硬直
シャムロックの曲が終わり、サクラが入れ替わりに再登場した
シンセサイザーの扇情的なメロディが流れ始める。
アーミースタイルだ。迷彩を効果的に取り入れた衣装で静かにサクラが歩いていく。
エレクトロミュージックで多用される丸みを帯びた電子ドラムのビートが場を繋いでいる。
それに合わせ、ステージのサクラとそれを取り巻く少女たちが全く同じ動きで踊り始める。
両端の少女が手榴弾を中央へ転がした。スモークを焚くための小道具だった。
そして全員が携えているライフル型の小道具を取り回してパフォーマンスする。
歌いだしのサクラの声はかなり低く、普段の彼女の歌声とはかなり異なっていた。
それがその場でサンプリングされ、切り刻まれ、まるで呪文のようなミステリアスなコーラスとなる。
非常に統制の取れたパフォーマンスだった。
バックダンサーとサクラの動きは精密に一致しており、動と静の差がハッキリしたソリッドなダンスだった。
サビの瞬間、サクラの声は二オクターブも上昇した。
ロングトーンで発せられ、バックダンサーの重厚なコーラスに支えられたこの音の壁は、実際に吹いた風のように圧力を持って観客を襲った。
一気にブーストされたベースラインで、フロアは一気に沸き立つ。
サクラが満足そうに笑い、このダンスチューンもまた、強烈な興奮のうちに進んでいく。
ここまで、ステージには何の問題もなかった。
サクラのソロが終わると、ローズが登場した。サクラとハイタッチすると、意気揚々とステージ中央へ踊りだした。
しかし、曲が始まろうというときに、大きなノイズが発生した。
ローズのマイクが機能していない。バンドたちの音も、全て止まってしまっている。
ステージ上でローズが辺りを見回すのを見て、観客はそれが演出でないことを悟る。
そして、スピーカーから別の音声が流れてきた。
女性の声だった。
照明が落ちる。
真っ暗になったステージで、モニターが薄暗くついている。
女性の声が大きくなっていく。
観客がざわつきはじめた。
モニターに何かが映し出された――観客のざわめきがより大きくなっていく。
悲鳴のような声が上がる。笑い声のようなものも上がる。
モニターを背にして立っていたローズは、振り返ることが出来なかった。
何が今そこに映し出されているか、分かってしまった。
流れている音声は紛れもなく、ローズ自身のものだった。
ローズの記憶にないその声は、媚びに満ちた、情けない、ひどく下劣なものであった。
ローズは動くのをやめた。
観客もざわめくのをやめ、やがて、会場に静寂が訪れる。
自らの、前所有者の元にいた頃のあらゆる写真が映し出されているモニターの前で、ローズは完全に立ち尽くした。
ちょっと病気してて若干更新遅れました。
なんとか最後までいけるよう頑張ります。