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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第十四話 相棒

翌日、北門前にて。

昨日降り続いた雨も上がり、一安心といった所で刀一郎は伊助を訪ねる。


「む、待っていました刀一郎殿。阿斗里様より馬に乗れるか見てくれと仰せつかっております。」


そう語る伊助の手には手綱が握られていた。

この日の為に手入れされていたのか、その馬の鹿毛(茶系の毛色)は太陽に照らされつやつやと輝いている。

体高は四尺七寸(約140cm)もなくずんぐりむっくりとしており、中々愛らしいものだ。

挨拶の意味を込め首の辺りを撫でると、ブルルっと気持ちよさそうに鼻を鳴らす。

機嫌を確認した刀一郎は、早速(あぶみ)を踏み、跨ってみた。

すると、まさに体が覚えているといった感じに、慣れた手付きで馬を扱うことが出来るのだった。


「おお、流石は刀一郎殿。素晴らしい手並み。これなら心配なさそうですな。」


「この馬、名はないのか?」


「一応世話役は【波風(なみかぜ)】と呼んでいるようです。」


刀一郎は早速その名を呼びながら首を撫でる。

すると、波風はブルルルルッと大きく鼻を鳴らしその声に応えてくれる。

そんな愛らしい相棒に顔を緩ませていると、息を切らしてこちらに走って来る者があった。


「お~い、刀一郎!はぁ、はぁ、全く、こんな所まで走らせやがって・・。」


それは以前鞘作りを頼んであった鉄志であった。

手にはどうやら完成したらしい鞘を持っており、それを目にした時、刀一郎は大事なことに気付いてしまった。

払うべき金子を既に使ってしまった事実に。

内心不味いと思いながらも、ここは平謝りするよりほかはないと腹を括った。


「ほれ、頼まれもんだ。へへっ、いい出来だろ?」


馬を降りて受け取ると、木造りのそれは言うだけあり、自分の手作りとは比べ物にならない出来だった。

全身が黒々と輝き、余計な装飾は一切ない、例えるなら穢れ無き黒といった所か。

その漆黒が対する穢れ無き白をより際立たせ、更に美しさを増すのだろう。

これをほんの数日で拵えた所に、鉄志の腕の良さが伺えた。

同時に、これほどの物に対し対価を支払えない今、やはり受け取るわけにはいかないと鉄志の元へと戻すのだった。


「おいおい、せっかく作ったってのに・・。何?金がねえ?しょうがねえ奴だな・・。まあいい。後払いにしといてやるから持ってけ。」


鉄志は一度戻された自らの作品を刀一郎に手渡すと、顎をしゃくりさっさと収めてやれと促す。

刀一郎は多少の後ろめたさを感じつつも、ボロから白き一刀を抜き、美しき衣に着せ替えた。

すると心なしか、一瞬刀から喜びの感情を示す様な熱が発せられた気がした。


「作った俺が言うのもなんだが、似合ってやがる。・・所でよ、そんな大層なもんに銘がねえってのは頂けねえ。ここで付けちまわねえか?」


「それは良いですね。音に聞く山神より授かりし一振り。是非ふさわしき銘を。」


刀一郎は悩んだ。

銘などなくとも特に困らなかった手前、全く考えていなかったのだ。

そして振り返る。

今までこの一刀を振り為してきたことを、その常軌を逸した切れ味を。

それはまさに、持つものを鬼神へと変える珠玉の一刀といえよう。

そして閉じた目を開き、呟くようにその名を口にした。


「こいつの銘は……白鬼(しろおに)。」



刀一郎にはその威容を表す言葉を、それ以外に思いつかなかった。

美しく、それでいて鬼の様に恐ろしい神の一振りを示す言葉など。


「白鬼…か。へっ、朴念仁が考えたにちゃ上出来だ。」


「ええ、響きだけでも、この世の摂理さえ曲げる力の一端を感じる様であります。」


内心酷評の嵐でもおかしくないと思っていた刀一郎だったが、概ね受け入れられたようでほっと息をついた。

そして、いつまでもここでこうしている訳にもいかないと、出発することと相成った。


「北門を抜け、真っ直ぐ道なりに進めば目指す村に着くはずですので。では、お気を付けください。」


門が開き、未だ知らぬ地の空気が流れ込んでくる。

この先に新しい世界が広がっていると考えるだけで、刀一郎は胸が躍る。

そしてその興奮そのままに相棒である波風を走らせると、一路北へ向かった。

道は話に聞いていた通り平坦で、特に難所と呼べる場所もなく、順調に進むことが出来た。

伊助は十四里程と言っていたが、彼らの言う一里が刀一郎の認識とは違うことを考慮に入れると、今日中に着いてもおかしくはないだろう。

そう考え、愛馬を適度に休ませつつ走らせていると、それらしい家屋が並んだ場所が見えてきた。

辺りはすでに暗くなり始めていたが、塩の匂いがして海が近いことを匂わせる。

視線の先に見える村は、火が焚かれているのか意外に明るい。

真っ直ぐ進み、特に仕切りなどもない村の境界を踏み越えると、聞き覚えのある声がした。


「あ、来ましたね刀一郎さん。着くのは明日になると思っていましたけど早かったですね。」


声を掛けてきたのは、相変わらずの気の抜けた表情をした(たつ)だった。


「ああ、波風が頑張ってくれたお陰だ。どこかでゆっくり休ませてあげたいのだが。」


「それならばこちらへどうぞ。」


手綱を引き(うまや)へと連れて行くと、やっと休めると思ったのか波風は溜息の代わりか鼻を鳴らした。

飼い葉と水を与え労うと、隊の者が集まっているという場所へ案内される。


「皆さん、刀一郎さんが来てくれましたので、不測の事態が起こっても帰りの戦力は充分、いや、過剰と言ってもいいでしょう。」


一同から笑い声が上がる。

そんな暖かい空気の中促され、刀一郎も腰を下ろし明日に備えることにした。

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