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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第十五話 何者かの影

「急いで来てもらった所申し訳ないんですが、準備は明日一杯かかりそうなんです。」


「そうなのか?では、明日はすることが特にないと?」


「我々は彼らを手伝ったり、村でのことを説明したりありますが、刀一郎さんは好きにされていても構いませんよ。」


どうやらそこまで急ぐ必要はなかったと知り、刀一郎は波風に済まない事をしたと思っていた。

そして考える。

明日は何をして過ごすべきかと。

住民の手伝いをするも良し、潮香る空気から海を尋ねるのもいいだろう。

そんなことを考えながら、隊の為に用意された空き家で眠りについた。



翌朝、近くの小川で顔を洗い村に戻ると皆は既に動き始めていた。

その為、刀一郎は己も何か手伝えることは無いかとうろうろするのだが、中々見つからない。

すると、村の中央辺りで何人かが集まり話し込んでいるのを見かけ近づいてみた。


「へぇ~、じゃあなんだい、これを使って麦やら家畜やらまで手に入るってのかい?」


「はい、逆に金子以外でのやり取りは禁じられていますのでご注意ください。」


どうやら、(たつ)が伊邪那村の仕組みについて説明をしている所の様だ。

集まっているのはすでに準備を終えた者達らしく、それ以外の者たちは一様に忙しくしている。

その仕組みについて完全に理解したとは言えない刀一郎も、同様に耳を傾けた。


「ですので、これまで通り畑を耕す者、何かを拵えて売る者等、様々な生業で暮らしている者がおります。」


「俺達はそごの海で取れだ魚を干物にして売りてえんだが、その場合、人さ頼んでこっから運んでもらってもいいんだが?」


「勿論、相手が納得する金子を払えば問題ありません。」


「塩も売れるべが。」


「ええ、貴重なものです。売れますよ。」


今までの暮らしからは一変する形に戸惑うかと思われたが、意外に順応できている様だ。

それ所か早くも、ならばあれはどうだこれはと村人の間で話し合われていた。

見れば比較的若い者が案を出し、それを噛み砕いて老人に説明するという形。

どうやら何となくではあるが、貨幣の存在自体は知っていたのだろう。

全体的に見て、比較的飲み込みは早いと言えた。


(新しきを取り込んだ若い者が、経験に優る老人に知恵を借りる、か。正しい形かもしれんな。)


その光景は、まるで国の縮図の様だと刀一郎には感じられた。

それぞれが持ちうるものを持ち合い、足りないものを補い合う。

こうして国が出来ていくのであろうと。

小さな集団の集まりという意味での、国という概念そのものを理解していない者も多い中、それを解する刀一郎はそんなことを思うのだった。

そして村を歩き、ふと視線は未だ行ったことのない海へと向けられた。



手持ち無沙汰になった刀一郎は、波風を連れ興味半分海へとやってきていた。

波が迫っては引き、それをまた繰り返す。

その不思議な光景に目を奪われながら、以前阿斗里に聞いた海の向こうへ思いを馳せる。

すると何とも不思議な感情が涌きあがってくるのだ。

人など簡単に飲み込んでしまいそうなこの波の向こうに、まだまだ広き世界があるという事実に。

一方波風はというと、何が楽しいのか砂に鼻を突っ込んでは巻き上げるということを繰り返している。

如何ほどそうしていただろうか。

見慣れぬ光景は、眺めているだけでも楽しいもの。

気付けば日が傾きつつあり、村へと戻ったのだが、何故か体がべたつく。


「はははっ、それは潮風に長い時間当たっていたからですね。小川で体を流してくるといいですよ。」


何とも面妖なものだと思いながら、刀一郎は近くの小川へと向かうのだった。



翌日早朝、村の者たちと隊の一行は続々と一つ所に集まっている。

大なり小なりの荷車を引き、荷物を抱え、一路新天地へと進むためだ。

足の悪い者などは隊の荷馬車に乗せ準備完了。

いざ出発と相成った。


(何も起こらぬとは思うが、一応周囲を見ておくか。)


刀一郎が歩くのは最後尾。

集団に速度を合わせる為、波風の手綱を引いて並走している。

そして、久方ぶりな気がする不可視の感知能力を周囲一帯へと飛ばす。

前方だけを注意するならそれなりの距離を飛ばせるのだが、周囲一体となればそうはいかない。

限界までやって三百間(540~550mくらい)が良い所だろう。


(今の所は特に何もない…か。)


一刻ほど進んだが、特に問題はなく進めている。

このまま何もなく行けるかに思われたが、その時感覚に何かが触れた。

進めば感知できる範囲も移動する。

その端っこに人らしきものが触れたのだ。

咄嗟にその先へと視線をやる。

それは太陽の沈みゆく方角、つまり西だ。

注意しながらもさらに一刻ほど進むが、その何かはまるで並走するかの様に一定の距離を保って付いてきていた。


(何だ?一人だけか…一体何者だ?)


不審に思っても離れる訳にもいかない為、思案していると、


「どうしました刀一郎さん。何かいるんですか?まさか野盗?」


先導していた竜が、部下から刀一郎の様子がおかしいことを聞き下がってきたのだ。


「いや、恐らく一人だけだ。野盗ではないだろう。」


「なるほど…刀一郎さん、様子を見てきてもらってよろしいですか?」


「いいのか?」


「はい。後ろには私が付きますので。」


「では頼む。距離はさほどなく、バレたくはない。波風も頼む。」


刀一郎は相棒の手綱を竜に握らせると、素早く重心を落とし身を伏せる。

そして草原の中でも比較的背の高い草で身を隠しながら、その何者かに向け歩み寄った。

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