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Girls In The Showtime  作者: アベンゼン
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 四十二番は口を開けたまま、三人の姿を見つめていた。


 花火のような明るい閃光が何度も何度も四十二番を照らした。時折舞い散るバラや桜やシロツメクサの花びらが上空に広がった。


 さっきまであんなにひどく絶望していたのに、と、四十二番は嘘のような、吹き飛ばされたような感覚でいた。


 三人は楽しんでいた。


 四十二番が見立てそこなった戦況を迷いなく戦い抜き、躊躇なくキラードローンの弾幕と対峙し、あの巨大な意味不明の怪物を前にして全く恐れていない。


 まるでいつも彼女たちが立っているステージと変わらない、最高のパフォーマンスのためのお膳立てだったと、そう宣言するかのように。


 いつかサクラが語ったのを、四十二番は思い出した。


 何よりも恐れるべきなのは、自分が自分でないまま消えてしまうことだと。


 何かになるために、自分であるための戦いに赴くとき、何一つ恐れることはないのだと。


 彼女たちはとうとう手にしたのだ――自らと、誰かのために戦える場所と、理由を。


 四十二番の隣で、この戦いを全世界に配信し続ける勇敢な男がいた。


 リッキーである。


 リッキーはスマートデバイスを構えて、ぶるぶると震えている。


 それでもなんとか、その撮影を止めなかった。


 配信のことを察知したのはごく一部の人間だけだった。


 しかし遠く離れたマンチェスターから、この配信を熱狂的に見守っている者たちもいた。


 リッキーには、今目の前で起こっていることが何なのか、理解は出来ていなかった。


 しかし、ひとつだけハッキリしていることがあると理解していた。


「これまでになかった事件が起きている」。それだけが彼の現実的な感覚であった。


 後に彼の配信は動画として有志から公開され、空前のバズを引き起こすことになる――。


 ガールズが歌いながら、巨大な正体不明の生物と斬り結ぶ、その雄姿である。



***************************************************************



 呆然と、オフィスでうなだれる男が居る。


 男の横顔を、まぶしい夕日が殴った。


 彼、ジェレミーは、それ以上の活動の一切を拒否していた。




 ――負けた。




 完璧だと思った計画は倒れた。ガールズは完全に包囲できていたはずだ。


 デバイスの無力化は完了していたはずだった。しかし、デバイスは起動し、当局が投下したミームフォームはことごとく返り討ちに遭った。


 彼は既に確認していなかったが、ガールズは激しい戦闘を一通り終えると姿をくらませた。


 最早起こってしまったこと、そしてそれは取り返しのつかないことだ――彼に分かる唯一の事実である。


 インシデントである。フラワーズの生死は最早関心事ではない。世界の軍事勢力地図が書き換わる瞬間がやってきたのだ。


 しかしもう何の気力も残っていなかったジェレミーは、このように繰り返すだけだった。


(どうして、こんなことに――)


 連絡のつかないフィールド氏も、安否は絶望的だった。


 そんな彼のオフィスに、人影が現れた。


 三名の、フォーマルなスーツに身を包んだ男たちである。


 真ん中の男は、隠す様子もなく、拳銃をジェレミーに向けている。


「任務、ご苦労だったな」


 男は静かにそう告げた。それはすなわち、ジェレミーの命運がここまでであることを端的に示していた。


 ジェレミーはうらめしそうに男を見上げる。男は眉ひとつ動かさない。


「第五世代、量産に一番向いているモデルで、命令には忠実だ――」


 ジェレミーは独り言のようにつぶやいた。


「俺の、偉大なる開発成果のひとつだ」


 男は、いや、アンドロイドは答えない。


「今更だが、お前らがもう少し優秀だったら、俺は今頃こんな汚い仕事をせずに済んだんだ――あの、トキガヤが来るまでは、全ては身の程を弁えた技術開発だった」


 ジェレミーの呪詛は続くが、アンドロイドが向けた銃口はピクリとも動かない。


「まさか、トキガヤの作品にまんまと一杯食わされて、自分の作品に殺されることになるとはな――」


ジェレミーの声は段々と小さく、力を失っていく。


「なぜあのガキが、四十二番という個体識別番号を占拠していたか、分かるか?」


「無駄なおしゃべりはやめておけ。より大きな苦しみがお前を迎えるぞ」


アンドロイドがそう冷酷に告げる。


しかし、ジェレミーはそれを無視して続けた。


「ああ、モンスーンには都合の悪い事実かもしれないな。あのガキが、トキガヤにそっくりだなんて――」


甲高い、軽い銃声だった。


ジェレミーの声は途切れ、後には静寂が訪れる。


ジェレミーは自席で首をガックリと垂れ、二度と動くことはない。


その足元に、アンドロイドが銃を置く。


「対象の生命活動停止を確認――任務完了を報告します」


アンドロイドがそう告げる。





これが、この一連の事件の中で、モンスーン社のスタッフが唯一完遂した任務であった。





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