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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第三十七話 斬り鬼

「ゆくぞ波風っ!」


声に反応し、何事かといった感じに波風は首を持ち上げた。

そして愛馬を起こし立たせると、刀一郎は勢いよく跨る。

一方波風は、切迫した状況だと察したか、勢いよくその鼻を鳴らし応えるのだった。

その様はまるで本当に会話が成立しているかのようにさえ思わせる。


「あの者達が向かったのは南。向こうは徒歩、こちらは馬、今ならまだ追い付けるな。」


波風は勢いよく山道を駆ける。

その途中で刀一郎は思った。

このまま後を追うよりも、多少遠回りになっても先回り出来るならその方がいいのではないかと。

そう思い、一度山を東に抜けた。

そこから指針を頼りに草原を進み南を目指す。



そうして駆けていると一見(一キロ)程先に目的の者たちの姿を感知した。

その気配を捉えたまま気付かれないよう十分な距離を取り、迂回する形で先に回り込む。


「賊が山を抜けるのはあの辺りだな。さて、迎え撃つか、こちらから向かうか。」


考えた末、見晴らしのいい草原で迎え撃つことにした。

普通数の利が活きるこのような場所を選択しないものだが、山での戦闘となれば逃げられると面倒くさい。

先ほどの異人達とは違い、この賊達はただ甘い汁を吸いたいだけの者だろう。

だから不利と悟れば、すぐに逃走を選択すると刀一郎は踏んだのだ。

だが、この草原であれば波風の足に人間が敵うわけなどなく追うのも容易になる。

勿論、どれだけの数の不利があろうとも、ものともしない個戦力があっての話だが。

山を抜けた賊たちは、その見晴らしの良さからすぐに刀一郎を発見した。

賊は二十人、迎え撃つのは小柄な馬に跨った一人。

当然その歩みを止める理由になりはしない。


「おいおい、何かいるんだけど?俺疲れできたし馬貰っちゃうべ?」


刀一郎はまだ動かない。

山から十分に距離がある所まで、賊達を引きつけてからと決めているのだ。


「…そろそろか。はいやぁっ!」


波風の腹を蹴り、勢いよく集団へと駆ける。

そして手綱を左へ引き、体を横に向けた瞬間勢いよく馬上から跳んだ。


「…フンッ!」


着地と同時に袈裟斬りで一人を斬り捨てると、鬼気迫る表情で次々に斬撃を浴びせていく。

完全に命を絶つことよりも、逃走を防ぐことに重きを置いた立ち回り。

逃走さえ防げば、止めは後で刺せばいい。

そんな風に考えながら、とにかく体のどこかを斬る。

指、腕、足、首、血しぶきと共にそれらが絶え間なく飛んだ。


「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃっ!!」


「た、助けてくれぇぇぇぇぇっ!!」


「何やってんだっ!!相手は一人だぞっ!!囲めっ、囲めっ!!」


逃げ出そうとした男に、足元の剣を広い投げる。

それは後頭部を直撃し、痙攣を繰り返したのち男はその動きを止めた。


「一人も逃がさぬっ!!」


殆どの者は既に戦意を失っていた。

本来ならば斬ることなどしないが、捉える人員もなく収容する場所もない。

刀一郎は幾許かの無念を抱えながらも、躊躇わずに斬り捨てていく。

白鬼は絶え間なく浴びる血を汚らわしいと言わんばかりに、じゅうじゅうと音を立てて蒸発させていた。


「お、俺が悪かったっ。なっ?たすけてく…かひゅっ…」


問答の余地などないと首を斬り落とす。

その様、正に鬼というべきだろう。

気付けば立っている者は刀一郎ただ一人であり、辺りにこだまするのはうめき声ばかりという惨状。

そして呻き苦しむ声に歩み寄り、一人、また一人と止めを刺していく。

表情はなく、最後の一人を処理した所で口を開いた。


「…ふぅ、あまり気持ちの良いものではないな。」


それもそのはず。

これでは只の弱い者いじめであり、武人としては褒められることではない。

だが、誰かがやらなければならない事であるのも確かなのだ。

刀一郎は己にそう言い聞かせると愛馬を呼んだ。


「ブルルルルッ!」


波風は主人を気遣う様に鼻をこすりつける。

刀一郎もそれに応え首筋を撫でると、あの小屋へと戻っていった。



小屋へと帰り着くと、剣呑な雰囲気は意外に無い。

どうやら言いつけ通り異人の男は女達の世話をしてくれていたらしい。


「帰ったぞ。それでこれからだが、一番近い集落か村を知らないか?」


女達は一様に顔を見合わせると、一人が声を上げた。


「それなら、向こうの方角に確か村があったはずです。」


薄衣を手で押さえながら指を向けた先は東。

行く先は決まったが、問題は距離だ。

もうすぐ日も傾いてくる。

冷える夜にこの薄衣で野営では女達には酷であろう。

そう考えた刀一郎は詳しい場所を尋ねると、


「そう遠くはないです。完全に日が落ちるまでには着けるかと・・。」


「行ったことはあるのか?」


「あ、はい。何度か食料を交換しに行ったことがあります。」


「それはどのくらい前のことだ?」


聞けばそれなりに前の話らしく、今でもその村人が留まっているかは怪しかった。

もう伊邪那へと移り住んでいる可能性も高いだろう。

少し思案した後、やはりその村へと行くことに決め、女達を連れ歩き出す。


「何をしている?お主も来るんだ。」


気まずそうに立っている異人に声を掛けると、男は少し寂しそうな笑みを浮かべた後、刀一郎の後ろを付いて歩くのだった。

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