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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第六十九話 跡地に潜む者

都を旅立ってから三日、島田の髭が目に見えて濃くなってきた頃、目的地周辺へとたどり着く。

派遣されている人数から考えても、この辺に潜伏している可能性は低いと思われているのかもしれない。

そして隊長の島田の号令で、この日は周囲の平地を散策することになった。

刀一郎も周辺に感覚を飛ばしながら移動し散策に加わるが、見つかる人らしき影はない。

その夕暮れ時、隊の一人から何かを発見したとの報告を受け島田が向かう。


「何かあったか?」


「はい、結構古いものですが、ここで焚火をした後があります。」


見れば、明らかに人の手で組まれたであろう木片があった。

ただの行商という可能性も勿論あるが、そう結論付ける理由もない。

島田はそう思い、そこから東に視線を向ける。

その視線の先には、鬱蒼と茂る雑木林が目に入った。


「時刻的に今からあそこを散策するのは無理だな。よし、皆を集めてくれ。今日はここで休む。」


まだ日が傾き始めた時刻だが、島田がそう判断したのには理由がある。

雲行きが怪しくなってきており、恐らく一雨来るだろうと判断したのだ。

そして隊の者と刀一郎は、協力して雑木林から木を運び組み立て、天井を動物の皮を繋ぎ合わせた幕で覆った。

即興としては良く出来た天幕と言えよう。


「やはり降ってきたか。皆もご苦労だったな。では休むとしよう。」


ポツリポツリと雨が降り始める中、一同は天幕の下で火を囲んだ。

刀一郎もこの数日でかなり打ち解けており、会話も弾む。


「しかし、本当に不思議な体ですね。一体どんな感覚なのですか?」


話題は数日何も口にしていないその体についてだった。

今まではそれほど関係性を築けていなかった為、気になっても聞くに聞けなかったのであろう。

どうやら気になっていたのはその者だけではなく、全員が興味津々と視線を刀一郎に向けた。


「う~ん、どうと言われてもな。直接取り込む感覚と言えばよいのか。上手く伝えられんな。」


「そうですか。でも、どんな状況でも戦える体を持っているというのは羨ましいです。」


隊のまだ十代であろう若者から向けられる羨望の眼差しに、刀一郎は少し照れながらその夜は暮れていった。



次の日の朝、心配していた雨も止み雲間から光が覗いていた。

一行は手早く天幕を片付けると整列し、島田の指示を仰ぐ。


「今日は昨日伝えてあった通り、向こうの雑木林の捜索に移る。まずは人が通った痕跡が無いかを探してくれ。一刻程したらここで集合だ。」


散開の号令を受け、それぞれが二人一組になって周囲に散っていき、刀一郎は島田と共に行動することにした。

そして目視での確認と共に、不可視の手を持って辺りを探っていると、


「む?…島田殿、どうやら向こうに馬でも通れそうな道があるようだ。」


「おお、そんなことまで分かるとは、やはり頼りになりますな。」


世辞に軽く礼を返しつつ確認に行くと、明らかに人の手で掻き分けられたであろう道を発見した。

そして集合場所へ戻ると、皆が集まったのを確認し島田が告げる。


「先ほど発見した道を通り、林の奥へと向かう。何があるか分からん。決して油断するな。」


島田の引き締まった表情に隊の者達にも緊張感が走る。

そして隊列を組み分け入っていくのだが、この道は思いのほか深くまで続いているようだ。

既に馬に跨ったまま半刻ほどは歩いている現状からもその深さがしれよう。


「…島田殿っ、少し待たれよっ。」


刀一郎の大きくはないが、緊迫感のある声が響き一行は足を止めた。

全員の視線を浴びる中、刀一郎は前方に意識を集中させ探る。

すると五、六百側程先に、明らかに何らかの集団だと思われる影を感知した。

問題はその数、百や二百ではない。


「島田殿、本当にこの場所に村はないのだな?」


「うむ、東海村という人口一万程の大きな村が近くにあるが、ここよりももっと海寄りだ。・・・いや待てよ、確かこの場所は…」


どうやら何かに思い至ったのは島田だけではないらしく、隊の者達にも動揺が見られた。

その様子が気に掛かった刀一郎が問うと、


「…うむ、今から二十年以上前にな、一帯の賊や荒くれどもが、群れてちょっとした小競り合いに発展したことがあったのだ。」


聞けば、国を立ち上げこの辺り一帯を新しい制度でまとめ上げようとする皇国と、それに反旗を翻した者達との小競り合いであったらしい。

実情は、その期に乗じた賊の一人が同じように自分の国を作ろうとしたことが事の発端のようだ。

そしてその男が声を掛けて集まった者達は、殆どがどうしようもない悪党ばかりで手に負えず、討伐することと相成った。

事が大きくなった背景としては、この地独特の事情もある。

この辺りも古くから都との関わり合いが強く、殆どの者がある程度の武を嗜んでいたという事実があり一筋縄ではいかなかったのだ。

だが、軍を指揮している者達は、いわばその頂点に君臨する者。

それらが出張って来れば当然勝負になどならず、その首謀者は討たれ、今でも同じような組織が残っているとは考えづらいとのこと。


「しかし、この先にいる者達の数は百や二百ではないぞ。恐らく五百近い。この戦力では…」


刀一郎がその数を伝えると、流石に予想外だったのか、島田は低い唸り声を上げながら考え込んだ。

隊にも動揺が走る中、島田は顔を上げ静かに告げる。


「よし、では、数名で事実の確認に向かう。いいか、確認だけだ。戦闘になりそうなら逃げるのだぞ。」


問題は誰が行くかということだが、一人は当然刀一郎。

後の二人は隊の中でそれなりに経験を積んでいる年の者。

そして残った者達は一旦林の外へ出て、先の集合場所で待機という形に落ち着いた。

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