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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第十六話 ズレ

刀一郎は音を立てぬよう、その影を感覚で捉えながら近付いていた。

その何者かは依然として一行に並走して歩んでいる様だ。

肉眼で捉えられる距離まで近づくと、筒状の何かを覗きこんでいるのが確認できる。

そして六間(11mくらい)ほどの間隔まで近づいた時、一気に駆け抜け距離を詰めた。


「止まれ…動けば斬る。其方は何者だ。」



見れば、丈の長い衣服に身を包んだいかにも町人といった感じの風体。

だが、刀一郎には分かっていた。

その立ち姿、足の運び方、詰め寄った時一瞬見せた鋭い眼光、それら全てが修練を積んだ証であると。

背中に白鬼を突き付け、注意深く観察していると、空気にそぐわない明るい声が響いた。


「もう~~、何なんですか~。私はただ野草を摘みに来ただけですよっ。お金なんてありませんからねっ!」


どうやら、野盗に襲われた民を装うつもりの様だ。

だが、そんな戯言を信じることなど出来るはずもなく詰問を続ける。


「ほう、では、どこに住んでいるというのだ?ここから一番近い村は今移住の真っ最中だぞ?」


そう問い質した瞬間、不審者の袖から何かが零れ落ちる。

それは丸い玉のようなもの。

刀一郎はそれが何か非常に不味いものであると判断し、咄嗟に飛びのいた。

すると、乾いた音と共に何かの異臭をまき散らす。

袖で呼吸口を塞ぎながら不審者の場所を探ると、何と既に五十間(90m)は向こうにいた。


「何とっ、くっ、追いかけねば!」


慌てて刀一郎も追いかけるが、相手の方が早く一行に距離が縮む気配はない。

問答に意味はないと判断してからの行動は、まさに見事というしかないだろう。

そして、最初から不測の事態に備えていたのだろう迷いのない走り姿と逃走経路。

只物であり得るはずがない。


「さて…どうするか。このまま追っても追い付けはしまい。これ以上皆から離れるのも不味いか…。」


刀一郎は追跡を断念して竜の元へと戻ることにした。

そしてかの者の影は遠ざかり、やがて感知圏内からも消えていくのだった。


「どうでした刀一郎さん?…その顔だと何かあったようですね。」


「ああ。こちらを観察している者がいた。あの身のこなしは只物ではない。」


「そんな者が…正体は取り敢えず置いておくとして、今は早く伊邪那に帰り着いた方が良さそうですね。」


頷きあうと、竜は本来の持ち場である集団の先頭へと戻っていった。

刀一郎は待たせていた相棒を撫で、一層警戒を強め辺りを探る。

しかし、それからは何事も起こることは無く、日も暮れた頃、何とか目的地が見えて来るのだった。


「皆さん、もう日も暮れますが、伊邪那村は目と鼻の先です。頑張りましょう!」


一行は、喜びと疲労から天を見上げて息を吐いた。

竜はその姿を眺め、足を止める者がいないか、はぐれた者はいないかを確認する。

更に念のため、村のまとめ役ともいえる者に確認してもらいながら、目的地へと進んでいった。

そして到着した時には、辺りは闇に包まれており、照らすのは隊の者たちが持つ篝火(かがりび)だけとなっていた。


「皆さん、お疲れ様でした。今日の所はあてがわれた場所で休んでください。食事も用意されていますので。」


竜の号令を皮切りに、隊の者達がそれぞれの人数に分け先導していく。

そして竜は、刀一郎のもとへと歩み寄る。


「刀一郎さん、先ほどの件、早めに阿斗里様に報告しておいた方がいいでしょう。」


そう言った後、連れだって阿斗里宅へと赴くのだった。

阿斗里宅へ着き戸を叩くと、静かな女性の声。

実質奥方と言っても差し支えない弥奈の声だ。

戸が開けられると、軽く一礼をし挨拶もそこそこに報告に移る。


「二人とも、今日はご苦労様でした。一日で来られるとは順調だったのですね。」


「道程自体は順調だったのですが…。」


竜の反応から何かがあったのだと察し、阿斗里の笑みが消え、長の顔を見せた。

そして起こったことを確認するべく視線で促し、耳を傾ける。

自分が語るより実際に見た刀一郎が適任と、竜は場を譲るように下がった。


「村を出て一刻ほどでしょうか、不審な気配を捉えまして接触いたしました。」


「不審な影?その反応だと賊の類ではなさそうだね。」


「はい、あれは賊などでは決してありません。かなりの手練れと見受けられました。」


報告を聞くにつれ、段々と阿斗里の顔が曇っていく。

恐らく、その正体について分かってしまったのだろう。

そして全てを聞き終わると、考え込むかの様に顎に手を当て目を瞑った。

僅かな静寂が包んだ後、阿斗里はゆっくりと口を開く。


「それは、皇国の間者でしょうね。しかし、一体どうやって情報をやり取りするつもりなのか…。」


どうやら考えていたのはその正体ではなく、得た情報の受け渡し手段の様だ。

遥か南方に位置するという皇国の中心、天津乃都(あまつのみやこ)

その方法に三人は頭を悩ませるのだった。


「どうぞ、お茶でございます。一旦一息入れてはいかがでしょうか。」


弥奈からお茶を差し出され、少し頭を冷やすべく口にする。

その時、刀一郎はあることを思い出して進言することにした。


「阿斗里、前から思っていたんだが、距離の認識について俺と皆にズレがある様なのだ。」


「ズレ…ですか。確かに、地方によっては一里の加減が違ってきますね。」


「え?そうなんですか?私はあまり気にしたことなかったですけど。」


「いや、実際かなりあるぞ。今日も十四里と言われたが、俺の感覚では十里あるかどうかだ。」


ウ~ンと唸った後、阿斗里が口を開く。


「では明日、距離の感覚だけではなく、時間の感覚についてもまとめて話し合おうかと思いますので、今日はこれくらいで。」

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