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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第七十話 安息の地

隊と別れて散策の任を負った刀一郎達は慎重に林の奥へと進んでいく。

目的の場所へ近づけば近づくほど人が暮らしていく痕跡は多くなり、同時に緊張感も増していった。

そして集団がいるであろう場所の入口まで約百側ほどの距離で馬を繋ぎ、自らの足で土を踏む。


「…道を進むのはここまでだ。藪に入って身を隠しながら進むぞ。」


刀一郎の指示に従い、残り二人も無言で頷いた後、身を屈め藪へと入っていった。


「蚊が多いですね。」


「うむ。だが、今はそれよりもこちらだ。気にすることもなかろう。」


体に纏わり付く藪蚊に苦戦しながらも音を立てぬよう慎重に近づいていくと、何十もの木造りの建物が目に入る。

島田の言っていた賊が使っていたと思われるものもあるが、多くは比較的最近作られたであろうことが伺えた。

目を凝らして見回すと、畑を耕している者や、狩りで得たのか動物を抱えて歩いている者も確認できる。


「…刀一郎さん、この者達は……」


皆一様に褐色の肌ををしているが、気に掛かるところはそこではない。

一言でいえば、穏やかなのである。

とても戦をしに来た者達とは思えないほどに。


「ああ、のどかだな。とても。」


刀一郎も村全体をさらう様にして感情を汲み取ってみるが、とげとげしい敵意などかけらも感じない。

三人は顔を見合わせ、これからどう動くかを小声で話し合った。


「敵意は感じない。恐らく危険はないだろう。」


「そんなことまで分かるんですね…」


「ならば、こちらの言葉を理解する者がいれば話し合いが出来るかもしれませんね。この地に住まうのならば税も納めて頂かないとなりませんし。」


当たり前のことではあるのだが、中々に厳しい考え方をするものだ。

そして話し合いをするにしても、藪からいきなり出ていくのでは怯えさせてしまうということで、三人は来た道を戻ることにした。

穏やかとは言ってもいざとなれば牙を剥いてくる可能性も捨てきれない為、一行は緊張しながらその村へと踏み込んだ。


「ああ、そこの者。言葉は分かるか?」


声を掛けられ刀一郎達の姿を見た男達は一様に絶望的な表情を浮かべる。

中には、力なくその場にへたり込む者さえいた。

ざわざわとした喧騒が包んだ後、奥から連れられて一人の男が顔を出す。


「私この村率いてイマス。ミゲル言いマス。」


そう語るのは、体高百六十程の逞しい体をした男だった。

一先ず言葉が分かる者がいたことに安堵した刀一郎達は、来訪の目的と無益な争いをするつもりはない旨を伝える。

その言葉はミゲルから数人の者達に伝えられ、漸く絶望的な表情をしていた者も笑顔を見せるようになった。

とは言っても、只無条件でここに住んでいいというわけにもいかず、ミゲル宅にて話し合いが行われることに。


「私たちニ、皇国と戦う意思アリマセン。静かにクラシタイ。」


その言葉からは、疲れ果てた人間のある種諦めに似た感情が見て取れた。

家族を思えば国には帰りたいが、帰る術もなく、帰った所でどうしようもないという所だろうか。

詳しく聞けば、彼らの国は侵略され属国となり、最早かつての民はガラリア人の所有物でしかないと涙ながらに語る。

その話を聞きながら、刀一郎は以前出会ったラスという異人を思い出した。

彼もまた国を想いながらこの地で暮らすことを選んだ一人であったのだ。


「お主らは戦わなかったのか?それとも戦った上で降ったのか?」


この質問は刀一郎にとっては重要な問題であった。

戦わずに国を失う者等、いざとなれば必ず裏切るであろうと思っていたのだ。


「戦っタ、でも、裏切り者デタ。皆信じられなくナッタ。負けタ。」


最初は容量の得ない言葉の羅列だったが、何度かやり取りをしている内に全貌が見えてくる。

何でも、味方から金に目がくらんで裏切る者が出始め、仲間が信じられなくなり、そこから一気に崩れていったのだという。

勿論、元々の物量が圧倒的に違うという背景もあってのことだが。

それでも、それまでは地の利もあってか一方的にやられるということは無かったらしい。

だからこそ悔やまれると、その口は語った。

そして全てを聞き終えた刀一郎達は、一旦戻ってその事実を島田に伝えることにした。



馬を繋いでいた場所へ戻ると、波風が鼻を鳴らして迎えてくれる。

来た時の様な慎重さが求められない為、半刻も掛からず集合場所へ戻ると、今日もここで野営となるらしく天幕が張られていた。

そして戻ってきた三人の姿が目に入ると、一様に安堵の表情を浮かべるのであった。


「う~む、そんなことになっておったのか…これは私程度の一存では決められんな。」


島田は報告を聞き終えると、眉間に皺をよせ腕組みをしたまま表情を曇らせそう語った。

五百人を超える異人を一斉に受け入れるという話であるのだから、それは当然であろう。

結局、日が昇り次第都への帰途に着き、隊長である小瀬川に報告が必要という結論に至る。



翌日早朝。


「よし、速やかに天幕を片付け出発する。」


島田の号令に返事を返すと、刀一郎も手伝い手早く片付けを終え、隊列を組み馬を走らせる。

幸い天候にも恵まれ、来た時と同じ三日で都へと帰り着くことが出来、すぐさま報告と相成った。

しかし、小瀬川の部屋に入る前、匂いがきついという理由から一旦風呂へ行こうという話になる。

都から出て以来同じ服なのだから仕方のない所だ。

そして体を洗い着替えも済ませ島田は髭も整えた後、心機一転報告と相成った。

報告の場には、実際に彼らと話をした者として刀一郎も同席する運びとなる。


「五百以上か…人数が多いな。これは陛下の判断を問うた方がよいかもしれん。後々問題になってからでは遅いからな。」


話は貝塚に通され、翌日には村を容認するという天津乃宮の言葉を伝えるべく、皇国の使者が異人の村へと馬を走らせた。

尚、税は村としての体裁が整うまで免除するという温情付きである。

そして忘れてはならないのが刀一郎の給金についてであるが、


「刀一郎殿、此度は大変苦労を掛けた。受け取ってくれ。」


渡された給金からはしっかり税金分が引かれていたが、それでも十分な報酬を得て心持ちは軽く、意気揚々と自宅へ戻る刀一郎だった。

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