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Girls In The Showtime  作者: アベンゼン
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夕凪

丸一日の休息ののち、四名は動き出した。


ニューヨーク・マンハッタンでまず四名が取り掛かったのは、手当たり次第に服を買い漁るということだった。


名のあるブランドの本店がいくつも並んでいる街だ。歩いていく人ももちろんトレンドの最先端を行く者ばかりで、四名はとにかく無心に、望む服飾を手に入れるためにあちこちを歩き続けた。


ローズとサクラの服の買い方には明確な差があった。


ローズは気に入ったものをとにかくたくさん購入した。手に取ったものは残らず購入したのだ。対してサクラはひとつの買い物に時間をかけた。しかしそれはひとつの商品に悩み続けるということではない。どうやらサクラの頭の中に、理想の服というものが確固としてあるようなのだ。そしてそれに全く譲歩をしない。


試着できるものは全てして、出来ないものは全て購入した。結果、ローズに負けず劣らず大量の服が重なることになった。


あっという間に荷物がいっぱいになったので、ホテルへ全て配送させることになった。それでもやはり足りない。結局四名はスイートルームを四つも借りることになってしまった。


四十二番とシャムロックの二人はしばらくローズとサクラに付き合っていたが、あまりの浪費ぶりに目が回ったので、別行動としてカフェに退避することになった。


無尽蔵の財産を有しているらしいローズとサクラとは違い、シャムロックと四十二番には所持金らしい所持金はない。


四十二番はエッグベネディクトをつついていた。シャムロックは長い名前でキャラメルの入った甘いカフェオレの一種をゆっくりと飲んでいた。


そう高くないビルの半分外になったテラス席で、ふたりは慌ただしい街並みを眺めていた。シャムロックは緑色のゆったりとしたジャケットとセーターとスキニーパンツ、四十二番はアーミースタイルのトップスにスカートとサルエルパンツの間のようなボトムスを着ていた。全て高額な正規品だ。もちろん見立てたのはそれぞれサクラとローズだった。


四十二番は、シャムロックと一緒に行動するうち、かなり親しい言葉で話すようになっていた。


「なんか、疲れちゃったね」


シャムロックがため息交じりにいった。


「トゥルーズ、それおいしい?」


「うん。なんかすごく上品な味がするよ」


シャムロックが口を開けた。くれということらしい。四十二番がエッグベネディクトを切り分けて放り込んであげた。


「うん、うん」


美味しい、ということらしい。シャムロックは幸せそうにご飯を食べるので、四十二番はちょっと気持ちが軽くなったような気がした。


「どうしたの」


「ううん、何でもない」


シャムロックはマグカップを傾けた。これも美味しそうに飲んでいる。


「トゥルーズはさ」


「うん」


「どうしてローズやサクラと一緒にいるの?」


難しい質問だった。四十二番が一番知りたいことかも知れなかった。彼女たちのような万能で無敵の美貌の持ち主が、どうして自分のようなものを気に入るのかはあまりよく分からなかった。


「何だろう――私はあの人たちを最後まで見届けたいって思ってるんだけど、なんか私自分の記憶もないし」


「あ、トゥルーズも自分の記憶ないんだっけ」


四十二番はこくりとうなずいた。


「多分だけど、サクラの記憶と私の記憶ってどこかで繋がってる気がしてて、少なくともそれが分かるまでは一緒にいると思う」


「そっかあ、何かすごいね、結構先かもしれないよねそれ」


感心したようにシャムロックが言った。確かに自分やサクラの記憶が戻ってくるまでにどれくらいかかるかは想像もつかなかった。


「三人とも、なんかブレなくていいよね。僕、あんまり自分のこと分からないんだよ。情けないしすぐ泣くし、でも時々凄く冷たいし、どれが本当の自分なのか分かんない」


「それは、私もそうだよ」


四十二番も、自分が本当はどう振舞うべき人間なのか分からずに戸惑っていた。記憶がないということが、自分の行動のひとつひとつに大きな影を落とすのだ。これまでどう選択してきたか、分からなかったからだ。


「そっか、まあそうだよね」


シャムロックも、サクラと同じように四十二番の心の中を読み取ってくれるようだった。四十二番は安心した。言葉にしなくていいのは楽でいい。


「でもさ、読まれたくない感情もあるでしょ?」


「いや、なんていうか、三人とも私より全然凄いから、読まれたくないとかは思わないかも」


「へえ、やっぱトゥルーズってすごいよ」


「そうかなあ」


「そうだよ」


よく分からないな、と四十二番が思っていると、机の上に置いていたスマートデバイスが鳴った。サクラからだった。


はぐれては困るからと、サクラが二人に買ってくれたのだ。


『ご機嫌いかが?』


「カフェでまったりしてます」


『ちょっと野暮用というか、やることが出来たわ』


サクラはあるスクエアの一角を指定した。


「それって何なの?」


シャムロックが尋ねた。


『大したところではないんだけど、潰れかけの芸能事務所ってとこね』


よろしく、と手短な別れの挨拶があって電話は切れた。


シャムロックは肩をすくめた。


「僕、もうちょっとゆっくりしたいんだけどなあ」


「仕方ないよ。夜また話そうよ」


「いいね。じゃ、いこっか」


二人は立ち上がった。



マンハッタンに夕暮れが迫っている。ネオンや街灯やデジタルサイネージが踊る、世界の真ん中の都市だ。しかし二人には、夕飯に何が食べられるかの方が大事かもしれない。


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