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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第五十二話 皇軍対ガラリア軍1

刀一郎が惣万に敗れるのと時同じくして、伊邪那から西の方角にある浜。

ここにも皇国軍は駐屯地を建設していたのだが、俄かに騒がしくなっている。


「向こうで何かあったのか?資材が来ないぞ。」


語るのは兵站部隊という比較的最近新設された部隊所属の兵である。

本来は遠征における部隊の支援などを担当するが、今は移動する必要が無い為、建設作業を手伝っていた。

ちなみにこの部隊は雷安の進言により生まれたが、それ以外にも医術者への資格制度など、この男が皇国にもたらしたものは多岐に渡る。


「ああ、どうやら海の向こうからまたお出ましのようだ。」


「またか…一体向こうさんはどれだけの兵力を持ってんだ?」


兵の一人が呆れ顔で語るのも無理からぬこと。

海の向こう、ガラリアが兵を送ってくるのはこれで四度目。

その度に五千から六千近い兵を失っているのだ。

これだけの兵を失っても、相変わらずの規模を送ってくるという事実には寒気がするのだろう。


▽▽


【皇国近海】


「もうすぐ風が変わるぞ。合図用意しろ。」


指示を出すのは海上部隊隊長水鏡玄奘(みかがみげんじょう)

敵の数、約四十隻程。

一隻だけ五十側はあろうかという群を抜いた大型船があり、船横には左右合わせて三十以上の砲が立ち並ぶ。

それ以外の船はそこまで大きさの差はなく、大体が二十五から三十側ほどといった所だ。

迎え撃つ皇軍は全軍が出ているが、戦いの度にその数を減らし、北に戦力を割いたこともあり今は二十隻にも届かない。(一隻に白兵戦要因として大体百人程乗ってる。)

