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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第四十八話 決断の時

皇歴二十六年十月

その日、伊邪那乃都から北に見た浜に八隻の船が姿を見せた。

大きさは大体二十五から三十側くらいはあるだろうか。

そこから小型の舟を使い続々と軽装、重装の兵が陸へと足を踏み入れる。


「何だ何だ?何が起こってんだ…」


伊邪那から漁に来ていた男も、その異様な光景に息を呑んだ。

比較的軽装な者が四、五百程。

腕や足、胴などをしっかりとした防具で覆った者が五十名ほどだろうか。

どちらも身の丈以上の槍を背負っているが、前者の方は柄が細く、後者の方は柄の太さに加え先端に斧の刃がついた斧槍と呼ばれるものを携えている。

数はそれほどでもないものの、いずれも精悍な顔つきをしており、只物ではないことを悟らせた。

比較的軽装な方は殆どが背中に火筒を背負っており、装備の充実ぶりも伺える。

しかし一番男の目を引いたのは、斧槍を背負った男達が持つ盾であろう。

それは縦幅百五十糎はあろうかという鉄の塊。

本土決戦に備え、外国勢力の火筒に対抗するために新造された装備だ。

当たり前だが、その重量は相当なものであり、これを持って歩けることが重槍部隊の最低基準である。

証拠に、そんなものを携える者達の腕の太さたるや、まるで丸太を思わせる。

その反面、重装備は火筒と相性が悪いということで、体の方はかなり軽減もされてはいるのだが。

そんな光景を始めて見れば、驚くなと言うのが無理である。


「何が始まるってんだよ・・・。」


男は只震えながらその光景を眺めた。



時同じくして、役場の二階にある長の自室では結論の出ない話し合いが続いていた。


「阿斗里殿もお分かりでしょう?今は予断の許さぬ時、民をこのまま危険に晒すおつもりか?」


難しい顔をしてそう語るのは天津乃宮直臣貝塚東園(かいづかとうえん)

体高は百六十半ばだが、幼少より天實を支え続けてきた、齢六十一にして鍛え抜かれたその体、いまだ健在である。


「分かっています…我々だけでは抗することは出来ないということは、しかし…」


阿斗里は苦々しい顔で語る。

最近は風格を持たせるためか、髭を伸ばし始めた様だ。


「ならば、答えは一つしかないでしょう。我が皇国と・・陛下と共に手を携え民を守りましょう。」


貝塚は出された茶に口を付けながら淡々と語る。

しかし、その圧力は相対する者にしか分からない何かがあった。

事実、阿斗里はどうしようもなく呑まれてしまっていたのだ。


「分かっているんです、そうするのが一番堅実だと、しかしっ!」


「何が引っ掛かっているのですか?それをお教えください。」


言葉を引き摺り出されるような声だった。

阿斗里は抗うこと敵わず、その胸の内を吐露していく。


「いつの代も賢君とは限らないでしょう!次は?その次は?十代先は!?」


この精神状態が交渉において最悪なものであることを阿斗里自身理解している。

だが、堅牢な要塞を思わせる貝塚と、迫る危機を前に感情が先走った。


「暴君が生まれたらどうするんですっ!?その時、一国しかなく一人の王しかいないのでは…この地は荒れる。」


腰を浮かせ興奮した様子で語る阿斗里を、貝塚は相変わらずの表情で眺める。

その視線に浮かされた熱が冷め、阿斗里はゆっくりと腰を下ろした。


「ふむ、なるほど話は分かりました。しかし、ゆっくりと問答する猶予がないのも事実。」


「…何を仰りたいのですか?」


「取り敢えず、外の勢力への牽制として、方々へ軍の駐留許可を頂きたい。」


如何にも妥当な提案に見えるが、そもそも許可など必要がないくらいの戦力差があるのだ。

これは単なる形式上のものでしかないのだろう。


「…私が許可しない場合どう出るのですか?」


「民とこの地を守る為です。致し方ありませんな。」


正直、どちらが正しいかと言われれば皇国側の言い分だろう。

それは阿斗里自身も十分に理解している。

だが、このまま流されるように飲み込まれてしまえば、対等な関係など夢のまた夢。

その中で阿斗里にはたった一つの光明であり、確信している事があった。

それは、皇国側も争いを望んでいないという事実。

そこに付け込めば、まだ何とか出来る隙があると。

つまり目指すべきは、独立を認めさせた上で防衛の兵力は借りるという、どこまでも虫のいい話。

海の外の国であればそんなことは不可能であろうが、この者達は誇りを重んじる天津乃宮の臣下。

なればこそ、可能性はある。

阿斗里はそう感じたのだ。


「争いは好みません。しかし、理解とはぶつかってこそ得られるかと。」


「正気ですか?争いと言うほどのものにすらなりませんぞ?」


「知っています。それでも、貴方なら分かるでしょう?我々にも意地がある。」


こうして、皇国側にとっては赤子の手を捻る程度の小競り合いに発展していく。


▽▽


皇軍は上陸した浜から少し離れた場所に、持ってきた資材を組み立て簡素な基地を設営し始めていた。

そこに忍ぶことなく堂々と馬に跨り歩み寄る者が一名。

腰に白き一刀を携えた小柄な男、そう、刀一郎である。

目的は単純なことだ。

戦えば少なからず犠牲は出るという危機感を植え付ける。

それがこの男に課せられた使命なのだ。

勿論、来たのは刀一郎だけでなく一応味方も見える所で並んでいる。

だが、本格的な戦などお互い望んではいない為、個の力を見せることと相成った。

まあ、戦力差がありすぎるというのが本当の事情だが。


「たのも~~~っ!!」


そんな大声など出さなくとも、見張りの者が既に目の前にいるのだが、何となく声を張り上げてみたらしい。

すると、目の前の見張りらしき男が呆れた顔で口を開く。


「…何様(なによう)ですか?腰に差した白い片刃…貴方が刀一郎殿ですね?」


「む?何故知っておる?」


「伊邪那の主戦力だと。少なくともここに来た者は皆知っています。」


知られていることに嬉しいやら寒気がするやら、刀一郎は微妙な感情を抱いた。

だが、状況が変わろうともやることは変わらない。


「さあ、戦を始めようではないか。」

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