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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第五十七話 海路を行く

「しかし話には聞いていましたが、こうして実際に見るまで信じていませんでしたよ。」


貝塚の言葉に同道している皇軍兵も頷く。

北の浜から船を出し既に三日が過ぎた。

冬と言ってもいい季節、かなり寒さは厳しく船員は皆毛皮を羽織っている。

今の所は順調だが、どこで天候が崩れるか分からない為油断は禁物といった所か。

彼らが驚いているのは、陸を離れて三日、刀一郎が何も口にしていない事実に対してだ。


「阿斗里殿から聞いてはいたんですけどね、やはり俄かには信じられなかったもので。しかも老いてもいない様だと。」


「うむ、自分でもおかしな体だとは思うが、まあ気にせず付き合ってくれると有難い。」


もう慣れてしまっていたが、こうして人から告げられると、刀一郎は自分が人ではないのかと不安になる。

他意が無いことは理解しているがそれでもだ。

そんな微妙な感情の淀みを感じ取ったか、貝塚は話題を変える。


「そういえば、その白鬼と言う剣は意志を持つらしいですね。」


「それは自分も定かではないのだが、自分以外が持つと手が焼けただれてしまう様なのだ。」


「なるほど、だから次良は貴方を連れてこいと言ったのですね。」


話の流れから、どうやら刀一郎を連れてきてほしいと頼んだのはあの黒装束の男らしい。

そしてその男が皇国に於いて最強の名をほしいままにしている者だと聞き、何故か刀一郎は嬉しくなった。


「惣万次良殿、ですか。なぜ自分を呼んだのか聞いても?」


その問いに貝塚は少し考える仕草を見せ軽く頷いた後、口を開いた。


「一言でいえば興味本位でしょうが、実はですな、皇国にもあるのですよ。意志を持つ槍が。」


その話を聞き、刀一郎は何時か聞いた言葉を思い出していた。

それは初めて鉄志と会ったときの事、確かにそんなことを言っていたような気がすると。


「おや?聞いたことがある様な反応ですね。意志が宿るということまでは一般の者は知らないはずなのですが。」


「うむ、鉄志と言う鍛冶師の男がそんなことを言っていたなと思い出したのだ。」


「…鉄志?…志藤鉄志殿か。どこへ行ったかと思えば……そういえば見送りに来ていた男、どこかで見覚えがあると思いました。なるほど、確かにあの男なら何度か見ているはずですな。」


何でも鉄志は、武器製造の責任者的な立ち位置にあったかなり偉い役職の者だったらしい。

だが、その忙しさに追われ、ある時家に帰ると妻が帰らぬ人となっており酷く落ち込んでいたという。


「して、意思を持つという話ですが、何故そんなことが分かるのだ?まさか話が出来る訳でもあるまい。」


「その白鬼と同じですよ。ふさわしくない者が持つと、腕が二度と使い物にならなくなります。」


「それは随分…何と言うか白鬼でもそこまでのことはしないが…」


「まあ、そのような目に遭ったのは忍び込んで盗みを働こうとした賊でしたがね。」


刀一郎以外が白鬼を持ったことなど数えるほどしかないが、それらの者が受けたのは精々が火傷くらいのもの。

二度と使い物にならない様な酷いことにはなっていない。

それを踏まえると白鬼に住まう何かは優しいと言えなくもないと刀一郎は感じた。

そして驚くことに、槍の言葉を聞ける者がおり、血筋で代々その役職を継いでいるらしい。



▽▽▽▽



そんな雑談に花を咲かせつつ日は過ぎさり、途中天候の悪さに見舞われ予定よりは遅れたものの、天津乃都近海の港へとたどり着いた。

北を出発してから二十日余り経った昼過ぎの事だった。

港は、木造りの橋が海面にせり出し、そこに船を横付けするという形らしい。


「沢山の船があるのだな。しかし…何故これほどの船が停泊しているのだ?」


その大きな港を眺めると、大小さまざまな船が所狭しと並べられている。

どう見ても戦に使えるようなものではなく、恐らく民の所有している船であることが予想できた。


「ああ、あれですか。近々商船にも海路が開放されるのでその準備段階といった所でしょうね。」


「ん?今までは何故解放されてこなかったのだ?」


「余り需要が無いということもありますが、やはり危険が大きいという実情があったからですね。」


北と正式に交流する様になれば、その需要も見込めるということ。

小さな船は近場とのやり取りに使うのだろうか。

しかし国と国とのやり取りなど今までは経験のないことである為、その間には様々な問題も発生する。

例えば、お互いの通貨価値をどのように取り決めるのか。

それらを換金する場所を作り、専門の役人がこまかに算出する必要もあろう。


「今まであった危険はもう心配ないと?」


「取り敢えず、大規模な侵攻が暫くないのは確かですね。まあ、それでもいずれは来ると思われますが。」


桟橋へと足を下ろすと、刀一郎は新天地にワクワクとした気持ちを膨らませ波風を撫でる。


「ブルルルルルッ!!」


船にある簡素な厩に閉じ込められていた波風は、解放された嬉しさから鼻をこすりつける。

移動の途中、波風の体調を気遣って何度か陸に接岸したことも、実は遅れた理由の一つになっていた。

港町には貝塚を迎える皇軍兵もおり、都迄向かうための馬を連れてきているようだ。

北から同行してきた兵はここでお別れらしく、ここから数刻程度の道中、貝塚との二人旅となった。

意外なことだが、気難しい顔とは裏腹に貝塚はとても話好きな一面を見せる。

道中も様々なことで盛り上がった。


「何と、阿斗里殿の部屋にあった木彫りは、元は刀一郎が見出した一品だったかっ。」


特に花が咲いたのは彼らが芸術と呼んでいる分野の事だった。

まるで慣れ親しんだ友人の様に、いつの間にか敬称さえつけていない。

何でも、阿斗里との会談で使った部屋にある木彫りを、どうにかして手に入れられないかと内心思っていたのだという。

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