その中には先の戦いで拿捕した向こうの船もあるが、総合的に見れば、船の大きさ、大砲の飛距離、性能、全て向こうが上。

一応甲板の囲いには固定された弓などもあるが、立ち並ぶ大砲に対し勝ち目などあるわけがない。

敵兵の上陸も防ぐことは出来ないだろう。

だが、それは今までも同じこと。


「了解っ!」


水鏡の指示を受け、船員が反射鏡をかざし味方船舶へ合図を送る。

彼らの仕事はただ一つ。

恐らく敵の指揮官が乗っていると思われる船への強襲だ。

その為に、敵の船を調べ模倣し風をどう受ければ速力が出るかを研究した。

同時に櫂での推進力も捨ててはいない。

風向きが追い風になるその時まで、逃げて逃げて逃げまくるのだ。

そして、ある程度敵の船を上陸させ、数を減らしてから行動に移る。


「今だっ!全船、帆を張れ!」


逃げ回っていた弱小船が、いきなり勢いよく向かってくるのだからそれは驚くだろう。

船に搭載されている大砲とは、当然ながら全方向に対応できるわけではない。

少なくとも今はまだ。

追い風を受けた皇軍船の速力はその狙いを定めるには早すぎた。

それでも辿り着くまでには何隻かは沈められるのだが。


「はははっ、大砲当たった船の奴は沈む前に泳いで逃げろよっ!!」


そんな指示が飛ぶが海上で聞こえる訳もなく、この隊長あってこの部下ありといった所だろうか。

殆どの部下たちは逃げることはせず、損傷した船をそのまま走らせ船首の衝角(しょうかく)を突き立てるように敵船にぶつかっていく。

更に船が大破すると同時に鉤爪を引っ掛け、縄を伝い敵船へと這い上がっていくのだ。

当然、敵もそれを許すはずなどなく、火筒を持ち甲板から狙い撃とうとするが、それぞれが腰にぶら下げた短槍を投げ威嚇する。

這い上がることに成功した皇軍兵たちは、一様に舌なめずりしながら火筒と槍を構え、その戦いの高揚に浮かれていた。

この光景を見て国同士の戦いであると思える者はどれだけいるだろう。

はっきりと言えば、海賊に襲われているようにしか見えない。

ちなみに、現在装備している火筒は改良型であり、筒にらせん状の溝が掘られている。

それにより命中精度は上がったが、今度は弾込めにますます時間が掛かり、少数での継戦能力は極めて低いという欠点が浮き上がった。



一方、隊長の水鏡はと言うと、敵船を盾にしながらその隙間をすいすいと潜り抜け目的の場所にたどり着いていた。

近くで見ると圧倒されるその大きさ、指揮官が乗っていると見て間違いないだろう。

そして他の隊の者と同じように鉤爪を引っ掛けると、左手に火筒を持ち右手一本で繋がっている縄を掴んだ。


「ふっ!!…はっ!!…ほっ…とっ!!」


片手だというのにそのよじ登る速さは異常の一言。

持ち前の能力を使い、風を遮る遮蔽物を察知し、敵兵が顔を出した瞬間火筒を放つ。

弾を込める暇が無い為、腰には三本の短槍も括りつけられていた。

勿論、その背には自慢の斧槍も背負っている。

船横を蹴りながら素早く登り、顔を出した兵を槍で射殺し、味方の援護射撃もあり、ついにその男は甲板へと降り立った。


「登れた奴らはそれぞれの判断で戦えっ!さあ、お待ちかねの戦場だぁ!!存分に振るえぇぇっ!!」


大気がびりびりと震えるほどの大声。

響き渡るその声と共に水鏡は駆けた。

そして一番近い敵兵に狙いを定めると斧槍で首から上を刈り取り、持っていた火筒を奪いよじ登る部下を狙っている敵兵の背後から撃つ。


「おいおいっ!俺に背中見せたら駄目だろっ!!はっはぁっ!!」


広い甲板にその声が響き、敵兵の視線を一身に受ける。

だが、忘れてはならない。

背後からは続々と這い上がって来る皇軍兵達がいることを。


「どこ見てんだよっ!!」


背後から登ってきた皇軍兵の一人が、水鏡に狙いを定める敵兵を背後から短槍で一突きにした。

こうなれば総崩れである。

自然、目は自分の背後から来る者たちに奪われる。

すると、今度は水鏡が縦横無尽に暴れ回るのだ。


「おらっ!!…もういっちょっ!!…今度はてめえだっ!!」


ガラリア軍の持つ火筒も単発式であり、このような乱戦では弾を込める暇もない。

結局、腰に差した剣を抜き迎え撃つしかなくなるのだが、それはあまりにも分が悪かった。

ボロ雑巾の様に、という表現がまさしく正しいだろう。

大柄な水鏡と比べてもさらに大きい斧槍が振るわれるたび、一人、また一人、時には二人同時に命の灯が消えていく。

部下である皇軍兵達もまた、嬉々とした表情で甲板を暴れ回っていた。


「おっ?どうやら指揮官のお出ましだ。」


異常事態を察知し、一際上等そうな衣服を身に付けた男が姿を現した。

やはり殆どの敵兵とは違い、指揮官の肌は白い。

大きな鍔の帽子に色彩鮮やかな羽をはためかせ、手には革製のグローブ。

上着は大きな襟の付いた形で、膝まである変わった靴を履いた出で立ち。

一見戦いには不向きに見えるが、鎧を着た所で火筒で打たれては一溜まりもない為、実践的ともいえる。


「…そこを動くなよぉ~。」


指揮官らしき男は、額に汗を流しながら火筒を水鏡目掛け構える。

その周りでは相変わらず皇軍兵の進撃が続いており、どちらのものか分からない悲鳴が響いていた。


「ノ~ロンガアプロ~チッ!!」


異人が異国の言葉で何かをわめくが水鏡がそれを聞く道理などない。

獣のようにギラギラと瞳を輝かせ、ゆっくりと歩み寄る。

動くのは引き金を引く瞬間。



パンッ!!



そしてその指が引かれる直前、水鏡は木板を蹴り横に滑るように跳ねる。

間髪入れず、そのまま一直線に踏み込み、槍の柄で敵の脇腹を横から叩いた。


「グァァァァァッ!?」


「へへっ、指揮官捕らえたりぃ~ってか?」


自らの仕事を全うした水鏡は、敵指揮官の首を絞め意識を落とすと、高々と勝ち名乗りを上げた。

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