけではない。


スタッフに銃弾を受ければ血を流すし、砲弾やロケット弾を貰えば火災が発生することもあれば破壊されるのだ。


兵器共々、戦いは常に壊しては修復することの繰り返し。


なんにせよ不備があればそこから破滅が待っているもの。


少佐自身、敗北が許されない立場であるため、万全の体制で戦いに臨むことにした。

備えあれば患いなし、死線を潜り抜けてきた彼のモットーの一つである。


気が抜けない安息が始まる。

次回Chapter103は10月2日10時からの公開となります


登場兵器


対装甲剣ヴェランダル

U.Uにおける初期の対装甲武器。

見た目はファンタジー世界によく見られる大剣。

刀身を長くするだけでなく、グリップも槍のように延長されているためリーチと威力に秀でるが魔具が必須。

そのため深淵の槍の騎兵などが携行していた。


デュロルが持っていたのは特注品であり、帝国軍の装備するヴェランダルよりも異常に大きく重い。

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