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Girls In The Showtime  作者: アベンゼン
12/57

生存


NOTIS:対象の消失を確認/災害レベル不明


ORDER:続行/


NOTIS:対象の特定が完了していません/続行しますか?/


ORDER:続行/クソ/


REPLY:モニターを続行します/対象の特定が完了次第判定を開始します/


ORDER:どこへ消えやがった/まだデバイスは起動していないはずだ/


NOTIS:ORDERの形式が不明です/ORDERはプロトコルに従って入力してください



******************************************************************************




「肝を冷やしたわね。まさか何も起きないとは思っていなかったわ」


四名はパブにやってきていた。賑やかなフィドルの音色が場を盛り上げている。


「例の『戦略兵器』の線はガセ、せっかく持って帰った得物も特に他のものと変わらないなんてね」


サクラはふてくされたような口調で呟いた。


「また不用意ね、サクラ。今回はトゥルーズとこのシャムロックに感謝なさい」


ローズが腕組み、椅子に深くもたれたまま、含み笑いで応えた。


その背後で景気の良い笑い声があがった。サクラは明らかに不機嫌である。


「でもお姉様。今回はお姉様も」


「サクラ。まずは自分のことをしっかりと反省なさい。人のことはそれから」


「ま、まあまあ」


四十二番が口論になりそうな二人を制した。サクラは少しだけ不満そうだったが、ローズはいたずらっぽく笑っている。


四名は夜を徹して国境を越えた。北アイルランドに留まっていると危険だったが、国境を越えればおいそれと追及は出来ない。特に、北アイルランドと南アイルランドの間は非常に厳重なハードボーダーになっている。


というのも、国境付近には両国の厳しい検閲が設けられていたのである。主要なルートは鉄条網と高い壁ではっきりと分断されており、検閲には長い車と人の列が出来ていた――四人は、この壁を文字通りの「跳躍で」乗り越えた。


ただし、行くあては特になかった。首都のダブリンに向けた道は軒並み封鎖されている。この国は先の戦争で大きな損害を被っていて、まだ十分に機能を回復しきれていないのだ。



四名の前には湯気の立つ料理がいくつも並んでいる。シチュー、蒸しポテト、シェパーズパイ、ローズが熱望したラム肉のグリル、フィッシュアンドチップス、半熟のチーズオムレツ。


そしてジョッキにはなみなみと黒いビールが注がれている。四名は乾杯をし、食事を始めた。


今日の反省会と、手にしたささやかな追加兵装と、何故か音楽の話になり、サクラが唐突にローズに謝り、ローズもサクラに謝り、サクラはローズに自分がいかにローズを慕っているかを語り、四十二番は苦笑いし、四名のこれからについても話が及んだ。笑いの絶えない、楽しい晩餐だった。




酒が進んだ。ドールも酩酊する。ほとんど口を開かなかったシャムロックが口を開いた。


「ジャガイモの炒め物が食べたいです」


一同は顔を見合わせた。ローズがフィッシュアンドチップスを勧めたが、これは却下された。


「あの、炒めたやつがいいんです」


シャムロックの白い肌がやや紅潮している。うつむいている。とにかく注文することになった。ほどなくして料理が運ばれてくる。


シャムロックはその炒め物をじっと見つめて、泣き始めた。


「あら、まずいわ。ご希望に添わなかったかしら?」


シャムロックは大きく首を振った。とりわけ用の大匙でジャガイモをひとすくい、口へ運んだ。そして咀嚼しながら、大粒の涙をいくつもいくつも流した。


「うう、ううう」


「呑みこんでからにしましょう。話ならいくらでも聞いてあげますから」


四十二番が諭すと、シャムロックは幾度かうなずいて、咀嚼し、飲み込んだ。


シャムロックは、しばらく涙をぽろぽろと流して黙っていたが、それを拭うと、静かに身の上話を始めた。


「僕は君たちが察する通り、フラワーズのひとりだけど――出荷する前に、盗まれたんだ」


〈盗まれた花〉(ストールン・フラワー)というモデルがいることは、サクラとローズも知っていた。だが、ほとんどが捕縛されて廃棄されたと聞いていたのだ。


「良く生きていたわね」


感心したようにローズが呟いた。


「長いこと、身分を隠して生きていたんだ。この国の首都、ダブリンで」


「そこでは何をしていたんですか?」


シャムロックは顔を伏せて、暗い面持ちで応えた。


「歌って、踊って、おいしいものを食べて、それで――」


シャムロックは身の上を語り始めた。


「盗まれた」ときの記憶はなかったが、出来る限り詳細に語った。彼女が、どこへ行き、どこへ身を隠し、誰と、どう生きてきたか。




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