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Girls In The Showtime  作者: アベンゼン
7/57

類推


北アイルランドは現在もブリテン王国に編入されている。


政情はしばしば不安定になり、特に主要都市のベルファストでは断続的な戦闘が続いている。


特にこの三名が訪れた際のベルファストは混沌としていた。発展した大都市のあちこちに武装した治安部隊がうろうろしており、前触れなく銃撃戦が発生することもあった。


端的に言って、内戦状態だったのである。


そんな最中、ある拠点に非常に重要な戦略兵器が持ち込まれたという情報がリークされた。

「特A級の情報漏洩」であり「非常に信憑性の高いものである」ということを様々なハッカーや情報アナリストが裏付けた。


サクラやローズが情報を収集するSNS「Multiple Use of Disorder」、通称「MUD」は厳密な審査制のクローズドシステムであったので、リークはごく限定的な範囲に留まっていた。


兵器が持ち込まれたという施設はこのベルファストのほぼど真ん中に存在した。海が見える見晴らしのいい土地だ。造船所や雑貨製造工場が並ぶ一角に、その建物は存在している。

この施設は生命工学研究所として立ち上げられたが、しばらく後に内戦のため閉鎖に追い込まれている。戦略拠点となったのはその後だ。


「まあ、予想した通りね」


三キロほど離れた場所、川沿いのホテルで三名は食事にありついている。


ローズとサクラは人目を引くドレスではなく、スポーツウェアとジーンズにスニーカーという出で立ちだ。ただし、それぞれ緋色と白というコンセプト・カラーは守っている。四十二番は地味なジャージを着込んでいた。


周囲にはほとんど人はいなかった。無理もない。丸腰で歩ける状況ではないのだ。街の店はほとんど閉まっていたが、このホテルだけは生きていた――英国調のこきどった内装で、手入れは良く行き届いている。


ローズは分厚いTボーン・ステーキ、サクラは焼き魚をそれぞれ注文した。四十二番に運ばれてきたハンバーガーとポテトは写真よりもはるかに大きかった。


「あのう」


両手にあまる巨大なハンバーガーを持ったまま、怪訝そうに四十二番が尋ねた。


「何が見えるんですか?」


サクラが答えた。


「ドールはこれくらいの距離と遮蔽物なら『見える』のよ、トゥルーズ。貴方も記憶を取り戻せば、そのつぶらな目に内蔵されている秘密にきっと驚くわ」


ローズは手元を見ないで肉を切り分けるという器用な食べ方をしていた。相当食べなれているのだろう。動きに無駄がない。


「西側に十四名、南側に九名。思ったよりもはるかに手薄ではあるけど――北は交通が封鎖されていて、東は川。どうしたものかしらね」


サクラは焼き魚にあまり納得していなかった。日本の焼き魚、というメニューだったのだが、出てきたのはどう見ても白身魚のソテーだったからだ。ソースは醤油を使用しているようではある。


「これだけ情勢が悪化しているのだから、こうして不測の事態に備えているのね――トゥルーズ」


「は、はい」


呼ばれ慣れないな、と思いながら四十二番は返事をした。


「貴方なら、どうする?」


興味深いとばかりにサクラが覗き込んでくる。四十二番は戸惑った。二人なら既に突破策を思いついているはずだと思ったからだった。


「いいえ。貴方の思っているほど私たちは万能ではないわ。失敗することも迷うこともあるのよ」


四十二番は考えた。手元のハンバーガーを眺めて、しばらく後に答えた。


「えっ、と、一番手薄なところ? から入る、とか――」


「トゥルーズ、それはどこかしら」


ローズが間髪入れずに訊いた。四十二番は戸惑いながら答える。


「西と南は、人がたくさんいて、北は封鎖されているから、東、ですか?」


ローズの目の色が変わった。


「どうしてそう思ったの?」


「ええと――」


特に理由はなかった。なんとなくそんな気がしたからだ。


「思ったままを言えばいいのよ」


サクラが優しく声をかけてくれたので、四十二番は改めてゆっくりと話し始めた。


「川、があるとは思うんですけど、多分、反対側にも建物ってありますよね? そうしたら、そこから入れるかな、なんて」


言っていて支離滅裂だな、と四十二番は思っていた。笑ってごまかそうと思ったが、それよりも早くローズがテーブルを叩いた。ガチャン、と食器が揺れる。四十二番は身を縮こまらせた。


「ご、ごめんなさ――」


「ユリイカ! 貴方って素敵だわ、トゥルーズ!」


ローズの目は明るく燃えていた。


「早速、始めましょう!」


言うや、ローズは手元の肉の残りのまだ大きな欠片をひと呑みした。小さな体から想像もできないような大きな一口だった。


「えっ、えっ」


四十二番はさらに戸惑った。


「そうですね、お姉様――善は急ぎましょう。失礼、コーヒーを持ってきて頂戴」


サクラはいつの間にか魚料理を平らげていて、近くのウエイターに声をかけた。


「お手柄よ、トゥルーズ。おそらく私たちは、拠点の中に入れるわ」


サクラまで嬉しそうだった。何が何だか分からない四十二番は、ハンバーガーを持ったまま身を縮こまらせていた。




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