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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第二十三話 交渉

阿斗里との話し合いから、一月半が経過した。

体が感じる気温も肌寒さを感じるようになってきており、秋の終わりを告げている。

これから厳しい冬が来るのだ。

そして、何としてもその季節までにはもめ事を片付けたいのだろう、跨る馬の腹を踵で叩きその歩を進める。


「この丘を越えれば竹地村が見えてきます。雨が降りそうですし、少し急ぎましょうか。」


阿斗里は、同道する都留岐と刀一郎に声を掛け、歩を速める。

今回同行しているのはこの二人だけである。

多くを連れ、刺激することを嫌ったのだ。

それが功となるか仇となるか、それはまだ分からない。

三人は二日掛けてこの道を進んできた。

一応、向こうの長には伝令を事前に送り、このくらいに向かうことは伝えてあるらしい。

曖昧な言い方になったのは、竹地村には暦が伝わっていないせいで、正確な日取りを伝えることが出来なかったというのが理由だ。


「阿斗里様、村が見えてきましたね。中に入ったら念の為、私が先を歩きます。刀一郎、後ろは任せたぞ。」


その声から信頼を感じた刀一郎は、表情を引き締め頷いた。

辺りは暗くなり始めていた。

村を照らす篝火の揺らめきが見え、馬を降り手綱を引くと三人は門を潜る。

すると、中々に屈強そうな男を四人引き連れた、一際大柄な男が歩み寄ってきた。


「刀一郎さんは初めてですよね。この方が竹地村の長【豪鳴(ごうめい)】さんです。」


見れば、百八十(せんちめーとる)ほどある阿斗里と並んでも少し大きい。

その体は腕も足も胴も首も、全てが太い。

細身の阿斗里が並ぶと、余計にそれが対照的に映った。


「来たか。納得できる話を聞かせてもらえるんだよな?」


豪鳴はその太い声を静かに響かせ、自らが上であるという立場を誇示する。

対する阿斗里は表情を崩すことなく、きわめて明るい声で返すのだった。


「まあまあ、今日はもう日も暮れますので、話は明日の方がいいのでは?」


その何とも明るい声に気を抜かれたか、豪鳴は横の男に寝床への案内を指示する。

三人は軽く挨拶を交わした後、男の後につき寝床へ入ると、今日の所は休むことにした。


「相変わらず態度のでかい男ですな。全く気に入らん…。」


都留岐は豪鳴の態度がどうにも好かないらしくご機嫌斜め。

しかし、当の主はそんなものはどこ吹く風と、懐から麦餅を取り出し干し肉を挟んで食べ始めた。

それを見た都留岐も腹をさすった後、同じようにして食べ始める。

一方、何も口にする必要のない刀一郎は、二人に断りを入れた後、少し外へ出るのだった。



村を歩くと、腰に携えた刃渡り九十糎あろうかという片刃が珍しいのか、ジロジロと視線を感じる。

こうして歩いてみると、刀一郎が思っていたよりも村の規模は大きなものだ。

少なくとも村民が千以下ということは無いだろう。

物のやり取りは全てが物々交換であり、貨幣でのやり取りは見かけない。

恐らく、以前阿斗里が失敗した交渉というのが、これのことであろう。

歩いた限りでは飢えている者も見かけず、食糧事情も切迫しているというわけではなさそうだ。

確かにこれでは、新しい価値認識を浸透させるのは厳しいかもしれないと、刀一郎は思った。


「おお、波風。暴れてはおらんだろうな。駄目だぞ?よしよし。」


外に出た理由の一つである愛馬の様子の確認すると、自らも眠りにつくべく戻るのだった。





次の日、他の家よりも二周りは大きいであろう豪鳴宅で話し合いが行われた。

胡坐を掻いて座る豪鳴の後ろには、昨日の男達が腰の後ろに手を組んだ体勢で立ったまま控えている。


「で?採掘した銅その他の鉱石の五割、こっちの取り分ってことで良いのか?」


碌に挨拶もしないうちに、まずは一発と、眼光鋭く豪鳴がかます。


「いえいえ、それは流石に横暴が過ぎるというものでは?そもそも、そちらはあの鉱山自体の存在を知らなかったわけですし。」


阿斗里はこういう場に慣れているのか、相変わらずの明るい声。

その線の細さも相まって、見る者が見れば馬鹿にしているとさえ取られかねないだろう。


「そんなことは関係ねえ。場所を見れば一目瞭然、うちのもんだ。」


豪鳴は譲らない。

主張の理は飽くまでもこちらにあるのだと更に怒気を強める。

空気が少しだけひりついてきた。

それを感じ、刀一郎と都留岐もいつでも動ける様そっと体勢を整える。


「それを言われると困るなぁ。あ、話は変わるんですけど、そこの水路の水ってどこから引いてるんですか?」


阿斗里は変わらず明るい声で続ける。

一方、いきなり思いもしないことを問われた豪鳴は一瞬呆気に取られた。


「あ?ああ、あっちの山の方から引いてるが、それが何だってんだ?」


それを聞いた阿斗里は、何やら困ったような顔をする。

恐らく演技だろうが、中々に真に迫っていた。


「あ、やっぱりですか…だとしたら、不味いなぁ。」


「だからっ、何だってんだよっ!関係ねえ話で誤魔化してんじゃねえっ!」


怒声が響き、豪鳴の後ろに控える四人も前のめりのなる。

それに合わせ、刀一郎と都留岐も腰を上げる。


「あ、すみません。一つ伝え忘れていたことがありまして…」


「はぁ、いいから早く言え。」


「実はですね、鉱物にはかなり強い毒性があるらしく、扱いを間違えると近くの水源がその毒で侵されてしまうらしいんです。」


「何だとっ!?てめぇ、そんな大事な事、隠してやがったのかっ!」


長の怒声に反応したか、後ろの一人が剣を抜いた瞬間、



キンッ!



男の手に持つ剣は、根元から刃が断ち切られる。

何が起こったか分からず呆然とする男、その眼前には静かに白鬼を鞘へと収める刀一郎がいた。

白鬼の一閃が、銅で出来た一振りを事も無げに斬りおとしたのだ。

そのあまりの切れ味、そしてそれを振るいし者の速さに、場は静寂に包まれた。

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