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Girls In The Showtime  作者: アベンゼン
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白花


かくしてドールは拘束され、部屋の中から大量の銃器や刀剣の類が発見された。



ただ残念ながら、そこに「戦略兵器」といったようなものは存在しなかった。そもそも三人はそれがどんなものか、見つけたとして運搬可能かということも特に確認しないままここにやってきたのだが――結果として「戦略兵器を盗み出す」という目的自体は達成できずに終わりそうだった。



その代わりに、ローズは真新しいサブマンシンガン、サクラは脇差程度の刀を手に入れた。


「妙に手に馴染む不思議な銃ね、しかもメーカーや型番も不明なんて――」


しかしそれらも、彼女たちが目したところの「特A級の機密」とは程遠い代物である。恐らくは軍用で、それなりに良いものであることを二人は確認したが、落胆の色は隠せない。


サクラは拘束したドールをじっと見つめてから、うなずいた。


「思い出しましたわ、お姉様。フラワーズの中には出荷前に欠番になっているモデルがいくつかあると」

そのドールは名を「シャムロック」といった。サクラとローズが敵対勢力でないと知ると、途端に抵抗の色を無くし、素直に質疑に応じた。傷の回復力には目を見張るものがあった。さっき空いた銃創が既に塞がりかかっている。


シャムロックは、丸一日この戦略拠点で拘束されていたということだった。彼女は無謀にも、単身でこの拠点への襲撃を試みたということだった――その経緯を説明するシャムロックから、底知れない憎悪の念がにじみ出ていた。


「君たちは、連合政府軍の応援部隊じゃないの?」


「いいえ。私たちは他所から来たの。連合政府軍がこの拠点に何の用かしら?」


シャムロックが目を丸くした。


「君たち、抗争と関係ないの?」


「あまりきちんと把握していないわ。いつだって問題が起きる時には、まず持てる者が持たざる者から奪う、というところから始まることくらいは分かっているつもりよ」


ローズは膝を立てて座っている。サブマシンガンを床に立てて、頬杖のようにした。


「貴方、なぜここにいるの?」


シャムロックは信じられないという様子だった。


「関係のない抗争に首を突っ込んで、しかも抗争には興味がないだなんて――」


そして口をつぐみ、うつむいて言葉を切った。


サクラが優しく語りかける。


「私たちは貴方と相反する立場ではないはずよ。少しずつで構わないから、貴方のことを聞かせて頂戴」

シャムロックは顔を上げた。血飛沫を受けたままの顔で、何か必死に懇願するようにローズを見つめた。何も言わない。


「では質問を変えるわ。貴方は、貴方が此度楯突いた連中、あるいは貴方の元所有者を、どうしたい?」


シャムロックはぐっ、と奥歯をかみしめたように見えた。そして絞り出すように言った。


「僕の所有者、というのが、僕を作った奴、ということなら、そいつを探し出したい――そして、この手で殺したい」


サクラはそれを見てうなずいた。ローズが立ち上がる。


「十分よ。身の上話なんて、いつだって出来るわ。私たちの利害は恐らく共通している――それに」


サイレンの音が近づいてきていた。おそらく増援が来る。


「早くここから出なくてはね。サクラ、脱出の手立ては?」


サクラは肩をすくめた。


「分かっているでしょう、お姉様? 真っ直ぐに通り抜けるだけよ」


そして手に携えていた脇差を抜いた。


ローズも、頬杖代わりにしていた真新しいサブマシンガンを手に取った。


「シャムロック、と言ったわね? この得物も、その短剣みたいに素敵な拡張機能があるのかしら?」


シャムロックがへたり込んでいる傍らには、先程彼女が振り回していた短剣が置かれている。


シャムロックはかぶりをふった。


「分からないんだ。僕はあの部屋で、君たちのその武器と一緒に転がされていたんだけど。この短剣を持ったら、なんだか気持ちが落ち着いて、連中が僕に銃を向けたときにはもう、こんな風に“機能”していたんだ」


ローズはため息をついた。


「良いわ。ぶつかってみたら何か分かるでしょう」


言うや、破壊されている手近な窓から飛び降りた。ローズがこれに続く。


四十二番は驚いて下を覗き込んだ。二人が地面で受け身を取っているのが見える。向こう側からいくつも車が走ってくる。マズい。四十二番の懐にはまだグレネードが二つ残っていた。


慌てて階段の方へ駆けだした。すると、背後からシャムロックが四十二番へ声をかけた。


「あの!」


四十二番は振り返った。シャムロックはへたり込んだままだった。


「君たちの目的は、何――?」


四十二番は一瞬考えを巡らせて、答えた。


「あの、分かりません! でも、サクラと、ローズは、楽しいことが全てだと言っていました!」


そしてその場でお辞儀をして、また駆けだした。


シャムロックはその後ろ姿を、ぼうっと見送った。




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