第三十八話 抜け目ない男
歩き始め様子を伺うと、やはり女達は元気がなかった。
それは当然のことであるのだが、会話もなく塞いでいる女達を連れていると空気も重い。
何とかならないものかと思い耽るが、刀一郎に女の扱いなど期待できる訳もなし。
てくてくと物言わぬ奇妙な一行は只足だけを動かしていた。
「ブルルルルッ、ブルッ、ブルルッ。」
「ふふっ、この子可愛い。よしよし。」
「いい子だね。あはは、こちょがしいよ。」
ふと後ろの方で、波風の鼻を鳴らす音と女達の明るい声が聞こえた。
振り返ると、女達は波風を撫で、撫でられている波風も気持ちよさそうにしている。
その光景を見て、刀一郎は本当に不思議な馬だと思った。
世話役の話だと、誰かが触ろうとするたび噛み付くらしく凶暴だと言っていたが、今の光景を見ればそんなことは想像もできないだろう。
「波風というのだ。短い付き合いかもしれんが、よろしく頼む。」
先ほどまでの重苦しい空気はどこへやら、姦しい声が響く道中に様変わり。
刀一郎は波風の心遣いに感謝しつつ歩を進めた。
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完全に日が暮れようとしていた頃、眼前に目的の村が見えてくる。
女達にも疲れが見えてきた矢先だった。
そして村へ入ると、意外な者と顔を合わせることになった。
「あれ?刀一郎さん?…ああ、そういえば特別な仕事を依頼したって言ってたな。」
それは伊邪那村の憲兵長補佐、竜であった。(現在の役職)
刀一郎は意外な顔に出会ったことで目を丸くしたが、周囲の様子から大体の見当がついた。
どうやら今まさに移住の準備をしている真っ最中らしく、皆慌ただしい様子が見て取れる。
村の規模もそれなりのものであるようで、二十人以上の兵を動員しての力の入れようだ。
「その後ろの女性達は?…まさか、刀一郎さんの?…冗談ですよ、怖い顔しないでくださいよ。」
相変わらず緊張感のない顔をしている竜に事情を話し、刀一郎は女達を引き渡した。
「三十人以上!?…それは流石に私達では危うかったかもしれませんね。」
「ああ、そしてこの男が先導していた者の一人だ。こいつだけは生かして捕らえた。」
「へえ、異人ですか、珍しいものを持ってますね。え?これ武器なんですか?私もらっていいですかね?」
呆れ顔で眺める刀一郎を尻目に自動弓を取り上げると、竜は自らの腰にぶら下げた。
そして後でちゃんと許可は得ると、緊張感のない顔で語る。
「聞けば賊は鉄製の防具やら武器を使っていたらしいですけど、回収できる距離ですかね?」
項垂れる異人の男の腕を掴みながら竜は抜け目のない事を語る。
だが、確かに言われれば貴重な鉄をただで入手出来る稀有な状況だ。
見逃す手はないだろう。
「なるほど近いですね。賊の心配も取り敢えずは無いし、出発を一日遅らせましょう。」
竜の鶴の一声で明日の出発は延期となった。
▽
翌日、荷馬車を引いた部下数人を引き連れて一行は戦闘跡地へとやってきた。
その光景を見た皆は、一様に刀一郎と死体を交互に見やり苦笑を浮かべる。
「知っててもこれは驚きますよね。この数を一人でって…しかもここから南にはまだまだいると…」
幸い、まだそこまで獣に荒らされた痕跡もなく、現場は綺麗なものだった。
最初は恐る恐る作業に当たっていた者達も次第に慣れ、手際よく装備を剥いでいく。
「この大きな男の剣、根元から折れてますけどこれも刀一郎さんが?」
「あ、ああ。自分もよく分からんが何かな。」
「へぇ~、いやはや人の為せる業にはどうも思えませんね。」
竜の感想は最もなもので、刀一郎自身その溶け落ちた破片を見ると寒気がする。
そしてある程度作業を終えると、今度は南の惨状後へと足を向けた。
「こ、これはまた…正に鬼神の如きですね。」
竜の凄い所は、言葉と裏腹に手際よく作業を進めている所だ。
それ所か沢山の鉄が入手できたのが嬉しいのか、その表情は笑ってさえいる。
まあ、同情するべき者達ではないので、刀一郎としてもそんなことはどうでいいのだが。
作業が終わった後、死体をどうするか話し合われたが、結局穴を掘って埋めることに決まった。
そしてすべての作業が終わる頃には、もうすっかり夕焼け空が広がっていた。
▽
帰りの道中、竜はとにかくご機嫌だった。
「見てくだいよ刀一郎さん。鉄の剣が二十二本ですよ。防具もこんなにっ。」
ガラガラと荷馬車を引く馬を撫でながら、竜は嬉しそうに語る。
部下の中には許可を得てのことだが、さっそく自分の装備を新調している者もいるようだ。
その逞しさに呆れるやら関心するやら、刀一郎は苦笑しながら眺めるのだった。
▽
翌日、伊邪那村への帰路は当然刀一郎も同行するつもりだったが、
「いえ、刀一郎さんは先に帰って事の次第を阿斗里様に伝えてください。」
「大丈夫なのか?賊はあの者達だけとは限らんのだぞ?」
「大丈夫です。少しは私達も仕事しないと。頼ってばかりでは流石に申し訳ないですから。」
多少の心配はあったが、今は一刻も早く事を阿斗里に伝えたかったのも事実。
刀一郎は竜の申し出を受け、一足先に村へ戻ることとなった。




