第三十一話 皇軍の苦労人
「俺らが何したってんだよ!?見逃してくれよっ…な?」
これまで結構な非道を行っているにもかかわらず、大層な面の皮で男は語る。
辺りは鬱蒼と木々が生い茂った奥深き森。
男の眼前に立つのは、その命を刈り取りに来た者である
当然、その願いが叶えられることは無く、無常にもその首から空気の漏れる音と共に血が噴き出した。
人がある限り、法に縛られることなく好きに生きたいという者は必ず現われる。
そして、そういう者達を排除する者もまたあるのだ。
「隊長、片付きました。五十人くらいですか、多かったですね。」
そう語るのは、軽装歩兵部隊副隊長【喜栄義忠】
軽装歩兵の名の通り、その装備は重装部隊と比べてかなり動きやすいものになっている。
基本装備は片刃の直剣と細槍に投擲用の針いずれも鉄製、加え関節と胴を守る防具だ。
「この規模からして、周辺の村や集落の荒くれを募ったんだろうな。全く面倒臭い。」
気怠そうに語るこの男こそ同隊隊長【御剣群馬】である。
元々は小さな村で用心棒の様な職に就いていたが、その才を見出され今に至るという流れを持つ。
年齢は二十九、体高は百六十五糎といった所か。
御剣が今の職の打診を受けた理由は只一つ、給与が良かったからだ。
隊長格に武人然とした者が多い皇軍の中、この男はある意味異色といえよう。
「しかし、最近頻発してますね。まあ、他の隊には嬉々として討伐に向かう者もいますが。」
「全く考えられんよ。休みは多ければ多いほどいいのによ。」
そんな呑気なことを語っているが、彼らの周りには二十を超える死体が転がっている。
この討伐に派遣されたのは御剣以下三百名弱。
半分は討ち漏らしがないよう周囲を包囲しているので、実際に討伐に参加するのは百五十程である。
その戦いは一方的なものであった。
数の優位があるとはいえ、誰一人ほとんど手傷を負うこともない圧勝といっていいだろう。
賊の内、御剣と喜栄だけで十人以上を仕留めている。
この二人は障害物の多い場所での戦闘行為に非常に馴れていた。
喜栄は元狩人であり、御剣は用心棒だけで食うに困った時、同じく狩りも行っていたからだ。
その上、軍の訓練も積み装備も賊とは一段階以上差がある。
この結果は当然と言えよう。
規模や罪状によっては賊でも情状酌量が認められるのだが、これくらいの規模になると捕らえる余裕が無い為、今回の様な対応となる。
ちなみに、嬉々として向かう者とは重騎兵隊の大道重盛のことである。
場所が森であったとしても、騎兵と名乗っているにもかかわらず、馬を降りて重い体を揺らしながら突っ込んでいくのだから理解に苦しむ。
「まあいい。他は他、うちはうち。よ~し、帰るぞ~。早く準備しろ~。」
「隊長、その前に死体を焼却処分しないと。近くに村はありませんが、決まりですから。」
「はぁ~?大丈夫だって、獣かなんかが食ってくれるって。」
「後でばれたら罰を受けますよ?」
「…分かったよ。お~いお前ら、死体一か所に集めろ~って、もうやってんのか。関心関心。」
集めた死体の周りの草や木を、燃え移らないよう刈り取り大きな穴を掘り、どさどさと死体を投げ入れる。
それに持ってきた油で豪快に火をつけた。
実は荷物の中で一番重量がありかさばるのが、この為の油だったりする。
賊の数が数だった為、結局一日仕事になってしまった。
「うわぁ~…くっせぇぇなぁ。この匂い嫌いだわ俺。」
「隊長さっきから煩いですよ。臭いのはみんな同じなんですから。」
喜栄の苦言も何のその、御剣はぶつくさと文句を言い続けたのだった。
▽
一方そのころ、頻発しているという喜栄の言葉その通りに、別の場所でも賊の討伐は行われていた。
見晴らしのいい草原、数件の小屋を全身鎧の数十人で取り囲み、今まさに一人の男が先陣を切り突っ込んだ所である。
「何だ何だっ!もう終わりかっ!根性見せろっ、根性っ!」
身の丈を超える大槍を振るい叫ぶのは重騎兵隊隊長【大道重盛】その人だ。
その身に纏う防具は重と付くほどのものではなく、何故か軽装、そして馬はない。
「大道サンッ、一人で突っ込まないでくだサイッ!」
苦言を呈するのは、重槍歩兵部隊副隊長【斎藤序弐位】
年は四十、体高は百八十糎、赤茶色の髪と青い瞳が印象的な男だ。
何故、隊の違うこの二人が並んでいるのかというと、呼ばれもしないのに大道が付いてきたからに他ならない。
しかもこの男、今日は非番である。
斎藤の上司である雷安は別の場所で別の隊を率いている為、手綱を握るのも一苦労だ。
「はっはっは、気にするな徐弐位。さあっ、ゆくぞっ。続け~~!」
「ダカラ、大道サンッ!一人で行かなイデ!」
必死で暴れ馬を制しようとする斎藤だったが、まるで引き摺られているような光景だ。
部下たちもまた、重い鎧を身に纏いながら付いて行くのがやっとであった。
▽
斎藤が色々な意味で奮闘している頃、そこから西に二十見ほど離れた都近くの街道。
「隊長、あの~…大道さん付いてっちゃったみたいです。徐弐位副隊長のとこに…」
その言葉を聞いた重槍歩兵部隊隊長【九条雷安】は、眉間に皺を寄せ呟いた。
「済まナイ、ジョニー。何とか上手くやってクレ…。」
今まさに苦労しているであろう部下を思い、東に視線を向け只祈るのであった。




