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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第七十六話 世界地図

一行が異国の船から荷物を運び終え『海陽』に戻り、沖村がまず指示をしたのは(かわや)の掃除であった。

基本的に船の厠の構造はどれも変わらない。

個室にある取っ手を引くと海水が汲み上げられ海に流されるという形だ。

当たり前だが軍の船は男所帯。

お世辞にも掃除が行き届いているとは言えない。

そんなものを、見るからに身分の高そうなアレクシア一行に使わせるわけにはいかないという配慮だろう。

沖村は言動こそ豪快だが、意外に細かい所に気が回る優秀さも備えているようだった。


「トイチロ、ウミ。」


一方、刀一郎はといえば相変わらず服の裾をアレクシアに掴まれ逃げられずにいた。

まあ、別に本人も嫌と言うわけではないのだが。

そうやってかかわっている内に固有名詞などを覚えだしたアレクシアは、嬉しそうに指を差し口を開く。


「トリ、フネ、サカナ。」


そんなやり取りをしていると、何かを思い出したようにクライヴの元へ駆けていき、一枚の紙を持って戻ってきた。

どうやらそれは、海の向こうまで描かれている地図のようだった。

しかし、どこを探しても皇国のある三日月型の陸は見つからない。

何もない海の場所に、丸で囲み文字が書かれた場所はあるが。

そしてアレクシアは一点を指さし告げた。


「ロメル。」


言葉が通じなくとも分かることはある。

刀一郎はそれこそがこの者達の国であり、帰る場所なのだと理解した。

そしてアーロンとクライヴも歩み寄り、会話へと参加する。

彼らに身振り手振りで今自分たちのいる場所はどこかと聞いてみると、顔を見合わせ自信満々にここだと指差した。

指を差したのは、刀一郎が先ほどから気になっていた丸印の描かれている場所だった。

そんな彼らを船員含め沖村も覗き込んでおり、興味津々といった声を上げる。


「つまりここからずっと南東に行けば、あんたらの国に着くってことか。」


逆にロメルという国から見れば北西、そしてロメルの遥か南方には氷だけの島などもあるらしい。


「で?何であんたらはこんなとこで難波してたんだ?」


沖村が身振り手振りで伝え、意味は伝わっているようだが、流石に細かい所は言葉が通じなければどうしようもない。

彼らの様子からは、どう見ても国が危うくなって逃げてきたという感じは受けないのでそれほど急ぐ必要もないのだろう。

そんな事情もあり、取り敢えず近況を探るのはここまでにして船旅を楽しむことにした。

来る時は恵まれた風向きだが、帰る時には恵まれず港に着いたのは出発から三日目の朝。

港には見慣れぬ軍船らしき船も何隻か見え、何事かと思いながら地に足を付ける。


「や~っと着いたな。結局予定通りの航海日数になっちまったか。」


恋しい陸に足を踏みしめ、帰ってきた喜びをかみしめるように一行は体を伸ばす。

それに倣ってアレクシアとアーロンも、うーんと体を伸ばすと笑顔を向けた。

そして港で一行を出迎えたのは意外な面々だった。

貝塚と見覚えのない異人の者達。

一様にほっとした顔をしており、異人の者達の中には涙を流している者さえいた。


「無事帰ったか、刀一郎。しかし、まだ彼らの仲間で漂流している船があるらしいからな、沖村にはまたすぐ出てもらうことになる。」


貝塚は少し表情を綻ばせ語った。

聞けば、元々彼らの目的地は皇国であり、数日前に起きた大きな嵐に巻き込まれ散り散りになってしまったらしい。

最低限の人員だけでの航海だった為、捜索も難航し途方に暮れながらも、辿り着いた者が状況を説明したとのこと。

どうやらそれは刀一郎達が出向してからすぐの事であり、完全な行き違いになってしまった様だ。

その後アレクシア達は皇軍の馬車に乗り、寂しそうな顔で刀一郎を眺めながら一足先に都へと向かっていった。


「じゃあな刀一郎。俺も呼ばれてるから行くわ。しっかし、休む暇もくれねえとはな。」


沖村は少し疲れた顔をしながらも、まだまだ有り余る元気な声で別れを告げる。

何でも少し仮眠をとった後、またすぐに海へと船を出すとのこと。


「ブルルルルルッ!!」


刀一郎が去り行く沖村の後姿を眺めていると、聞き覚えのある鳴き声が聞こえ視線を向ける。

すると、


「わっ!こら、落ち着けって。今連れて行ってやるからっ。」


皇軍の若い兵が殆ど波風に引き摺られる様にして、こちらへと向かってくるところだった。

そして波風は勢いよくその鼻をこすりつけると甘えだす。


「おお、よしよし。其方にも苦労を掛けたな。」


「はぁっ、はぁっ、い、いえっ…では、私はこれでっ!!」


刀一郎は立ち去る若者に礼を告げると、波風の首を撫でてから跨り、一路都へと帰還の途に就いた。

そして港から半刻ほど走ると、アレクシア達を乗せた馬車を視界に収める。

中の要人を気遣ってか、あまり速度は出していない様だ。

このまま通り過ぎるのも失礼に当たると思い、護衛も兼ねて自らも道中を共にすることにしたのだった。

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