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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第九十話 蛇神

『前に出てはいかんぞ。今の白ではあれを傷つけることは出来ん。振り切れば折れるぞ。』


次良と共にいざ戦いに向かおうという時、黒き神は刀一郎を諫める。

何でも、今の白鬼では神としての力が違いすぎてまともに当たれば壊されかねないとのこと。

だが、刀一郎が驚いたのは、さらりと白鬼に宿る者も神であると告げられたことだった。


「んじゃ、俺は一足先に行くわ。俺が付けた傷口狙えば白いのでもいけんだろ?」


『うむ、あれは受肉しておるからな。だが、掠り傷では駄目じゃ。それこそ骨が見えるくらいは抉らんとな。』


言われ、刀一郎は来たる時を大人しく次良の背を眺め待つことにした。

しかし、遠方からでも攻撃が出来るのは先ほど確認済み。

またあれを食らっては敵わんと、大気の粒子に神経を注ぎ、その流れを注視する事も忘れない。

一方次良はと言えば、


『右じゃっ!』


「分かってるっつの。寧ろ邪魔だから黙ってろ。」


最早完全に敬意の欠片もないやり取りを繰り返しながら、槍を振るい何度も空を切る。

その行動の意味を理解出来る者は殆どいないだろう。

だが、刀一郎はしっかりと理解していた。

粒子が収束し、現象へと至る瞬間、それを斬り裂き霧散しているのだと。

その光景に目を奪われていると、刀一郎周辺の粒子も震え出した。


「させんっ!」


刀一郎は次良を真似て白鬼を振るうが、その手には何の手応えもなく、現象は顕現されようとしていた。

慌てて飛びのくと、その地点を挟んだ景色が陽炎の様に揺らめいている。

それは【炎】ではない、単純な【熱】


『顕現する瞬間でなくては干渉できんぞ。無理せず走り回って躱すことじゃな。』


今は意地を張る場面ではないと理解している刀一郎は、次良を眺めながら大気を焼く熱から逃げ回る。

その間にも脇腹からは血が滴り落ちるが、致命になるほどの傷ではない。

情けないと思いながらも、師匠の戦いに視線をやる。


「…はぁっ!!」


次良は絶え間なく槍を振るい、神の御業を斬り裂き、遂にはその眼前にたどり着いていた。


「よお、近くで見るとほんっと、でけえな。」


『ふん、醜い蛇がっ。調子に乗りおって、ここが年貢の納め時じゃっ!』


蛇神は狼狽えることなく頭上から見下ろしたままだ。

そして次良は駆けだした。

そんな師匠の姿に刀一郎は少し驚きを隠せなかった。

しかし考えれば当然のこと、敵は異形、対人の技術など役には立たない相手なのである。


「どうした?まさか神ともあろう者が、人間相手に恐れおののいている訳じゃねえだろうな?……来いよ。」


蛇神は高くから見下ろしていたその頭で丸呑みにするべく、大きな口を開け迫った。

その大きさからすれば、人間の小ささたるや。



ズシンッ!!



蛇神の頭が地にこすりつけられると、大地が揺れるほどの振動に襲われた。

そしてもくもくと土煙が立ち上り、一瞬にして視界が奪われる。

その土煙の向こうでは、時折バチリと光が走り、更に何かを叩きつける大きな音が響いていた。

刀一郎も僅かに大気を震わせ、粒子で撫でるようにその戦いを眺めている。


「よっし、ようやく鱗一枚剥いでやったぞ。・・・てか、固えな。」


土煙が少し晴れ、漸くその戦いを視界に収めることが出来た時、次良は鱗の隙間に槍を滑り込ませ、その大きな一枚を剥ぎ取った所だった。

位置としては丁度全体の真ん中あたりだろうか。


『よくやったっ!!流石我の使い手よ。どうじゃ見たかっ!!口ほどにもないっ。ふは~っはっはっはっ。』


大した喜びようであるが、大きな体から見ればほんの掠り傷である。

恐らく急所はあの琥珀だろうことは分かっているのだが、流石に近寄らせてはくれない様だ。

蛇神は鬱陶しそうに身を激しく捩ると、次良こと羽虫を振り払おうとする。


「フッ!!」


その瞬間、何度空を裂いたか分からぬほどの次良の連続突きが、鱗で守られていない肉を抉った。

夥しい血が舞い上がると同時に、削り取られた肉がボトリと地に落ちる。

その破壊力たるや、遠目で確認している刀一郎が身震いするほどであった。

そして駄目押しとばかりに、槍を突き立てている辺りから雷がほとばしる。

これにはさしもの蛇神も痛みを感じたか、初めて怒りの感情をあらわにした。


『貴様ら、これほどの蛮行、もはや許しを乞うても叶わぬ。』


蛇神は正に己こそが正義であると確信しているのか、そんなことをのたまう。

そして次良をその身に残したまま大樹に巻き付き、頭だけを天に伸ばした。


「こりゃ、ちょっと不味いんじゃねえか?空から熱が落ちてきやがる…」


それは例えるならば、目に見えない太陽のようだった。

まだ完全に現象としては顕現していないにもかかわらず、チリチリと体を焼かれる様な錯覚を覚える。


『骸っ!!お前の血を刃に塗った白を投げよっ!!』


いきなり頭の中に響いた大声に反応し、刀一郎は反射的に白鬼を抜き傷口を這わす。

しかし距離がありすぎる為、投げるのを躊躇っていると、



ズシ~~~ンッ!!



今までとはまるで規模の違う雷鳴が轟き、蛇神の巨体を地に落とす。

その落雷の中心部にいる次良の身が少し気に掛かるが、これならば届くと、刀一郎は意を決して投擲した。

投げ槍の如く真っ直ぐに飛んだ白鬼は、まるで吸い込まれる様に目的地へと向かう。

そして差したままの槍から手を離した次良がそれを掴んだ。

どうやら何か不思議な力で守られているらしく、その身には雷の影響はない。


「これを突き刺せばいいんだな?」


ニヤリと笑みを浮かべた後、次良は血が滴る白鬼を蛇神の奥深くへと突き立てた。

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