Chapter 11.flying in the sky of fencer
タイトル【天空の剣士が舞う】
謎の武装勢力は皇女抹殺を狙うファルケンシュタイン帝国陸軍だと判明した。
奇しくも逆説的に依頼者であるソフィア皇女からもたらされた情報が正しい、ということもまた証明されてしまったのである。
これに対してU.Uの全ての権限を持つ中将は事実確認を取れたものとして本社に連絡を行い、本格的な帝国に対して自衛ではない侵攻作戦が可能となった。
第一歩として搬入していたSu24MRという長距離を飛行することが可能な機体を使用することで地上偵察を行うこととなった。
幸いにも前々日に攻撃を受けていながらも滑走路の機能自体には問題がなく、そのまま出撃が可能であった。
また今後襲撃を受けることも想定されたために監視気球が展開される予定が前倒しになり、偵察を行うのと同時に行われることに。
優に1000kmを飛行するため通常よりも念入りに飛行前点検を受けた後、パイロットがはしごを登って機体にたどり着くと、航空機の心臓であるエンジンに火入れが始まった。
あたりには血流の代わりに空気をつんざいたような轟音が立ち込め始める。
キャノピーがゆっくりと閉じると竜騎兵よりもはるかに巨大な鋼鉄の機体が滑走路へと移動を始めていた。
ジェットエンジンの容赦のない轟音を聞きつけたのかスタッフに呆れられながら皇女殿下はその様子を食い入るように見ていた。
既定現実の軍事施設では日常の光景ながら、この異次元ではまさに異様と言っても良く、飛竜のように翼をはためくことなく飛行するような物体は異形に映っていた。
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機体が滑走路にたどり着くとエンジンノズルが赤く染まり、鼓動をより一層高くなりはじめた。そして滑るように急加速するとランディングギアは空中を少しずつ離れていく。
気が付くと機体は空高く舞い上がっていた。
どんな場所でも一度空に出てしまえば地上を見上げる光景とは違ってくるものである。
それが銃弾飛び交う戦場や摩天楼が広がるニューヨーク、鉄のカーテンに包まれていた赤の広場であっても。
天空から見下ろすU.Uの光景はどこか異様であった。道路やハイウェイが原始的な道にしか見当たらず、退屈な森ばかりが続く。
アマゾンにでも遊覧飛行しているのかと見まがう光景であったがしばらく進むと巨大な大河やコンピュータチップのように小さい町。
たまにドラゴンズレアに出てくるような城壁が現れる程度だった。
地上の帝国領は晴朗。
曇天が続く中の晴れは気分が良くなるものであるがこの国では違っているらしい。
農民の頬はやせこけ、表情は凝り固まり生気を抜かれたような顔で農作業に徹していた。
常に作業していなければ巡回する竜騎兵がやってきて焼き殺されるのは目に見えている上、逃げたとしても風のように迫る龍に容易に追いつかれた後に食い殺されることは周知の事実。
すると見回りの交代がやってきて農民を尻目に嫌味のように言い放つ。
「おぉ、よく仕事をやってんな、いいことだ」
奴隷もそうでない雇われも軍人の言葉に耳を貸さずに草抜きを続けていた。
奴隷という名前は形骸化して久しい。
農園の労働財産として扱われていたが、軍隊が政権を握ってからというもの正規の労働者や奴隷も混ぜられて命を削るような労働を強いられる毎日が続いていた。
この前には同僚の小作人が投槍で面白半分に刺殺されたばかりとあって、沈黙を貫きながら労働を続けていた。
娯楽のように殺すならまだしもしぐさ一つが気に入らないと言い放った後に突然、焼殺こともあるという。
そんな絶望が満ちた地獄に地鳴りのような音が響く。
——ZShoooo!!———
耳慣れない轟音、ありとあらゆる生き物が到底出すことができないような異常な音。
兵士が、農民が一斉に空を見上げた。そこには影一つ見当たらないものの、鳥のさえずりを平然とかき消すほどの存在が確実に居る、この事実だけが場にいる人間で一致していたことである。
「ただの風だろ、質の悪い。仕事に戻れ!俺も仕事に戻る!」
交代で来た竜騎兵が少しばかり間を開けて唖然とする農奴に向けて叫びをあげた。追い立てるように龍に火のブレスを吐かせながら絶望の日々に戻ることになる。
しかし当人自身は風などというものだとは思っていなかった。風ではない、もっと確実な何かがあの空に居る、戦士の第六感がしきりにそう伝えていた。
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偵察機からの映像や航空写真は数百キロという長距離を電波に乗せられ少佐や中将の元に届いていた。またこれが一体どこなのか確認するために皇女を呼んでいた。
平原や大河などの地球でも見ることができないような自然、それに混ざるようにして城塞都市や要塞らしきもの。時折山が見えればそこには軍事施設も垣間見える。
少佐の脳裏には中東の繁栄していたかつての街の姿が浮かんだ。
歴史を着実に積み重ねてきてもなお形の変わらない洗練された美というものを。
偵察衛星でもない航空偵察ではいかんせん限界はあるものの、U.Uの人間たちが築き上げてきた文明は異彩を放ちながらも一つ一つが合理的にできていること位はわかっている。
その一方でソフィア皇女は映像自体にも驚いていたのだがこめかみに指を当てて一種の納得をしていた。
自分たちが使っている地図は竜騎兵を派遣して作らせていたのだがその現場をまじまじと見ることができるのだ。昨夜の騒動から落ち着いた彼女はこの事実に心底関心している。
しばらくするとある写真が一枚拠点に送られてきた。ただの山間の写真であると少佐は一瞬思ったが、中将は最初から[ある点]に気が付いていた。
緑色をした龍のようなものがこちらめがけてスクランブルをかけているようなのである。
よりズームを利かせると非常に小さいが人間が乗っているようにも見えなくもない。
不可解なものに中将は疑いを向けようとした時、皇女は口を開いた。
「竜騎兵です。あれだけの音がすれば出撃しても不自然ではないでしょう」
中将と少佐は耳を疑った。
かつて機関銃が世界を蹂躙する前、騎兵が戦場を駆け回っていた歴史がある。
しかしここでは空を飛ぶ何かにまたがって、その存在がまるで戦闘機のように浸透しているということに驚いていた。
拠点襲撃の際にもレーダーに機影が確かに映っており、S-125が発射、撃墜されている。
近世に近い文明を持ちながら、手に入れるのに1900年要した風船ではないれっきとした航空機の運用方法をすでに獲得しているというのである。
中将はその事実を確認すべく、疑いと驚愕に揺れる本心を押し殺して聞いた。
「それがそちらの航空戦力ということで間違いはないか」
「もちろんです。祖国の長い戦乱の歴史で生まれた戦力です」
殿下は鋭く言い放つ。
次回の公開日は5月9日の10時からになります




