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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第百四話 逃亡劇2

刀一郎は相も変わらず独特の臭いが立ち込める路地を駆けていた。

奇異の目を向けられながらも多少の余裕が出てくると、今度は他の者達が心配になってくる。

そこで考えた。

なるべく自分が今以上に目立ち、もっと兵の注意を引きつけたほうが良いのではと。

思い立ったが吉日、ボロ屋の脇を駆けスラム街を抜けると、ガチャガチャと音をさせて走り回るロメル軍の兵を背後から襲う。

次良から教わった通り淀みなく動き、続けざまに意識を刈り取っていき気付けばその数は二十を超えていた。

その際、一番の脅威となりそうな火筒は全て白鬼の一刀で根元から斬り捨てている。


『刀一郎、そろそろ頃合いだ。今度は百以上の集団ぞ。』


響く笛の音と同時、白姫からの忠告を受け刀一郎は今一度来た道を辿る。

例え百以上であろうとも負けるとは思わなかったが、民に巻き添えが出てはこの先大義を掲げられない。

そしてスラム街を駆けていると、何故か周りの者達が笑顔で大きな声を上げている。

意味は分からなかったが取り敢えずその声に応えながら走り、漸く町を抜けようという頃、視線の先には百を超える兵の姿が見える。

更に背後からは己を追ってくる、同じく大勢の兵。


「好都合だな。これだけの兵がここに集まっているのならば、他の皆も少しは楽になろう。」


『お前があれらの注意を一身に引き付けられるのなら、だがな。』


刀一郎は任せておけと言わんばかりに、ニヤリと笑みを浮かべた。

恐らくだが、次良はこれ以上の集団を相手取っているだろう。

そんな想像をしながら、ならば自分もと心に対抗心を芽生えさせるのだった。


▽▽


少し時は遡り、皇軍が散開しばらけた直後、次良は暫くその場でロメル軍の相手をし他の者達はそれぞれ直属の隊長と共に行動を始めた。

大体十人前後の集団になり、それを率いるのは十人隊長の役職にある者。

西側に向かうのは当然だが、皆が一方向に向かっては良い的である。

訓練の賜物だろうか、彼らは指示をされずともそれを理解しており、どの小隊も別々の路地を駆けだした。


「走れっ!とにかく走れっ!」


後ろからやってくる追っ手の姿は無い。

恐らくあそこにいた兵の大半は次良によって倒されているのだろう。

そうなれば増援が来るのも遅れ、逃げる猶予は充分にありそうだった。

その増援が次良の討伐に向かってくれれば尚有り難い。

百や二百、果ては千をもってしてもあの男を討つこと等出来る訳も無いのだから。

青井と沖村は次良を補佐しつつあらかたの兵が散開したのを確認し、文官連中が走り去った方へ駆け出す。

幼い頃から武を嗜んでいるとはいえ、流石に本職でない者をこの状況で孤立させる訳にもいかないとの判断だ。

走り去る全員の後ろ姿を確認した次良は、背に背負っていた天雷を手に持ち睨みを利かせた。

この男、ここまで緊迫した状況であるにも関わらずこれまで無手であったのだ。

そして国宝を手にした意味、その示す所は、


「ここからは戦だ。戦意ある者は向かい来るがいい。その全てを刈り取ってやろう・・・。」


当然の如く言葉は通じない。

しかしその体から発せられる殺気は、万人を等しく震え上がらせる。

天武官の覇気に呑まれたか、数百という男がひしめく空間にありながら一時の静寂が場を包んだ。

喧騒を聞きつけ続々と集まってくる増援達も、その異様な光景に暫し息を呑む。

その数は既に五百を超えていた。


(野次馬が邪魔だな。おい、何とか出来ねえか?)


『全くしょうがないのう。どれ、我が威光をもって散らしてやるとしよう。』


瞬間、丁度囲む兵と群衆の間を裂くように稲光が走った。

群衆はブスブスと焦げる石畳に顔を引き攣らせ、悲鳴を上げながら一目散に散っていく。


(ん?…何だあの女。)


蜘蛛の子が散る様に走り去る群衆の中で、微動だにしない者が一人。

それは美しい金色の髪をたなびかせ、足まで隠れる真っ赤な衣装を纏った女だった。


(なるほど、舐めるような視線の正体はあいつか。)


広場での騒ぎが起こってから、次良は常に異質な視線を感じていた。

それは敵意でもなく、恐れでもなく、例えるなら興味というべき視線。

だが、今はそんなことに気を取られている場合ではなく、次良は自らに迫りくる敵に目を向ける。

すると、目の前に広がる燦々たる光景に兵達の緊張も限界に達しようとしている所だった。

膠着を嫌ったか、それとも恐怖に負けたか、一人が引き金を引いたのを機に戦いの狼煙が上がる。

次良は当然射線から既に身を翻しており、広場中央の像を利用して立ち回ると集団との距離を詰め始めた。

一方ロメル軍は、始まってしまっては仕方がないと言わんばかりに次々に引き金を引くが、やけっぱち気味の兵達は次良の動きに翻弄されるばかり。

それ所か、囲んでいるのだから、当然外した鉛玉が向かう先には味方がいる。


「…ぁぁぁああっ!!」「…イディエットッ!!」「…ドンッシュ~トゥッ!!」


悲鳴、怒声、混乱から来る叫び声、様々な声が響く中、次良は己の為すべきことを淡々とこなす。

後のことを考え、命を奪うのは最小限に努めながらも流れる落葉の如き動きで次々に討ち取っていく。

するとロメル軍の兵達の中には、我先にと背を向け走り出す者も出始めた。

流石の次良もこれを追う余裕は無い。

まだまだこの広場には戦意を保った兵が残っており、増援もやってくるのだから。



広場から西、そこでは文官四人と青井、そして沖村が仲良く比較的綺麗な路地を駆けていた。

既に半刻以上は走り続けている為、伊吹を含めた文官たちは流石に顎を上に向けて疲れを見せている。

まあ、文官がここまで走れるだけでも賞賛を送らざるを得ないと思うのだが。


「沖村、そろそろ休むぞ。伊吹さん達が限界だ。」


「はぁっ、はぁっ、そうっすね。俺も結構きついっす。」


疲れを見せ始めた沖村に対し、青井は涼しい顔をしている。

隊長があれであるのだから、並みの体力でその補佐は務まるものではないのだろう。


「はぁ~~っ、はぁ~~っ…異国の…街並み…もっとゆっくり……見たかった。うぷっ!」


どこにいようと見た目で目立つので最早隠れる気もないのか、一行は堂々と広めの道を歩く。

そんな中、伊吹を含めた文官達は残念そうに辺りを見回していた。


「大丈夫ですよ。すぐに片が付いて観光出来るようになりますから。」


「片が付いて…と言いますが、そんなに簡単に行くものでしょうか…」


「大丈夫です。この状況は見越していたことでもあるので。順調かは分かりませんが、道筋通りではあります。」


まさか今の状況が予定通りだとは思っていなかった伊吹は流石に驚いたが、事ここにありては信じるしかなく笑みを浮かべて頷くのだった。

そして人混みを見つけると紛れるように割って入り、路地裏へと消えていった。

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