第三十四話 周辺調査
刀一郎は伊邪那村から南西に続く街道を愛馬に跨り駆けていた。
取り敢えず地図と指針を頼りに、一番近い賊頻発地域へと向かっているのだ。
見れば印は西の海の方へ点々と続いているようだった。
それが何を意味するのかはまだ分からないが、辿って行けば何か分かるはずと真っ直ぐ駆けていく。
そして村を出て最初の一日は何事もなく過ぎ、野営と相成った。
「ブルルルルッ!」
「おお、よしよし。今日は良く走ったな。」
野営場所は小川が近くにある場所に決定した。
しかし、雪が解けたとはいえまだまだ夜は寒い。
熊の毛皮で作られた上着をまとい、波風を抱くようにして眠った。
翌日起きると空には雨雲が覆っており、道中の不安を募らせる。
「これは一雨来るか。そういえばこの先には鉱山があったな。」
鉱山の採掘現場は幸いまだ被害に遭ってはいないが、一応確認しておくべきかと思い刀一郎は行ってみることにした。
小屋などがある為、それが目当てという理由もある。
それから時々小川を見つけては小休憩を挟みつつ走らせていると、開けた山道が見えてきた。
鉱物を運ぶための道であろう。
「波風、もうひと踏ん張りだ。ここを登ったら今日は休もう。」
波風はまるで言葉を理解しているかのように鼻を鳴らした。
そして腹を踵で叩くと、勢いよく駆け上がる。
その姿は、乗り手と同じ小さな体ながら何とも力強さを感じさせるものだ。
▽
村を出てから刀一郎は常に周囲を感知能力で探っている。
そして、適度に休ませながら半刻程駆けただろうか。
感知射程ギリギリの所に小屋があることを察知した。
周囲には十人以上の人もいる。
小屋のある場所まで着くと、その男たちの視線が一斉に刀一郎へと向けられた。
「おや?何かあんた村で見たことあるな。こんな所でどうした?」
「ああ、刀一郎という。一雨来そうな所、今日はここで休もうかと思った次第だ。」
「確かにそろそろ愚図りそうだな。よし、俺達も今日は上がるとするか。」
そう言って男が声を張り上げると、十五人ばかりの屈強な男達が集まってくる。
刀一郎は挨拶しながら小屋に入り、ここまで来た細かい事情を説明した。
「がっはっは、賊か。阿斗里様にも言ったが、俺達は大丈夫だ。」
そう言われ刀一郎は見渡す。
十五人もの屈強な男が揃っている上、採掘用の道具は武器にもなるだろう。
「うむ、確かに襲われるとは思えんが、油断は禁物だぞ。」
「分かってる。俺達だって馬鹿じゃない。夜は交代で見張りを立ててるからな。それに、掘らずに帰ったら俺たちの収入なくなっちまうぜ。」
周囲の男達が違いないと一様に笑い声をあげた。
その豪快な笑い声を聞いていると安心感が沸き上がる。
「よしゃ、俺達は飯にするがあんたはどうする?…いらないって?まあ、あんたが良いならいいが。」
心遣いに一応の礼を言うと、食事(空気を吸うだけ)がてら波風の様子を見に行くことにした。
この採掘場にも厩はある。
鉱物を乗せた荷車を引くためだ。
日が傾き少し暗くなった厩に入ると、波風は鼻を鳴らして刀一郎を呼ぶ。
「元気そうだな。おお、周りの馬たちは随分大きいな。」
大きいと言っても体高はあまり変わらない。
ただ、その足や体全体が波風とは比べるべくもないほどの逞しさなのだ。
「見ろ波風、首など俺の胴よりも太いぞ。ははは、凄いな。」
見た目の逞しさとは裏腹に気性は大人しい様で、刀一郎に好き放題撫でられている。
そうしてじゃれていると、ヤキモチを妬いたか尻を波風に噛まれてしまった。
謝罪の意味も込め首筋を撫でた後、小屋へと戻り眠りにつく。
▽▽
翌日、世話になった鉱山の面々に別れを告げその場を後にした。
「おう、刀一郎も気を付けろよ。逆に打ち取られでもしたら寝覚めが悪い。がっはっは。」
その豪快な笑い声を聞きながら、昨日駆け上がってきた山道を駆け下りた。
どうやら夜に雨が降ったようで、山道にはちらほら水たまりが出来ているが、今日の天気は快晴。
照りつける太陽も気持ちよく、気分新たに散策へと乗り出すのだった。
▽
そうして目印のある辺りへと辿り着くと、賊がいるとすれば山の中と判断し、波風の背から降りると、手綱を引いて進んでいく。
道なき道を進むとどれくらい経っただろうか、けもの道ではない、明らかに人が通って出来た道を発見した。
周囲を警戒しながらその道を辿っていくと、かなりの人数がいる気配を感知する。
更に詳しく探ると、その者達は木々等を切り倒し、開けた場所に住処を作り陣取っている様だ。
数は、三十人以上。
「…多いな。」
近づくにしても波風を連れて行けば確実にばれてしまうだろう。
考えた結果、連れていてもバレないギリギリの所まで引いて行き、木に繋いでおくことにした。
勿論、感知能力圏内に置いてである。
「波風、声を出すなよ?」
波風は声を出すなといった傍から、ブルルッと鼻を鳴らし返事を返す。
だが、賊らしき者達が集まっている場所までは百側(100m)以上あるので聞こえることは無いだろう。
木に繋げると、大胆なもので波風はその場に腰を下ろした。
馬は安全だと確信した所でしか休まないと聞いていた刀一郎は、その逞しさに苦笑する。
そして鬱蒼と生い茂る木々に身を隠しながら、集団へと近づいていくのだった。




