隣の芝生は青い〜ねこみみ娘の悩み〜
リコは鏡に映る獣人らしい猫耳を眺めて溜息を吐く。今では珍しいその特徴はペタンと萎れて頭についている。
大昔の獣人よりヒトに似た現代の獣人達の見た目はヒトと同じだ。しかし獣人国では時々先祖返りというもので耳や尻尾が生えた子が生まれてくる。私の猫耳はその先祖返りというものだった。
妹たちのような姿が良かったと考えながら日課である耳と尻尾の手入れをした。
私はかなりのお嬢様で婚約者が居る。その婚約者は常に私の耳や尻尾を見ては眉を寄せている。妹たちを見る目とは違うその鋭い眼差しにいつか婚約破棄を言い渡されるのではないかと不安だ。
お父様に相談すると「安心しなさい。彼はお前のことを嫌ってはいないよ。むしろ…いや本人から聞きなさい」といつも同じ言葉をかけられる。不安は全く拭えなかった。
今日は遠いところから度々来てくれる婚約者とのお茶会だ。いつもの様にお母様と妹たちと一緒にだ。みんなが居ると安心する。鋭い視線を受けるのは精神的に辛い。
「あなた達お庭を散歩していらっしゃい。金蓮花がすごく綺麗に咲いてるのよ」
「え…」
お母様の提案にどうしたらいいのか頭をぐるぐる回していると彼は席を立った。
「是非そうさせていただきます。さあ、リコさん行こう」
「うっ…はい」
スッと差し出された手を掴みゆっくりと2人で庭の方へと歩き出す。ちらりと振り返るとお母様はニヤニヤしながら、妹たちは無邪気に手を振っていた。
我が家の庭は金蓮花やカモミールといった獣人に害のない花だけを植えてある庭は年中花が咲いている自慢の庭だ。
初めての2人きりで私は緊張していた。
「素朴でしょう?」
「いやそんな事はない。なによりこの庭は動物に害のない花ばかりじゃないか。素敵な庭だよ」
植えてある花の特徴に気づいているとは思わなかった。自慢の庭を褒められて嬉しくなった。顔の筋肉が緩むと彼は顔を強張らせて右手を動かしてその右手を左手で止めたりと変な動きをし始めた。
「フレデリク様、どうかなされたのですか?」
「い、いや…なんでもないのだ、あっ」
私が話しかけて邪魔をしたのか、彼の右手は左手の阻止を破り私の頭上目掛けて飛んできた。ビックリして目を瞑るとふわりふわりと優しく撫でられているのを感じた。
「かわいい…毛並みも良くてもふもふしている」
か、かわいい?一体何が起きたのだとそっと目を開けてみると、うっとりと惚けた顔をした彼が目の前にいた。
ドキンと胸が高鳴った。