プロローグ
周りは静まり返っていた。その中で聞こえるのは走る足音と荒い息づかい。どちらとも僕のものだ。
一体どれくらい逃げたのだろう。僕とは別の足音が迫ってくる。さも、僕のことなど走ることではないというようにゆっくりとしたリズムだ。実際、僕は運動不足のため早足とほぼ同じくらいの速度しか出せないでいた。
「なあ、そろそろ遊びはやめようぜ」
図太い男声でそう言われた。僕はそれに答えを返すことができずにいた。肥満体の僕の身体は走ると息が上がってしまうからだ。
「早く、吸わせろ」
男は僕に向かってそう言った。男が少しずつ近づいてきているのがわかる。男は瞳が赤い。そして街灯に照らされているにも関わらず影がない。吸血鬼である。吸血鬼という言葉を聞いて良い印象を抱く者はいないだろう。人の血液を搾り取る西洋の妖怪。不老不死たる人間の敵。
「な、何で、僕を、狙うんだ??」
僕は必死に声をだし、吸血鬼に問いかけた。
「ちょっと、眷属が欲しくてな」
吸血鬼は淡々とそう答えた。
吸血鬼は僕の首に噛みついた。牙が突き立てられる。不思議と痛みはなかった。どんどん吸血されていくのが分かった。視界がぼやけていき、そして僕は意識を失った。
僕は吸血鬼になった。
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