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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第二十八話 伽耶の宝物2

四人での不思議な行商を始めて五度季節が巡る頃、貨幣という価値観は既に周囲の村や集落に浸透しつつあった。

まだ一部ではあるが、鉄志の作る道具以外にも貨幣でのやり取りが行われ始めていたのだ。

そして時期は熟したと、今度は都留岐と二人で南へと旅に出る。

その間の貨幣への交換は伽耶の担当であった。

物による交換割合なども事前に決めていたので迷うことは無かった様だ。


「阿斗里、大きな川も近い。木々が豊かな森もある。ここが良いのではないか?」


二人が探しているのは、水場が近く平地で、ある程度開けている場所。

何のためかと聞かれれば、国を作る為と答えるだろう。

まあ、それは大分先の話であり、最初は小さな集落、そして村となるのだが。


「うん。いいね。ここいいよ都留岐。ここにしよう!」


遂に場所が決まった二人は、忘れないようしっかりと目印を付けながら帰途に就く。

そして帰り着くと、阿斗里は早速伽耶に抱き着き伝えた。


「伽耶!良い場所見つかったよ!みんなで暮らせる良い場所!国を作れるよ!」


未来を見つめ興奮冷めやらぬ阿斗里の頭を伽耶は静かに撫でる。

そのキラキラとした瞳に少し表情を緩ませながら。


▽▽


阿斗里たちが旅に出ている頃、伽耶はその道を作る為一人奮闘していた。

住み慣れた場所を離れ移るなど、本来なら誰も同意するはずがないのだ。

その辺り、阿斗里は子供であったのだろう。

人の感情の機微というものが分かっていなかった。

だからこそ、伽耶が動き、説得を重ねる。


「そうですね。大変です。しかし、鉄志さんとあの子達が作る未来、見てみたくはないですか?」


「そうは言うがよ、いくら何でも・・・。」


「今の自分ではなく、子供の事を考えてみてください。きっとこの地はこれから大きく変わっていきます。その時、現状に執着していればその子は置いて行かれてしまいますよ?」


説得は簡単ではなかった。

けれども、それが出来るのが伽耶しかいなかったのも事実。

辛抱強く、根気強く、じっくりと語り、徐々に皆の意識は変わっていったのだ。

勿論すべての者が同意したわけではないが、それなりの人数は阿斗里に付いて行くと決めた。



▽▽▽▽



それからまた一つ季節が廻り雪が解けた頃、阿斗里は近隣の村々から募った匠人(しょうじん)と都留岐を引き連れ村予定地へと向かう。

皆を連れてきても住むところがないのでは話にならない。

その為、まずは住居、そして畑を(なら)しておこうということになったのだ。

準備としてその間の食料なども募り、集まった多さがその期待を示しているようだった。

協力してくれた匠人には、鉄志製の道具をただで譲り、その上賃金も与えた。

好待遇が噂となったのか、後からも続々と腕に覚えありと集まってくる。

その数は最終的に五十人を超え、いつの間にか普通に作物も収穫しており、ちょっとした村といっても過言ではない規模になっていた。

そんな予想外のこともあり、予定よりもかなり早く目標は達成された。


「阿斗里君、取り敢えずこのくらい建てればいいんじゃないか?」


少し肌寒く感じてきた頃だった。

本当に簡素だが、充分に人が住めるであろう空き住居が三十。

本格的なものはこれから徐々に作っていけばいい、そう考え速さに拘った結果だ。

阿斗里は早速都留岐を連れ集落に戻ると、伽耶に伝える。


「そうですか。全員ではありませんが集落の皆も付いてきてくれるそうです。」


聞けば、残る者達はここから少し西に行った集落に身を寄せるとのこと。

その殆どが、やはり海から離れては生きてはいけないと言った者達だった。

阿斗里は少し残念に思いながらも、いつか合流できる日を夢見て前を向く。


「阿斗里君…本当に凄いね。まさか本当に村を作っちゃうなんて…」


話を伝えた弥奈は半分呆れ、半分感心が混じった何とも言えない顔をしていた。

勿論、弥奈の家族は移住組だった。

父は漁師だったが、それでも娘の未来を思えば付いて行くのが正解と判断したのだ。


「何だ坊主…ん?もう準備出来たのか?早かったじゃねえか。」


一、二を争う功労者である鉄志も忘れずに連れ、大事な炉はどうするのかと思ったが、取り外せるものだけ持っていき、後は向こうでまた作るとのこと。

そして準備万端、いざ旅立ちと相成った。



全てが順調というわけではなかった。

様々な問題が発生したし、悲しい出来事もあった。

だが、それでも最初は百人程度から始まった集団がいつの間にやら千を越え、二千を数える。

そして今も膨張を続け、いずれは阿斗里が夢見た国に至るのかもしれない。



▽▽▽▽



暫くのち、伽耶の自宅は阿斗里宅の隣にあった。

最初は一緒に住んでいたのだが、若い二人が一緒に住む頃を期に一人で住むようになったのだ。

勿論、阿斗里も弥奈もそれには反対したが、


「手の掛かる子供の世話からやっと解放されたのです。ゆっくりさせてはくれませんか?」


などという捻くれた言葉で返されては、渋々頷くしかない。

しかし、その表情は口調とは裏腹に、珍しく口角が吊り上がっていた。



ある朝、伽耶は目が覚めると呟く。


「懐かしい夢を見ましたね。ふふっ、もう頃合いなのでしょうか。」


そう呟きながら、肌身離さず持っているそれを衣嚢(いのう)から取り出した。

それはかつて阿斗里からもらった、あの金色に輝く丸い貨幣であった。


「伽耶さん、起きてますか?一緒にご飯にしましょう。」


戸を叩く音が聞こえ、一日の始まりを告げる。

手に持っていた宝物をしまい、今日も忙しい日になると、頬を緩ませながら思うのだった。

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