第三十五話 意外な首謀者
「エアテグザビレイザサウ……」
「ここから南に行った村オソウ。ワカッタカ?」
刀一郎は集団を目視できる場所まで近づき、様子を伺う。
すると、驚くことにそれらを率いているのは赤い髪に白い肌、青い目の異人であった。
百九十はあろうかという大柄な体躯に、刃渡り百三十糎程だろう鉄の大剣を背負っている。
しかしこの男、賊としては参加しないのか、防具は身に付けていない。
その脇には言葉を訳する為なのか、褐色の肌の男が二人ほど立っている。
巨躯と並ぶと小柄に見えるが、それでも百七十くらいはあるだろう。
褐色とは言っても、海近くの漁師だと言われれば納得してしまいそうな風貌だ。
(何とっ、予想もしなかったな…どうする?どこかを襲う算段をたてているようだが。)
人数が人数なだけにさすがの刀一郎も迷いを禁じ得なかった。
小屋の中にも数人いるようだが、感じる感情は恐怖や絶望の類、賊の仲間ではないだろう。
そして問題なのはもう一つ。
全員ではないが、賊の中には明らかに鉄製の剣や防具を身に纏っている者さえいるのだ。
「イレサムゴプレテトビジアクオウジカントゥリ……」
「何人か逃がシテ皇国の仕業見せカケル。これ見せてからニガセ。」
そう言ってかざしたのは、稲穂が実り頭を垂れた様子が描かれた紋。
見れば、賊の防具には同じ紋が掘られている。
刀一郎は知らなかったが、それは皇国という国を表す印であったのだ。
そしてそれは刀一郎だけではなく他の者たちも同じであり、幸いそのことが余計な混乱を招かない要因でもあった。
この異人にとって自らが住まう地の国は知っているのが常識であり、その感覚が誤算となっていた様だ。
だが、知らなかったとは言っても会話の内容を聞けば大体は察する。
だからこそ刀一郎は、今起こっている事の重大さを認識した。
(このままでは…いずれ伊邪那村は皇国と争うことになってしまうっ。)
今は知らなくても、悲劇的な話題というのは一度火が付けば一気に広がるもの。
そうなる前に鎮火することが重要となる。
一度火が付いた敵対感情は中々に厄介なものなのだ。
そうならない為には、正に今行動する必要があるだろう。
数が数だが、刀一郎には戦えば勝てるという自信もあった。
だが、恐らくこの敵はこの者達だけではないことも予想できる。
どんな手を打ってくるか分からないよりも、分かったまま迎え撃つ場合が良いこともあるのだ。
負けないことと全員を打ち取れる事とは、また別の話なのだから。
「テンペ~ポステア~」
「行くのは二十人ダ。それ以外ここにノコレ。」
号令を皮切りに十人程の賊が残り、一気にやりやすくなったと刀一郎はほくそ笑んだ。
この人数なら不意を突けば全員をやれると。
(別れた者達を止める為にも、あまり時間は掛けられんな。)
不可視の手を伸ばし動きを探り、頭を地に擦る体勢のまま、慎重に距離を詰める。
異人の男は残った十人程の賊にも何かの指示を出している様だ。
慎重に、慎重に、気付かれぬよう地を這って近づく。
そして遂に、この先は身を隠すものがない所までやってきた。
勝負は、敵の初動よりも早く何人斬れるか、そこにあるだろう。
感知範囲をギリギリまで絞り濃度を増し、意識の方向性さえ探る。
全員の意識がこちらにはない事を確認したその瞬間、
「…フッ!」
這う様に地を蹴りつけると、一番近い者の胸を背後から貫く。
首を刎ねればその出血の派手さから一瞬でばれてしまうと考えての選択だ。
「…フンッ!…シッ!」
同じように空気を切り裂く様な鋭い突きでさらに二人を仕留める。
しかし、騒ぎ出す前に斬れたのは三人が限界だった。
敵は全員がそれなりにばらけた場所に立っており、その現状が刀一郎にとっての不運といえよう。
「キッザ~メンア~リ~!」
異人の男の怒声とも取れる声に反応し、全員の敵意が向けられた。
異人の男はその巨躯を揺らし背中の大剣を抜き、横二人は何やら見たことのない武器を持っている。
武器と判断出来たのは、この状況でそれ以外を取り出す必要性を感じなかったからであろう。
「テ~カットオ~ワ~ン!」
異人が大剣を振り上げ前方に振り下ろすと、賊が一斉に向かい来る。
刀一郎は迎え撃つように切っ先を敵に向けると、白鬼がギラリとその殺意を輝かせた。
「オゥラァッ死ねや!!……ぐぁぁっ!!」
初撃を滑り込む様にして躱しながら片足を刎ねる。
「てめぇぇぇっ!!…かふっ。」
滑り込んだ反動そのままに、獣の如き俊敏さで二人目の首を突く。
「来るんじゃねえっ!」
「ちくしょうがぁぁぁっ!!」
「くっそっ!何だよっ、何でも思い通りになるんじゃなかったのかよっ!!」
横に並んだ二人を剣ごと真横に斬り裂き、後ろの男の剣を横に軽く飛び躱すと、胸部を突き貫いた。
残るは異人三人組のみ。
そう思い視線を向けようとした瞬間、全身から警告が響き、刀一郎は慌ててその場を飛びのいた。
「…なっ!?」
すると、先ほど自らの頭があった場所を鋭い何かが切り裂いていったのだ。
放たれたと思われる場所へ視線を向けると、異人の側近があのおかしな形の武器をこちらに向けている。
(あれか…あの手に持つ武器から放たれた…矢だな。)
それは刀一郎が見たことのない形の弓である様だった。
見ればカチャカチャと次の矢を準備している素振りも確認できる。
連射が利かない、それが分かったことも大きな勝機だ。
刀一郎は警戒心を最大にしつつ、更に集中力を研ぎ澄まし、敵へと向き直った。
幸い異人達に逃げる素振りは見えず、その事実だけには安堵するのだった。




