第七十四話 接触
「結構波が高いな。」
沖村と刀一郎、二人で小舟を漕いでどんぶらこと言った感じに進んでいく。
軍船ではないと判断したが、沖村の背には二百糎ほどの槍と、腰には火筒も備えている。
海陽と名付けられた皇軍船が小さくなっていき、半刻もしない頃ようやく鬼鳴島の浜辺へとたどり着いた。
すると、漂着したらしい船の近くには揺らめく炎の明かりが見え、人がいることを知らせてくれる。
「お?どうやら一先ず、蛆の沸いた遺体とご対面することだけは避けられそうだな。」
沖村の言葉に同意するように刀一郎も頷く。
態々ここまでやってきてそれでは来た甲斐がないというものだ。
そして二人は必要以上に警戒させないよう、なるべく目に付く場所を歩き近づいていく。
その間、刀一郎はこの先にいる者の感情を探っていた。
(…不安、といった所か。まあ、当然であろうな。)
同時に感知能力も飛ばし人数を探ると、どうやら三人。
更に近づくとその姿も確認出来、二人の男女は火を向かい合う様に座り、もう一人の青年は立ったまま既にこちらに気付き視線を向けているようだ。
「沖村、既に気付かれているようだぞ。」
「まあそうでなきゃ困るわ。その為にこんな目立つところ歩いてんだしな。」
二人が歩いているのは遮蔽物など一切ない砂浜。
少し奥に行けば背の高い草むらもあるのだが、存在を気付かせるために敢えてこの場所を歩いている。
すると、立ったまま視線を向けていた青年が、二人をかばう様に自らの背に隠す。
ここまで来るとお互いの顔まではっきりと確認できる距離になっていた。
「やはり異人か。三人とも比較的若いな。」
「みてえだな。つうか、座ってる二人はまだガキじゃねえかよ…お~いっ!!」
沖村はまるでご近所と挨拶をするかの如く声を掛けるが、無駄に声が大きく、言葉が通じていなければ恫喝されているとさえ取られかねない。
案の定勘違いをされてしまったようで、二人を守る為か青年が腰の剣を抜き放った。
それを見て沖村が好戦的な笑みを浮かべるが、それを制する形で刀一郎が前に出る。
正直、沖村は知り合いでない者には賊にしか見えない。
「沖村、ここは任せよ。その顔ではいらぬ誤解を招く。」
「普通にしてるつもりなんだけどな…」
その顔でっ!?と刀一郎が苦笑いを浮かべながら見やると、沖村は肩を竦めて下がる。
そして刀一郎一人が前に進み出、改めてその姿を確認する。
男の背に庇われる子供二人は、震えながらも誇りを堅持するかのように刀一郎を睨みつけていた。
二人供、長旅のせいか少しくすんだ銀色の髪に青い瞳の色をしている。
そして剣を構える男は、体高は百七十半ば、髪色は青みがかった銀色といえばいいのだろうか、後ろの二人と並ぶととても映える。
だが、刀一郎が一番に目を引いたのは綺麗な装飾がなされた男の持つ剣。
本人曰く、芸術を見る目は確かだというのを信じれば相当な価値があるのだろう。
その欲に眩んだ眼が災いしたか、男は切っ先を向け威嚇してきた。
「ノッロンガップロ~チッ!!」
「いやいや争う気は……」
「デアフォ~トップッ!!」
これは話にならんと判断した刀一郎は、取り敢えず大人しくさせることにした。
敵が引くつもりはないということを理解したのか、剣士らしき男は言葉を発するのを止め殺気を体に充満させる。
その姿を見て刀一郎は思った。
(なるほど、あの時の俺もこんな風に見えていたのか・・・。)
思い出されたのは、北の地で為すすべなく次良にやられた時の事。
そしてゆらゆらと柳の様な掴み所のない歩みで、その距離を詰める。
無論、白鬼を抜くまでもない。
「…シィッ!!」
男は上段から鋭い一閃を放つ。
それは以前の刀一郎なら、それなりの苦戦を余儀なくさせるであろうほどの一撃だ。
しかし今の刀一郎はあの時とは違う。
次良の教え通り淀みなく半身になり剣の腹を撫でるように流す。
そして同時に、男の腕を伝い滑らせる様にして掌底、体幹を崩し背後を取ると、両の腕でしがみ付き首を絞めつけた。
「見事なもんだな。惣万流か?無手の型…だっけか。」
男が完全に意識を手放したのを確認して沖村も歩み寄ってきた。
そしてあとの二人に視線を向けると、少年の方が涙を浮かべながら立ち上がり交戦の意志を示す。
「いかんぞ、命を粗末にしては。」
刀一郎は、懐から何かを抜き放とうとしている腕を掴むと、優しく捻り上げ足払いした後、地に抑え込んだ。
「刀一郎、武器は取り上げたからもう離していいぞ。これ以外持ってないみたいだしな。」
そう言いながら沖村が取り上げた物を見ると、それは短筒と呼ばれる武器だった。
皇国でも携行の利便性を考え開発されているが、少年のものはそれよりもはるかに洗練されているように見えた。
「へぇ~、こりゃいいな。お?真ん中から折れんのか。これなら弾込めも早そうだな。でも単発式なのは変わんねえのか。威力はどうなんだろうな。」
沖村は興味津々、海に向けて構えたかと思うと、引き金を引いた。
乾いた音がこだまし、子供たちからは濃い絶望の色が滲む。
「沖村、余り子供を怖がらせるでない。」
「ああ、悪い悪い。でもこれ命中精度は高そうだが反動弱えな。本当に鉄板撃ち抜けんのか?」
沖村はそんなことを語りながら、何事もなかったように火に当たり始めた。
刀一郎もそれに倣い、押さえていた少年を開放すると、自分も焚火を囲む。
そんな二人を見たせいか、子供達からは少しだけ絶望とは違う色が滲み始めていた。




