生存
NOTIS:対象の消失を確認/災害レベル不明
ORDER:続行/
NOTIS:対象の特定が完了していません/続行しますか?/
ORDER:続行/クソ/
REPLY:モニターを続行します/対象の特定が完了次第判定を開始します/
ORDER:どこへ消えやがった/まだデバイスは起動していないはずだ/
NOTIS:ORDERの形式が不明です/ORDERはプロトコルに従って入力してください
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「肝を冷やしたわね。まさか何も起きないとは思っていなかったわ」
四名はパブにやってきていた。賑やかなフィドルの音色が場を盛り上げている。
「例の『戦略兵器』の線はガセ、せっかく持って帰った得物も特に他のものと変わらないなんてね」
サクラはふてくされたような口調で呟いた。
「また不用意ね、サクラ。今回はトゥルーズとこのシャムロックに感謝なさい」
ローズが腕組み、椅子に深くもたれたまま、含み笑いで応えた。
その背後で景気の良い笑い声があがった。サクラは明らかに不機嫌である。
「でもお姉様。今回はお姉様も」
「サクラ。まずは自分のことをしっかりと反省なさい。人のことはそれから」
「ま、まあまあ」
四十二番が口論になりそうな二人を制した。サクラは少しだけ不満そうだったが、ローズはいたずらっぽく笑っている。
四名は夜を徹して国境を越えた。北アイルランドに留まっていると危険だったが、国境を越えればおいそれと追及は出来ない。特に、北アイルランドと南アイルランドの間は非常に厳重なハードボーダーになっている。
というのも、国境付近には両国の厳しい検閲が設けられていたのである。主要なルートは鉄条網と高い壁ではっきりと分断されており、検閲には長い車と人の列が出来ていた――四人は、この壁を文字通りの「跳躍で」乗り越えた。
ただし、行くあては特になかった。首都のダブリンに向けた道は軒並み封鎖されている。この国は先の戦争で大きな損害を被っていて、まだ十分に機能を回復しきれていないのだ。
四名の前には湯気の立つ料理がいくつも並んでいる。シチュー、蒸しポテト、シェパーズパイ、ローズが熱望したラム肉のグリル、フィッシュアンドチップス、半熟のチーズオムレツ。
そしてジョッキにはなみなみと黒いビールが注がれている。四名は乾杯をし、食事を始めた。
今日の反省会と、手にしたささやかな追加兵装と、何故か音楽の話になり、サクラが唐突にローズに謝り、ローズもサクラに謝り、サクラはローズに自分がいかにローズを慕っているかを語り、四十二番は苦笑いし、四名のこれからについても話が及んだ。笑いの絶えない、楽しい晩餐だった。
酒が進んだ。ドールも酩酊する。ほとんど口を開かなかったシャムロックが口を開いた。
「ジャガイモの炒め物が食べたいです」
一同は顔を見合わせた。ローズがフィッシュアンドチップスを勧めたが、これは却下された。
「あの、炒めたやつがいいんです」
シャムロックの白い肌がやや紅潮している。うつむいている。とにかく注文することになった。ほどなくして料理が運ばれてくる。
シャムロックはその炒め物をじっと見つめて、泣き始めた。
「あら、まずいわ。ご希望に添わなかったかしら?」
シャムロックは大きく首を振った。とりわけ用の大匙でジャガイモをひとすくい、口へ運んだ。そして咀嚼しながら、大粒の涙をいくつもいくつも流した。
「うう、ううう」
「呑みこんでからにしましょう。話ならいくらでも聞いてあげますから」
四十二番が諭すと、シャムロックは幾度かうなずいて、咀嚼し、飲み込んだ。
シャムロックは、しばらく涙をぽろぽろと流して黙っていたが、それを拭うと、静かに身の上話を始めた。
「僕は君たちが察する通り、フラワーズのひとりだけど――出荷する前に、盗まれたんだ」
〈盗まれた花〉(ストールン・フラワー)というモデルがいることは、サクラとローズも知っていた。だが、ほとんどが捕縛されて廃棄されたと聞いていたのだ。
「良く生きていたわね」
感心したようにローズが呟いた。
「長いこと、身分を隠して生きていたんだ。この国の首都、ダブリンで」
「そこでは何をしていたんですか?」
シャムロックは顔を伏せて、暗い面持ちで応えた。
「歌って、踊って、おいしいものを食べて、それで――」
シャムロックは身の上を語り始めた。
「盗まれた」ときの記憶はなかったが、出来る限り詳細に語った。彼女が、どこへ行き、どこへ身を隠し、誰と、どう生きてきたか。