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Girls In The Showtime  作者: アベンゼン
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提携

既に、何故かそのオフィスの社長室の椅子を、ローズが陣取っていた。


脇に立っているのはサクラで、正面に立っているのが恐らくは、この部屋の元々の持ち主に違いない。黒い肌で、細身のカジュアルスーツに身を包んだ、若くて気の優しそうな男だった。


「こちらリッキーよ。今私たちの帰属を巡って交渉中」


ローズが男を示して言った。


「えーっと、どういう状況なんでしょう」


四十二番はサクラに尋ねた。


「そうね、そんなに難しいことではないわ。私たちに声をかけてきたのはこのリッキーの方よ。話があるというからわざわざ赴いてあげたのだけれど、思っていたよりも資金に困っているようだったから協力してあげようかしらと相談していたところよ」


主従逆転とはまさにこのことだ。そもそもこの二人を従えようなんて土台無理なのかもしれないと四十二番は思った。


「協力してあげるのは良いんだけど、僕たちはこの人と何をするの?」


「それを今から訊くところよ。リッキー、貴方は私たちに何が出来るのかしら」


「はい、僕らは世界各国のライブハウスや放送局やロックフェスティバルなどにパイプがあります。番組やライブへの出演を手配できます」


生真面目な答えだった。


「あの、そんなにかしこまらなくてもいいと思うんです」


「良いのよ、だって私たちのお金よ?」


四十二番の進言をローズは退けた。


リッキーは生真面目な調子を崩さずに続けた。


「ローズさんのおっしゃる通りのところもあって、恥ずかしながら、僕らは今資金に困っています。僕らの出来ることとローズさんの資金力を掛け合わせれば、コーチェラ・フェスのヘッドライナーだって夢ではありません」


「ええと――僕たちは何になるんだろう」


「決まってるでしょ」


シャムロックの問いに、ローズがきっぱりと答えた。


「アイドルよ」


サクラがうなずいた。


「アイドルのプロデュースなら任せてください。僕らには実績があります。最近では――」


「ちょ、ちょっと待って!」


四十二番が思わず制止した。話がとんとん進み過ぎだ!


「私、歌えないし踊れないです」


「何言ってるの、貴方にそれは期待してないわ」


ローズが驚いて言った。そうハッキリ言われるとそれはそれで四十二番には傷つくものがあった。

「貴方はマネージャーよ」


サクラが手を胸の前で合わせた。サクラのよく取る動きだ。


「そうだわ、貴方はマネージャーに最適だわ。素敵よ、トゥルーズ」


「で、でも、それとローズやサクラの目的って」


「噛み合わなくはないわ。トゥルーズ、今度は私の作戦よ」


ローズが人差し指をぴん、と立てた。


「〝彼ら〟に近づくのに、こちらから近付けると思う?」


ローズが言った。〝彼ら〟というのは、彼女たちの元所有者のことだった。


四十二番は考えたが分からなかった。


「そうでしょう? 貴方が考えて分からないならそれは無理ということだわ。何せ、相手が誰か分からない。それに、少なくともどこかの国で指折りのお金持ちよ。セキュリティも堅ければ、パイプはごく限られているわ」


ローズの考えは正しかった。こちらがいくら一騎当千でも、相手が分からないのでは戦いようがない。それならおびき出そうと言うのだ。


「まず私たちは旧式で、世にはあっていいはずのない存在でしょう? それがスターダムをのしあがって行ったら、〝彼ら〟はどう思うでしょうね?」


目障りに思うに違いなかった。わざわざ記憶を消してまで廃棄しようとしたアンドロイドがメディアで取り上げられる。何らかのアクションがあるのは間違いなかった。


リスクは決して小さくはないが――ローズは恐らくそれも織り込み済みだ。たとえ彼女は、軍隊を敵に回してでも直接の対峙を望むだろう。


「あの、ローズ。思ったより全然良い計画だと思いました」


「なんというか、トゥルーズはこの間で随分はっきりものを言うようになったわね。私好みでとても良いわよ」


ローズがにんまりと笑った。


「でもそもそもリッキーは良いの? 僕たち身元不明のアンドロイドだけどさ」


シャムロックの問いに、リッキーは笑って答えた。


「僕は母親に女手一つで育てられましたが、その母親は連合政府軍に殺されたんです。別にアンドロイドに手を貸すなんて、今さらどうということはないですね」


真っ白の歯だった。そっか、とシャムロックは納得したようだった。


「ではリッキー。契約書でも何でも持ってきなさい。それから」


ローズは立ち上がった。


「すぐにライブハウスでもクラブでも、ブッキングして頂戴。どんなステージでも踏むわ」


またローズに、歪んだ楽しそうな笑みが浮かんでいた。


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