初めての吸血
吸血鬼が人間と相容れない理由は何だろう。そんなものは決まっている。吸血鬼は人間の血を吸う。それだけのことで、と思う者もいるだろう。しかし、人間にとっては血を吸われるということは死に直結してしまうこともあるだろう。
僕が今、ぶち当たっている問題は僕に血が吸えるのか、というものだ。吸血鬼とは恐ろしい。深夜のコンビニの定員さんがここまで美味しそうに見えてしまっているのだから。吸血鬼は人を食料や眷属作りの素材としか考えられないのである。
「どうした、食わないのか」
ブラッドが僕を急かしている。
「む、無理だ」
僕は消え入りそうな声でそう言った。
「食わなければ死ぬぞ」
「でも」
「でもも、くそもない早くしろ」
ブラッドからお叱りを受けてしまった。ようは人間を馬、牛、豚と同じように考えれば良いということなのか。いや、違うだろ。
「何か、他に方法は?」
「……はあ、お前どんだけ血、吸うの嫌なんだよ」
ブラッドは深いため息をついた。
「理由は何だ?」
「僕が血を吸ったらあの人も吸血鬼になっちゃうだろ」
「それだけのことか」
「悪いか」
「ああ、そう言うことか」
ブラッドは少し言いにくそうにしながら、
「ちょっと、伝え忘れていたんだが、眷属を作るときと、食事をするときでは全然違うからな」
「どういうことだ?」
「食事と思って吸えば、吸血鬼にはならない」
「それを、最初に言え」
「忘れてたんだよ」
ブラッドとそんな話をした後、僕は覚悟を決めた。
「吸血鬼がとても良いのはカメラにその姿が映らないことだ」
「吸血鬼は首に噛みついて吸血をするわけだが、安心しろ今回は足でいい」
「痛みに関しては、吸血鬼の唾液と隠密性を信じろ」
吸血鬼の唾液には、痛みを和らげる作用と傷を治す作用がある。
僕はコンビニの定員さんの足元にそろりと近づいて、噛みついた。
「吸血するのは少しで良いんだそれだけで当分生きていける」
僕はその言葉を信じて定員さんの足に噛みついた。美味い。これは美味いな。僕は人の血を美味いと感じてしまっているのだ。なんということだろう。そんな罪悪感も血の美味さに消えていった。
血を吸い続ける訳にはいかないので僕は定員さんから血を吸うのをやめた。
定員さんは何をされたのか分かっていないようだ。しかし、足をさすっていた。
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