死ぬまで添い遂げますから!
登場人物
青山 紫子
青山 緑
赤井 流星
五月吉日、今日は一人息子の結婚式。
今日のためにエステに通ってお肌もぷるぷる、化粧ノリも最高。
さっきから「えっ50歳なんですか? 全然見えなーい」しか言われない。
自分の結婚式での反省を生かして、花や音楽は私が決めさせてもらった。
金を出した分、口も出すというやつだ。
式場全体に目を配る。
なごやかな雰囲気で、新婦の友人席は新郎の友人席の虜になっているようだ。
当然だ。私が育てた唯一のパーフェクトマン、全ての女を虜にするイケメンの友人であるから。
2歳の頃からスイミング、英語、ピアノ、ダンス。
名門塾で課金して中高一貫校からの一流大学、一流企業。
友人席にエリート以外が座れる隙はない。
これに比べて新婦の友人席ときたら。
誰も着物をきていない。
自作のドレス。
奇抜な化粧。
しかし全員スタイルだけはいい。
そういえば嫁もスタイルだけはいい。
結局男は体しか見てないのか……。
イラっときてテーブルの料理に目を移すと、嫁の手料理を思い出してしまった。
新居で手料理をふるまってくれるというので遊びに行ったら、なんと、
皿にマヨネーズで魔方陣を描いて生のニンジンを立てて
「ニンジンタワーです」
と言って出してきたのだった。
あのとき本当に中絶させようかと思ったけど、同じ女としてできなかった。
孫の顔が見たかったからだ。
生んでさえくれれば私が育ててもいい。
生活が破綻するようなら離婚させればいい。
そう思いながら、生のニンジンをかじったのだ!
猛烈にイライラしてしまい、少し発散しようと夫に話しかけた。
「……ねえ、あの新婦の友人席どう思う?」
「きみ、更年期障害の症状がでてるよ。
このあとホテルのバーを予約してるから機嫌なおして。
ほら、笑顔、笑顔。
眉間にしわ寄せない」
思ってたような返事を貰えず、イライラが募った。
募ったがホテルのバーと聞いて治まった。
きっと最上階のとこだわ。
夫は昔からよく気が利く。
そう私が育てたからだが……。
夫と知り合ったのは大学生の頃。
地方の公立高校出身で、一言でいえば優秀でイケメンだった。
服のセンスがひどかったので、服をプレゼントしたらものすごくイケメンになった。
そのまま都会の生活に慣れさせ、自宅に招き贅沢に慣れさせ、就職をさせ、
親の経済的優位を利用して結婚式もこちらで、マンションもこちらで買い、子育てもこちらで。
私は選ぶほうで、選ばれるほうではないと確信した。
女性の自立とはこういうことなのだと。
「ほら、最後花束もらって終わりだよ。
あとちょっとだから笑顔」
気力を振り絞って席を立つ。
笑顔をつくって、最後のお涙頂戴演出があって、結婚式は終わった。
着替えをすませて控え室を出ると、夫はネコ柄のネクタイ、いやネコタイをして廊下で待っていた。
「そのネクタイしちゃだめって言ってるのに」
「……好きなんだよ、これ」
「ねえ、呑んでもいいよね?
もうほんと新婦の友人席のみなさんにキレそうなんだけど」
「ちょっと、そういうのはエレベーターに乗ってからにして」
仕方なく黙り足早に歩く。
エレベーターに乗って扉が閉まるのを確認したら、もうとめられなかった。
「ほんっとあのこたち、ばっかじゃないの?
新郎の友人を狙ってるのよ? 頭おかしくない?
鏡でも差し出そうかと思ったわ」
「そんなに気になるの?」
「気になるとかじゃないの!
常識がないのよ常識が!」
「じゃあ、許せないの?」
「許せない? 許せないような気がするわ。
なんか、こう、私の中の秩序が乱れるのよ!」
エレベーターの扉が開く。
夫は洗練されたスマートな動きで私をエスコートする。
「きみに紹介したい人が待ってるから」
エスコートされた先には男が立っていた。
「高校の同級生なんだ。大学は別だけど」
「はじめまして、赤井流星です」
ものすごくかっこいい。
ニコニコではなくニヤニヤしている。
完全に女を見下している。
女の敵のような男だ。
危険な香り。
なのにものすごくかっこいい。
私は見惚れて声も出せない。
「じゃあ、単刀直入に言うけど、
奥さん、旦那さんと離婚してもらえない?」
「え?」
「旦那さんと離婚して?」
「は、はあ……」
夫が私の顔を見て首を横に振っている。
「だめだ、全然意味わかってないっぽい」
「じゃあ火の玉ストレートでいくか。
奥さん! 旦那さんを、俺にください!
死ぬまで添い遂げますから!」
「……はああああああああああ?」