偽装
ビビットカラーのビームライトが舞うフロアに、ローズ、サクラ、シャムロックは降り立った。
あまり大きくないクラブだった。しかしオーディエンスは収容キャパシティを大きく超えて詰めかけていた。腹を打つキック・ドラムが等間隔でなり響いている。ギラギラとあちこちが光り輝いている。
トップレスの女性がかなりいた――あたり構わずキスをしている男女もいる。男同士や女同士でしている者もいる。
三人の登場に、フロアが沸き立った。期待に満ちた歓声だ。MCが叫ぶ。
「お待ちかねの――コールド・リップスの登場だ!」
ローズは緋色のドレスで、サクラは白と黒と薄桃のドレスで、シャムロックは緑のドレスで現れた。いずれも頭に、それぞれの花をかたどったヘッドドレスを飾っている。
ローズが手を挙げると、オーディエンスも揃って手を挙げた。熱狂的な声が飛んだ。ローズは優雅な笑みで応えた。
「アホね」
ローズはそのままの表情でつぶやいた。
「仕方ありませんわ。所詮アーティストの顔なんてあまり覚えられていないのかもしれませんわね」
「嫌だなあ。僕は覚えていてもらいたいなあ」
サクラとシャムロックも愛想よく手を振った。
本物の「コールド・リップス」は舞台裏で両手両足を拘束されて転がされている。
「あのう、リッキーさん」
「はい?」
「これ、大丈夫でしょうか?」
リッキーはにっこり笑った。
「大丈夫です。彼らも実は替え玉だったので、彼女たちで三代目なんですよ」
四十二番は苦笑いした。拘束された三人はそれなりに可愛いというくらいの容姿で、あの三人とまるで似てもいない。口はガムテープで覆われているが、どれも諦めたような、呆れたような表情だった。
「まあ、ローズさんから口止め料なり何なり貰うと良いですよ」
リッキーが言うと、今度は抜け目なく目をギョロギョロと動かし始めた。現金な連中だ。
フロアから爆発的な歓声が聞こえてくる。酩酊した状態で彼女たちのパフォーマンスを楽しめるのは、一種の天国かもしれない。
三人はきっと有名になる。そんな気がした。しかしその向こうに何が待っているだろうか?
「リッキーさん――これから私たち、どうなるんでしょう?」
「おや、トゥルーズさん。僕たちは運命共同体ですよ。彼女たちを全世界が追い求める最高のディーヴァにするのが使命だ。一緒にベストを尽くしましょう」
リッキーが真っ白な歯を見せて笑った。