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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第八十八話 先に待つもの

密林には、誰が通っているのか一応道らしきものが出来ていた。

二人はこの先に待っているものが何か、多少の期待を込めて歩く。


「蚊がうっとおしいな…おい黒、何とかしろ。」


ブンブンと飛び回る羽虫が鬱陶しいのか、次良は敬意のかけらもない言葉を国宝に投げかける。

そして二人の間でどんなやり取りがあったのか分からないが、パチパチと小さな雷が体の周りを覆った。


「おお、こりゃいいな。やれば出来るじゃねえか。」


どうやら人前以外では敬意を払った言葉遣いはしていないらしい。

一応刀一郎もいるのだが、それは数には入っていないのだろう。

そうして道の途中からは、虫の鬱陶しさに悩まされることなく進んでいった。


「刀一郎…気付いてるか?」


半刻ほど進んだだろうか、次良が問い掛ける。

その問い掛けに対し刀一郎も頷いた。


「はい。囲まれていますね。原住民でしょうか?」


「だろうな。今の所殺気は感じねえが、やるとなったら…分かってるよな?」


「殺すな…ということですね。」


「そうだ。後々面倒になるからな。」


よく考えずとも、勝手に約定とやらを破り入ってきている身。

その上、殺生まで行ったとあれば、無法者以外の何物でもない。

刀一郎は神経を張り詰め、囲む者達の感知と共にその感情も探っていた。


「殺気までは行かずとも、敵意には溢れています。これはいずれ来るかと。」


「いずれ…つうか、矢だ。当たるなよ。」


どうやら原住民とやらは大層夜目が利くらしく、この闇の中でも狙いは正確だ。

普通の者であれば、視界など無いに等しい場所での矢、避けるなど至難の業であろう。

しかし、ここにいる二人はどちらも普通の者ではない。

それが放たれる直前には、もう射線から身を翻している。


「目的地はまだですか?」


「ん?…おい、どうなんだ?……まだだってよ。」


ヒュンヒュンと矢が飛び交う中、何事もなかったように会話を続ける二人の男。

流石に周りからは、動揺の感情が色濃く見られるようになってきた。

そして、矢を射ることが無駄だと判断したのか、原住民達は囲みを徐々に狭め、直接的な行動に打って出ようとしている。


「意識だけを刈り取れ。怪我をさせるなよ…それくらいは出来るだろ?」


半ば挑発にも似た次良の言葉を受け、刀一郎は奮起した。

ならば見せてやろうと意気込んで、爪先をこする様な歩法でするりと道を外れ脇に反れる。



ガサガサッ!ドサッ!



暗闇の中には、草が激しく擦れる音と、何かが大地に崩れ落ちる音が規則正しくこだましていた

刀一郎は距離を詰めてきた原住民達が打って出るのを待つことなく、自ら藪の中へと飛び込んだ。

この環境では目はあまり役に立たなかったが、今の刀一郎には問題にならない。

原住民達は次々に倒されていったが、それでも誰一人声を上げる者はいなかった。

音もなく闇に紛れるということが、自分たちの優位性だと理解しているからだ。

しかし、今回ばかりは相手が悪い。

刀一郎は確かに成長していた。

距離の遠い相手は感知能力で常に動きを把握し、近い者に関しては感情でその位置を、更に空気の流れで細かい動きを捉える。

その姿はまさに『皇国最強を継ぐ者』と呼ぶにふさわしいものであった。


「取り敢えずは片付きました。先を急ぎましょう。」


「少しは成長したか。及第点って所だがな。」


原住民たちの全てを片付けたわけではなく、意識を刈り取ったのは約三分の一程だろうか。

勝てないと悟ってからの、彼らの行動は迅速だった。

倒された者達を素早く回収し、恐らく集落があると思われる方向へと引き下がったのだ。

二人が命を奪うつもりが無いと分かったことも、大きかったのかもしれない。


「おい、神の威厳とかこんな場所じゃどうでもいいだろ。普通にこいつとも話せ。」


次良が面倒臭そうに語りかけたのは、当然黒槍に対してである。

すると、少し間があってから、あの声が刀一郎の頭の中にこだました。


『全く、お前はガキの頃から我への崇拝が足らん奴じゃな。では、むく…刀一郎とやら、帰り着くまでは我との対話を許す。身に余る光栄に感謝せよ。』


次良の様に怖いもの知らずにはなれない刀一郎。

はは~っと、頭を深々と下げる。

すると、黒き槍に宿る神は満足そうに頷いた気がした。


「して、黒雷(くろいかずち)様。少々お伺いしても?」


『なんぞ?遠慮なく聞くがよい。生意気な小僧と違い、分をわきまえておる者は嫌いではないからな。』


「誰のこと言ってんだそりゃ?…海に投げるぞ?」


『じょ、冗談じゃ、冗談…海は流石に駄目じゃ…』


何とも不思議な関係だと思いながら、刀一郎は問い掛ける。


「この先に神がいるとのことですが、それはアレクシア達の崇める神ということですか?」


刀一郎が疑問に思っていたのは、ロメル王国の端に当たるこの場所に、わざわざ崇める神を安置するのはおかしいということだ。

黒き槍は暫し沈黙した後、その声を響かせる。


『分からん、だが、大きな信仰を集めている、若しくは集めていた神じゃ。我と同等かそれ以上の力を感じる。』


気のせいかもしれないが、その声には多少の恐れを感じた。

この先に待つ神すらも警戒せざるを得ない存在に、不安と期待、そして興奮を胸に覚えながら歩みを進めるのだった。

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