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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第二十六話 想い

竹地村での交渉が済んだ数日後。

いくつかの区画に分けた地域の代表は集会所へと集っていた。

これからの村の重要事項を決める集まりとなる【長会(おさかい)】の結成である。

八の区画に分かれている長と阿斗里、それぞれの同行者の計二十人程が集まっている。

弥奈と伽耶がお茶を配り終わって、向き合った全員が姿勢を正した。


「では、まずはこちらを。」


そう言って阿斗里が差し出したのは一枚の紙。

正式に自らを長と認めるという印をもらうためだ。

今までは流れで長という形になっていただけで、このような過程を踏んでいなかったことが気になっていたのだろう。

誰一人異を唱える者はおらず、静かにそれぞれの印を押していく。


「では、第一回長会を始めたいと思います。この会は定期的に行われるものではなく、これ以降は私かそれぞれの長の申告によって開催されることとなります。」


阿斗里の始まりの一声を皮切りに、それぞれの長が自分の思う問題点を挙げていく。

その問題は多岐にわたり、殆どは今すぐに解決できないものばかりだった。


「集合墓地以外に勝手に墓を作る者が多すぎます。あれでは……」


「役場への申告が必要という旨をもっと皆に浸透させれば……」


「いっそ、葬儀は全て役場で取り仕切っては……」


「依然話されていた税と呼ばれるものなのですが、今の状況では民が受け入れるのは厳しいかと……」


「最近明らかに暴利をむさぼる者がおります。何か罰則を……」


「それぞれの区画に憲兵の配置所がほしいのですが……」


途中では別区画の長同士が声を荒げる場面もあるなど紛糾した。

分かってはいたがあまりに問題の多い状況に、さすがの阿斗里も眉間に皺が寄る。

話し合いは深夜まで続き、それでも一応の具体案が出た所でお開きとなった。



長たちが帰った後、阿斗里は一人溜息をつく。


「はぁ~~、思った以上にきついな。」


そんなつぶやきに苦笑しながら弥奈が横から茶を差し出した。


「ですが、皆さん生き生きとしてましたよ?自分がこの村の発展に直接関わる自覚が芽生えたからでしょうか。」


「そうだね。今までは僕一人で決めてきたから余計にそうなんだと思うよ?」


阿斗里自身その在り方の歪みを理解してはいたが、今まではこのような会を作る段階になかったのだ。

しかし住民もそれなりに増え、都と呼んでも差し支えないほどの規模になった今、満を持しての開催と相成った。

大変な事ばかりだったが、一つ思っていた以上に良い事もあった。

それは、それぞれの区画の長が阿斗里のもたらしたものを予想以上に理解していたことだ。

その為、思った以上に中身のつまった議論になったと表情が緩む。


「きついからと言って、投げ出すこと等許されませんよ?」


盆にのせた食事を運んできた伽耶が、変わらぬ鉄面皮で釘をさす。

実はこの老婆こそが阿斗里の育ての親と言っても過言ではない。

伽耶は元々北東にある集落の一つに住んでいた。

その時、漁に出ていた者が偶然見つけた阿斗里を集落まで連れてきたのだ。

だが、着ていた服の珍しさや容姿故、誰もが気味悪がって引き取ろうとはしない。

言葉が通じないというのも大きな問題だった。

そこで亭主に先立たれ独り身の伽耶が引き取ったという流れになる。

もう随分前の話だ。

ちなみに、阿斗里を発見した男の娘が弥奈である。


「わ、分かってるよ・・。少しは褒めてくれたっていいだろ…」


「あらま、ここが終着点なのかい?なら、褒めてあげてもいいけどね?」


先ほどまでは長として毅然としていた阿斗里も伽耶の前ではただの子供に戻り、ぐぬぬと顔を歪めた。

横では、その姿を眺めながら弥奈が微笑んでいる。

阿斗里は不貞腐れた表情で米を掻っ込むと、もう寝ると言って自宅へ戻った。


「ふふ、伽耶さんはお厳しいですね。」


「当たり前のことを言っているだけです。これほど多くの者を巻き込んで匙を投げるなど許されないと。」


「阿斗里君は投げ出したりしませんよ。伽耶様に褒めてもらうまでは。ふふ。」


「どうでしょうかね?あの子は昔から鳥の様に落ち着きのない子でしたから。あれは何だ、これは何だと。」


口調とは裏腹にその表情はとても柔らかい。

だが、話していても動きは止めず、自らは阿斗里が置いていった器を片付けている。

しかし、珍しく器を落とす音が響き弥奈が振り返った。


「…少し疲れた様です。先に休みますね。」


「伽耶様?」


「…何でもありませんよ。下手に騒ぎ立てることだけはせぬよう。」


弥奈は不安に思いながらも、その意思を汲んだ。

伽耶からいつもの凛とした佇まいは感じられず、頼りない足取りで帰宅していく。

その足はぶるぶると震えており、とても言葉通りの状態とは思えなかった。

そして思い出す。

子供の頃にいた集落で年老いた者が亡くなる時、こんな風に頼りなさげであったと。

大体はその様になる前に病でなくなるのであまり見ることは無いが、それが実の祖母であったので弥奈はよく覚えていた。


「…知らせた方が…でも…どうしたら…」


二人の大切な者を思い弥奈は苦闘する。

伝えれば伽耶の思いを無碍にしてしまう。

だが、伝えなければ、最愛の人がいずれ大きな悲しみに暮れるだろう。

そして自分は決して晴れることのない後悔の海に沈むだろうと。

悩んだ末、この事実を最愛の者に告げることを覚悟するのだった。

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